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初代

サーキットを、朱い朝日が照らす。

コースの周りは遮蔽物が少なく、陽光をそのまま直接浴びることができる。


黄味がかった白の砂漠と、エメラルドグリーンの海。

その中間に位置するのがここ。

アブダビグランプリが開催される、ヤス・マリーナサーキットなのだ。







「『俺はどっちかと言うと決勝よりも予選の方が緊張するんですよね』」


「『言わんとしてることは分かるよ。グリッドが決まっちゃえばある程度楽になるもんね』」


「『…上位スタートなら、最悪後ろを抑えることに注力すれば良いしな』」


そんな話をしている3人の頭に、ふとある男の顔が思い浮かんだ。


「『…あのヒト最後尾から優勝しましたケド。』」


「『…ルイスは勘定に入れてはダメだ。』」


「『…ほんとバケモン。』」


沈黙する3人。

短く息をつくと、ジャンニが瀬名に問いかけた。


「『瀬名、ぼくがなんでプレシーズンテストの時に声をかけたか覚えてる?』」


「『ルイスを倒すため、でしたっけ?』」


「『そう。だけど、それともう一つ理由があるんだ。』」


ジャンニは指を一本立てる。


「『もう一つの理由は、ぼく自身が後悔しないためだ。』」


二本目の指を立てると、身体を瀬名の方へ向ける。


「『このシーズンは重要なものになると、ぼくの中の何かが告げていた。そんな中、窓際でルイスを見つめるキミを見つけたんだ。』」


彼のキャリアは長く、もうそろそろベテランの域に差し掛かろうというところだった。

そんな時に、直感的に感じるものがあった。


「『あの時、なぜか無性に声をかけなきゃいけない気がした。かけなきゃ後悔すると思ったんだ。キミだけが視界の中でハッキリ見えた。』」


「『あれ、俺口説かれてます?』」


「『真面目な話だぞ!…でも、ある意味そうかもしんない。』」


頭ごなしに否定できるわけでもないと思う。


「『キミは元あったF1の何もかもをぶち壊す、力量と人脈があった。そして、それはF1界やモータースポーツ界が生まれ変わるために必要なものなんだ。』」


新時代のさきがけとなる、選ばれし者。


「『1年しかキミの走りを見られないのは残念だけど、この1年でキミは充分すぎる働きをした。』」


そして。


「『キミの最後の仕事は、ルイスを倒すことだ。どうか、F1に混沌とした戦国時代を連れてきてほしい。』」


ジャンニは、そう締めくくった。







ルイスや瀬名といった上位常連組はQ1、Q2を危なげなく突破。

勝負はQ3へともつれ込むことになる。


『『次、出るぞ。瀬名、いけるか?』』


「『Copy。準備OKです』」


アクセルに足をかけ、エンジン回転数を上げていく。

今までの全てを、このアタックに懸けろ。


『『よし、ゴーサインが出た。暴れてこい、瀬名。』』


音速を超え、光の速さで。








ヤス・マリーナサーキットは長いストレートが3本ある高速コース。

直角の1コーナーを曲がった先には、高速のS字カーブがある。


アウトラップ、タイヤを温めながら順調にクリアしていく。


先に出ていたドライバーたちが次々とタイムを出す。


現状トップタイムはジャンニ・ルクレールの1分27秒336。

ターゲットタイムが明確になった。


テクニカルな後半セクションを抜け、アタックラップへ。


さあ、気合を入れろ。

勝負はもうとっくに始まっているんだ。








山梨県、大月市。

モニターにのめり込むように見入る少年がいた。


「裕毅~?もう少し画面から目を離しなさ~い?目が悪くなったらF1に乗れなくなっちゃうわよ~」


その画面には、猛然と走る白と朱色のマシンが大きく映し出されている。

母親の言葉を受けて裕毅は少しだけ身を引く。


このマシンをドライブしている者が、ついこの間会ったばかりの人だとは思えない。

でも、実際そうなんだ。


今までになかったことを、いくつもやってのけた。


日本人初の2位だって、開幕戦でやっちゃった。

第4戦には優勝した。

そして、今はワールドチャンピオンを懸けて戦ってる。


デビュー初年度のワールドチャンピオンになったとしたら、史上初めてだ。


『日本』とかそんなんじゃない。


史上初めてなんだ。


彼の弟子だからとか、そんなの関係ない。

1人のモータースポーツファンとして、彼を応援したい。


『セクター1、全体ベスト!!!なんと、なんと現在トップのジャンニルクレールから更に0.5秒速い!!!』


すごい。

本当にすごいよ。


『ロングストレートが2本連なるセクター2を駆けていく!!!ジャンニとの差は0.7秒に広がった!!!』


肌の感覚で、頬に涙が伝ったのが分かった。

でも、これが感動によるものなのか、画面を長時間まばたき無しで見ていたからのものなのか分からない。


『最終セクション、テクニカルなセクター3を抜ける!タイムは…!!!』


手のひらが湿ってる。

鳥肌も立ってる。


瀬名さん、貴方は…。


『1分26秒268だぁぁぁッ!!!圧倒的なタイムで暫定のトップ!やはり、やはりこの男!二代目アイルトン・セナが、その本領を発揮した!!!』


実況さん、それは違うよ。



瀬名さんは、二代目のアイルトン・セナじゃない。

初代・伏見瀬名、なんだよ。


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― 新着の感想 ―
裕毅くんは瀬名くんのことを、誇らしくもあり憧れでもあり尊敬とか色んな感情がいっぱいの「大好き」なんだと思います。 そんな裕毅くんに負けないくらいの気持ちで私も瀬名くんのラストレースを応援したいと思いま…
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