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プロポーズ

「YESSSS!!!Foooo!!!」


すっかり英語に染まった雄叫びを上げる瀬名。


左フロントタイヤを無くしたマシンは、よろよろとホームストレート脇の芝生エリアに止まった。

そして、マシンが停止した場所はグランドスタンド前。


瀬名コールのど真ん中だった。


瀬名はシートベルトを外し、コックピットの上に立つ。

ヘルメットを脱ぎ、観客に自らの顔を見せる。


その光景は、瀬名にとって天国であった。

観客の声は留まることを知らず大きくなり続ける。


両手を広げ、目を閉じる。

歓声を浴び、味わう。


「…瀬名くーん…!!!」


歓声の中から、1つだけはっきりと言葉が聞こえた気がした。

目をゆっくり開けると、瀬名は観客席のとある一席だけを指差した。


「…亜紀さん、勝ったぜ。」


その小さな口の動きが、カメラに映ることはなかった。







ロッカールーム。

鍵付きのロッカーに、更にチェーンで固定された箱がある。


「よし。ちゃんとあるな…中身も無事だ。」


その箱を瀬名は取り出し、ロッカールームを出ていく。

箱の中身は、もちろん指輪。


2人の誕生石をあしらった、特注の指輪である。

その宝石は大きすぎてゴテゴテすることがないように、サイズ調整がされている。


亜紀の華奢な指に合うように、と瀬名が宝石店に注文をしたのだった。





亜紀との待ち合わせ場所に着いた。


が。

なにやら近くの物陰でゴソゴソ音がしている。


「『(ほら、あんまデカい音立てると瀬名にバレるだろ!)』」


「『(…2人の会話は翻訳してくれるのだよな?…タクマ氏。)』」


「『(多分バレたら一番ボコられるのオレなんすけど?お二人さん、初対面でするお願いじゃなくないですか?)』」


あの野郎ども…。

瀬名がこめかみに青筋を立てて眉をピクピクさせていると。


「あ、いたいた!瀬名くーん!!!」


視界に入るなり、小走りでこちらに向かってくる亜紀。


「優勝おめでとう!でも、いいの?もうすぐ表彰式でしょ?」


「ありがとうございます。でも、その前に大事な話があるんです。」


ピンと来ていない表情の亜紀。

どう切り出そうかと思案していると。


「『(大事な話があるんですって言ってる)』」


「『(おっしゃ、そこだ!行け!抱け!!!)』」


いい加減にイライラしてきた。


だが、それによって瀬名の中で何かが吹っ切れた。

瀬名は軍隊かと思うほどのキレで、片膝をつく。


このシーズンが終われば俺はあなたと一緒に居られる、だとか。

あなたとこれからも一緒に居たい、だとか。


色んな言葉が浮かんだ。


でも。


「なんかもう、ウジウジ長ったらしい言葉を言うつもりはないです。そんなの俺らしくないですから」


ポケットからリングケースをバッと取り出し、亜紀にもしっかり見える高さで開ける。

その眼差しは、しっかりと亜紀の目を見据えていた。


「俺と、結婚してください!!!」


亜紀の頭が情報を処理するのに、少し時間がかかった。

でも、次の瞬間にはしゃがんで、瀬名の手を取る。


そのまま立ち上がると、亜紀は少々涙ぐみながら。


「はい、喜んで!」





「『(…成功です!)』」


「『ッしゃぁぁぁ行くぞ!!!カレル、タクマさん!!!』」


突然物陰から大声を上げながら現れたのは、ジャンニ・ルクレール。

存在を知っていた瀬名も、何も知らない亜紀もビクッと後ずさる。

瀬名の方へ突進してくるジャンニを見た亜紀は、瀬名に。


「瀬名くん!!!指輪、箱ごとちょうだい!危ないから!!!」


タックルで指輪を無くしかねない。

亜紀の機転がなければ危ない所であった。


ジャンニは瀬名に飛び込むと、手荒な祝福を施した。

その様子を、指輪を大事に抱えながら呆然と見つめる亜紀。


「『…Ms.アキ。…ウチのジャンニが迷惑をかけた。申し訳ない』」


「はっ、え、はい?なんて?ぱーどぅん???」


初対面のカレルに、英語で話しかけられる亜紀。

情報量の多さにオーバーヒートしないか心配である。


「ウチのジャンニがごめんねですって。何はともあれ、良かったですね亜紀さん」


「琢磨くんは琢磨くんでなんでそこに居るの」


ごもっともである。


「なんか急に初対面のフェラーリの2人から、瀬名のプロポーズに通訳がいるとかわけわかんない事言われて半ば強引に…」


苦労人・佐川琢磨。


「『ジャンニさん!!!俺、ちゃんと静かに伝えたいって言いましたよね!?』」


「『ごめんごめん、でも友達におめでたいことがあったら共有したいでしょ?』」


もはやプロレスをしているようにも見えるジャンニと瀬名。


「…おっと。瀬名、もう表彰式の時間だ。行くぞ、全日本のモータースポーツファンがお前を待ってる。」


琢磨がそう声をかけると。


「終わったらまたゆっくり話しましょう、亜紀さん。こんな形になってしまって申し訳ないです」


それだけ伝えて、瀬名たちは去って行ってしまった。

困惑と嬉しさと、色んな感情が入り混じった表情で手を振り、瀬名を見送る。

開かれたままのリングケースから指輪を取り出すと。


「…サイズぴったりだ。」


その指輪が、亜紀の薬指から離れることはもう無かった。


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― 新着の感想 ―
初優勝に続いてプロポーズも大成功!!おめでとーーーー!!٩(*'▽'*)۶ フェラーリの二人はカーレースを愛する仲間として、瀬名くんのプロポーズ成功を一緒に喜んでくれててめっちゃ微笑ましいです(笑)…
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