表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
134/157

母国開催

「瀬名さんの彼女さん、お隣いいですか?」


「えっ?ああ、もちろん!」


鈴鹿サーキット、グランドスタンド。


「たこ焼き食べます?」


「あ、じゃあ1ついただこうかな~」


裕毅は怪我が完治し、レース活動を再開している。

その合間で瀬名が出場する日本グランプリを見に来た。


何気に亜紀と裕毅、この2人は初対面である。


「いいですよね、この雰囲気。やっぱり世界最高峰のイベントは違いますよ」


「裕毅くん…だっけ。すごく若く見えるけど…」


「19です。ピチピチです」


19と手で表そうとしたが、指が足りないことに気づき手を戻す。


「なんというか、余裕があるよね。大物感っていうのかな」


「瀬名さんのおかげですよ。」


そこで瀬名の名前が出てくることに、亜紀は少々驚いた。


「瀬名さんは、どんなレースでも毅然としていました。ボクはその真似をしてるだけです」


「そうなの?でもあの子ちょっと見栄っ張りなところもあるからなぁ~」


裕毅は手にしたペットボトルのコーラをグイッとあおり、炭酸に顔をしかめる。


「1つ許せないのは、ボクの前でこれ見よがしにお酒を飲んでくるところですね。早くボクも飲めるようになりたいです」


ペットボトルを指ではじきながら、不満を口にする。

その言葉に、亜紀は少し引っかかるところがあった。


この子は私の知らない瀬名くんを知っている。


嫉妬…と言っていいのかは分からないが、少し羨ましいと感じてしまった。


「ねえ裕毅くん。瀬名くんのこと、もっと色々聞かせてよ。」


でも、この子は瀬名くんにとって特別な子。

だから、私もこの子と仲良くやっていきたい。


「お、ボクに瀬名さんを語らせたら長くなりますよ?」


「おっしゃ、どんとこい!」


確かに、レース前のこの雰囲気は嫌いじゃないかも。







グランドスタンドの和やかなムードとは反対に、ピットの一角では重苦しいオーラが立ち込めていた。

その発生源は、言うまでもなくこの男。


「『今日こそは…勝つ…』」


周冠英の周りの空気は、陽炎のようにゆらゆらと揺れて見える。

しかし、プレッシャーや念は感ぜども、邪気はない。


日本グランプリは第4戦。


3レースを戦ううちに、瀬名への負の感情は次第に消えていった。

見下していた者に出し抜かれた。


たったそれだけのことなのである。


瀬名に対して、己の実力にふさわしい対応をしてはいなかった。

だが、それを取り消すことはもうできない。


ならば、己の実力をふさわしい位置まで持っていけば問題ない。

そう考えた周は、この2か月で凄まじい訓練を積んだ。


指輪なんて買ってる色ボケ野郎とは、話にならないレベルの訓練を。


事実、今回の周のスタートポジションは5番手。

瀬名やルイス、フェラーリ勢に次ぐ、5番手である。


充分に表彰台、優勝も狙える位置。


オレはやれる。

勝ちにいける。


「『周、時間だ。マシンを出すぞ。』」


顔に被せていた黒いタオルを剥ぎ取る。

椅子から立ち上がり、マシンへと向かう。


「『ああ。準備はできてる。』」


日本で、奴を倒すんだ。






『『ルイスのスタートタイヤはソフトだという状況が入ってきた。厳しい戦いになるだろうが、こちらも同じくソフトだ。まずは第一スティント、しっかり抑えよう。』』


「『Copy、監督さん。』」


スタート1分前。

グリッドに着いた瀬名の耳に、場内実況の音声が聞こえてくる。


『Drivers…Start your engines!!!』


その声と共に、鈴鹿は爆音に包まれる。

20台のエンジン音はもちろん、観客の歓声も。


所々で聞こえてくるのは、瀬名の名前。


その小さな声は次第に集まり、ついには会場全体の瀬名コールへと昇華した。

ポールポジションの瀬名は、コックピット内で観客に向かって手を振る。


今までコールなんてされたことなかったから、こっ恥ずかしいが。






「瀬名、これコックピットに入れておけ」


レース前、琢磨に手渡されたのは白い布。


「なんだ?これ」


「日本国旗だ。優勝したら振れよ」


布を開くと、確かにそれは日の丸だった。

瀬名は一瞬目を閉じ、うーんと唸る。

そして、国旗を琢磨に渡し返した。


「やめとくよ。俺にとって鈴鹿と国旗は縁起が悪いんだ」


「…それもそうだな。じゃ、表彰式の前に取りに来い。表彰台で掲げろ」


「おいおい、表彰台に乗る前提かよ」


瀬名は苦笑い。

だが、琢磨は至極当然といった顔で。


「何言ってんだ。今日お前は勝つぞ。」


「なんだそれ。予言か?」


「いや、オレ未来人だから。優勝した未来から来たから。」


「おめーが何言ってんだ」


レースが、始まる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
思えば子供時代からずっと一緒にカーレースの世界を夢見て大学でも自動車部で活動して、ずーっと瀬名くんを見守ってきた琢磨くんが、このF1でもこうして声をかけてくれてリラックスさせてくれているのがありがたい…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ