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ホームパーティー

「『お、ガレージの物色はもういいのか?』」


「『ああ。いいもん見させてもらったよ』」


瀬名はガレージを後にし、ルイスのいるキッチンの方へ向かった。


「『なあ、アレ乗ったことあるのか?』」


アレとは、もちろんAMG ONEのこと。


「『流石に普段使いでは乗らんさ。サーキットで一度だけ走らせたことがある』」


「『もったいねえな。くれよ』」


「『いやだね』」


作業をするルイスの手元を覗き込みながらジョークを飛ばす瀬名。

ルイスはそれに笑顔で返す。


「『これは何を作ってるんだ?』」


「『簡単なオードブルだ。流石にメインディッシュを20人+アルファ分作るのは無理だからデリバリーするが…』」


「『ふーん…よし。』」


なにやら瀬名は腕まくりをすると。


「『ルイス、俺もなにか一品作っていいか?こう見えて料理は得意なんだ』」


「『いいね。冷蔵庫にあるものなら好きに使ってくれ』」


家主の許可を得た。

この家はルイスがシーズン中で留守にする間、ルイスの家族の別荘として管理されている。

ルイスは毎年この時期にF1ドライバーを集めてホームパーティーを行うため、家族が食料を調達しておいてくれるのだ。


「『…おいルイス、こんなものどこで手に入れたんだよ』」


1つの食材が瀬名の目に留まった。


「『ああ、それは日本グランプリの時に買ったんだ。TAKENOKO…だったか?こっちじゃ滅多に見ないし、土産にと思ってな。』」


それはタケノコの水煮であった。


「『…よし。これ使っていいか?』」


「『おお、本場の人が作ってくれれば間違いないだろう。よろしく頼む』」





~SENA’Sキッチン~


さあ始まりましたSENA’Sキッチンのコーナーでございますけれどもね。ええ。

本日はゲストにF1チャンピオンのルイス・ウィルソンさんにお越しいただいております。


「『ゲストのルイスです(一応ノッてくれる寛大なチャンピオン)』」


ルイスさんは隣で別の料理を作っているので、その片手間でコメントをいただこうと思います。

さて、今回作るのは簡単で美味しい、タケノコの炒め物です。


本当に簡単にできるので、皆さん真似してみてください。

今回は大人数に振舞うので大量に仕込む必要がありますが、皆さんも作りやすい量のレシピをお教えします。


「『親切だな』」



1、サラダ油大さじ1にすりごまを入れて熱し、香りを移します。


  この工程はごま油を使えばやらなくて済みます。

  「『イギリスにごま油はない。すまん。』」

  日本の皆さんはごま油を使ってください。


2、タケノコ300gを炒め、砂糖と酒を各大さじ1ずつ加えます。


3、醤油大さじ1と小さじ2を加えます。


  ここでワンポイント。

  鍋肌に醤油を当てて焦がし醤油にすると、香り高くなりますよ。

  「『いい匂いがしてきたな』」


4、基本的にはこれで完成です。


  お好みでごまや七味唐辛子を振ってお召し上がりください。






「『できた。』」


「『素晴らしい手際だったな』」


自分もオードブルを完成させたルイスが拍手を送る。


「『よくよく考えたら西洋風のおしゃれ空間に日本の居酒屋がポツンと佇んでるな。なんかごめん』」


「『たまにはそういうのも良いだろう。毎年似たようなメニューでみんな飽き飽きしてるだろうしな。』」


瀬名とルイスは配膳を進める。

長いテーブルが置かれたダイニングから、窓の外を何気なく見てみると。


「『…何をしてるのあの人たちは』」


「『…気にするな。毎年なんだ。』」


2人の目線の先には、家の敷地内のプールではしゃぎまわるジャンニとカレルがいた。

まだ、4月である。






そうこうしているうちに日は落ち、続々とルイスの家に人が集まってきた。

瀬名たち4人は席について、やってくる人々と言葉を交わす。


「『ジャンニくん、ルイスさん今年もお招きありがとね~』」


「『気にすんなって、パーティーには華があった方がいいだろ?』」


「『ジャンニ、それ俺が言ったセリフ…』」


見るからに陽キャ女子と言った具合のギャル集団が到着した。

心なしかジャンニはカッコつけようと頑張っているように見える。


順調に席は埋まっていき、残すところはあと一人。

最後に家に到着したのは、この男だった。


「『げ。なんでコイツの隣しか空いてねえんだよ…』」


「『よく来たな、周』」


一席だけ空いた、瀬名の隣。

その席を見て、周冠英は顔をしかめる。


「『よく来たなじゃねえよ!…おいルイス席代わってくれよぉ…』」


「『ハハハ。いやだね。』」


「『仲良くしようぜ、周~!!!』」


「『触んな!!!』」


肩を組もうとした瀬名の腕を、周は振り払う。

この席の配置は、瀬名が提案したものだった。

やっぱり、チームメイトと仲が悪いのは寂しいよねと思ってのことだ。





「『瀬名くんだよね?日本グランプリ観たよ~』」


「『あたしも!めっちゃカッコよかった!』」


なぜか瀬名は、海外女子人気が高かった。


「『お嬢さんがた、瀬名は結婚を約束した人がいるからな。狙っちゃダメだぞ』」


すかさずルイスが釘を差す。


「『え!そうなの!?ちょっと~、ジャンニくん先に言っておいてよ!彼のフィアンセに恨み持たれたらどうすんのさ!』」


隣に座ったジャンニをバシバシと叩くギャル。

必死で宥めるジャンニ。


騒がしい対面に対して、静かな隣。

1人黙々と飯を食う周。


「『周、キミが今食べてるその炒め物は瀬名が作ったんだぜ。』」


ルイスのその言葉に、周は動きを止める。

暫し停止したのち、咀嚼してタケノコを飲み込む。


瀬名が見つめる中、周は俯いて呟いた。


「『…うめェよ。』」


人類皆、舌には嘘を付けないのである。


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― 新着の感想 ―
タケノコ料理がすごく美味しそう!これはぜひ作って食べてみたい!!(*'ω'*) 瀬名くんは周さんと歩み寄ろうとしてるけど、まだまだ周さんのほうはそんな気持ちにはなれてなかったんですよね……でも美味しい…
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