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教え

開幕戦、バーレーン。


『ここは、俺にやらせてほしいってだけです…!』

『『行くぞ、3台で!!!』』

『DRS、起動!!!』


ルイス・ウィルソン:25ポイント

伏見瀬名     :18ポイント



第4戦、日本。


『くっ…凄えプレッシャーだ…!』

『『セナの…亡霊…!』』

『バケモノは、お互い様だろ?』


ルイス・ウィルソン:94ポイント

伏見瀬名     :80ポイント



第12戦、ベルギー。


『『…速いな。ルイスがついていけていない。』』

『『くッ…無理だ…制御できない…!!!』』

『『これは…『セナ足』だ。』』


ルイス・ウィルソン:202.5ポイント

伏見瀬名     :199.5ポイント



第18戦、ブラジル。


『『待っていろ、すぐに行く。』』

『『…そう簡単に、抜かせはしない。』』

『『…いるぞ!!!真後ろに!!!』』

『激活的DRS…!』


ルイス・ウィルソン:293.5ポイント

伏見瀬名     :312.5ポイント



そして。

最終戦、アブダビ。




ルイス・ウィルソン:369.5ポイント

伏見瀬名     :369.5ポイント





ワールドチャンピオン。


その称号に王手をかけたのは、2人のドライバー。

しかし、勝者はただ1人。


伝説のドライバーか。

あるいはこれから伝説となるドライバーか。


黒地に青のマシンか。

白地に赤のマシンか。


イギリスか。

日本か。


決戦の日は、もうすぐそこまで迫っている。








ドライバーたちは、また中東の地に帰ってきていた。


バーレーンから南東に430キロ。

アラブ首長国連邦・アブダビ。


プライベートジェットのタラップを、サングラスをした男たちが軽やかに降りてくる。

もう12月だというのに、やっぱりこの辺りは暑いくらいだ。


「『乾燥してるな…瀬名、ハンドクリーム持ってない?』」


「『んなオシャレなもの持ってないです』」


「『言うほどオシャレか…???』」


傍から見ればアスリート体形のサングラス集団であるため威圧感があるが、会話の内容は平和そのもの。


「『じゃあ、俺はここから別行動だ。すまんな。』」


「『ああ、()()()()()ね。そっか、もう最終戦か。』」


「『…レース後にまた会おう。』」


キャリーバッグをガラガラと引いていくルイスを、手を振って見送った。

その姿が見えなくなると、ジャンニとカレルはゆっくり手を下ろして驚いたように言う。


「『…ルイス、緊張しているな。』」


「『ああ、あんな彼は初めて見たよ』」


5年以上ルイスと同業をやっている2人からしても、意外なことだった。


「『そうなんですか?全く分かりませんでした』」


「『そりゃ、キミにはわからないようにしてるでしょ。』」


「『…緊張の原因は、恐らく瀬名なのだからな。』」


同点。

最終戦。

8度目のワールドチャンピオンが懸かった最終戦。


自らのワンミスでそれがするりと手から零れ落ちていく恐怖。

ルイスほどのドライバーでも、経験したことのない状況。


「『それに対して、瀬名はあんまり緊張してるようには見えないね』」


「『…鋼のハートの持ち主か。誇っていいと思うぞ』」


瀬名はそれを聞くと、予想外の返事をする。


「『そうですか?じゃあ予選日までには緊張できるようにします』」


「「『…なんて?』」」


瀬名は、あの教えを思い出していた。

緊張というものは…。


「『緊張ってのは、デバフじゃないんですよ。そう、俺の師匠が言ってました』」


緊張は、ある一点を超えるとバフへと転じる。


適度な緊張ではない。

過度な緊張だ。


過呼吸になり、嘔吐し。

その先。


その先に、至高の領域は存在するのだ。

それが、京一の教えだ。


「『…面白い事を教える先生だな。ぜひお会いしてみたいものだ』」


「『ね。いい考え方だよ。そう考えることでちょっと気持ちも楽になるもんね』」


瀬名は一瞬言葉に詰まったが、続く言葉はすぐに出てきた。


「『いいですよ。次に日本に行ったときにでも、会いに行きましょう。』」







東京都内某所。


とある寺の境内。

その一角には、小さな墓地がある。

墓地の一番奥。


その墓は今日も新しい生花が手向けられている。

ザッザッと砂利を踏みしめる音がする。


境内に1人の女性がお参りに来た。


「あれっ。前に誰か来てたのかな?もうお花供えられてるじゃん。」


花束を抱えたその女性は線香を取り出すとそれに火をつけた。


「この花どうしようかな…ごめん、文字隠れちゃうけどここに立てかけとくわ。」


苦笑しながら墓石に花を寄りかからせる。

そして、空いた両手を合わせて旧友に語りかける。


「久しぶりになっちゃってごめん。色々忙しくてさ。」


それまで意図的に隠していた左手の甲を、じゃーんと墓石に見せる。


「私、プロポーズされちゃったよ。」


苦笑は晴れやかな笑顔へと変わった。


「もう残ってるのは最終戦だけだけど、どうか瀬名くんをよろしくね、京一。」


亜紀の周囲に、一陣の風が吹いた。


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― 新着の感想 ―
光岡大の尊敬する天才レーサー、京一さんは本当に本当にすごい人でした!! 瀬名くんにとっての先輩であり師匠でもあり……。 そんな京一さんの教えがこのラストレースの前に思いだされて、胸がいっぱいです(*´…
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