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顔合わせ

『JGT航空バーレーン国際空港行き5122便は、只今12番ゲートからご搭乗いただいております。JGT Airlines flight 5122 to…』


2月18日。

成田空港、保安検査場前。


「じゃ、オレらはこのへんで。」


「瀬名くん、身体には気を付けてね…。お菓子食べすぎちゃダメだよ…。」


「フフッ…亜紀さん、俺小学生じゃないんで。」


心配そうな眼差しで瀬名を見つめる亜紀に、瀬名は抱擁で返事をする。


「行くぞ、瀬名。もう飛行機が出ちまう」


今回瀬名に同行するのは3人。

企画を提案した可偉斗、支援を行った優次、そして瀬名のトレーナーおよびカウンセラーを務める琢磨だ。


「4月には日本グランプリがあります。その時にまた会いましょう。」


それだけ言い残し、仲間たちに続いて瀬名は保安検査場の中へと入っていった。






「俺、ファーストクラスなんて初めて乗るわ。」


「それもこれも全部、F1の運営側が金を出してくれるってんだからな。ありがてえ話だ」


「F1の中でも上位ランカー、稼いでる人達の中にはプライベートジェットを持ってる人もいるみたいだね」


世界最高のモータースポーツは、何から何まで規格外だ。






およそ15時間のフライトを終え、一行は中東の地に降り立つ。

そこでの第一声は全員同じであった。


「「「「暑いな」」」」


季節は2月。

寒い日本に慣れた一行にとっては、この地は暑すぎる。


バーレーンは一応北半球であるため、現在は冬…のはずなのだが。

この辺りは年間を通じて最高気温が35℃を超える場合が多々ある。


特に今年は暑さがひどいらしく、ここで行われる開幕戦も酷暑が予想される。

だが、開幕戦の前に瀬名にはいくつかの仕事が待っていた。


「まずはチームメイト同士顔合わせだね。」


「その後はマシンのテスト、最終チェックだ。」


開幕まではまだ1週間弱ある。

その間に、この異国の地に慣れておこう。





空を見上げるだけでも、日本とは空気が違うということがよくわかる。

空の色はまず違うし、雰囲気や匂いも体験したことがないものだった。


そしてこの国はどこにいても砂っぽい。

砂漠のど真ん中だから、仕方のない事ではあるのだが。


路面に砂が散乱しているとするなら、初めて走るマシンの初めて走るコースがここなのは中々難易度が高いんじゃないか。


そんなことを考えながら、瀬名はこの国唯一のサーキット、バーレーンインターナショナルサーキットへ足を踏み入れた。





コース内、会議室。

今シーズンから発足するトヨタF1。


その最終企画会議が行われていた。


マイクを握っているのは小林可偉斗。

集まったクルー、メンバー、報道陣に英語で弁を振るう。


「『では、今シーズンを戦う2人のドライバーを紹介しましょう。』」


その声と共に部屋に入ってきたのは、共にアジア人で似通った背丈の若者たちだった。


「『伏見瀬名です。この歴史深く素晴らしいグランプリに参加できることを誇りに思います』」


「『…周冠英(ジョウ・グァンイン)。隣に立っているライバルには負けたくないです』」


「…ちゃんとやれや」


啊?挑衅吗?(あ?やんのか?)


ご覧のように、この2人。

先程ひと悶着があった。







控室で、初めて顔を合わせた2人。

初め、瀬名は友好的に話しかけた。


「『初めまして。今日からチームメイトとしてよろしくお願いします!』」


「『…あんた、日本のスーパーフォーミュラ出身なんだってな。』」


手元の資料を見ながら、目を合わせずに言い放つ周。


「『まあ、F2でトップだったオレからすればそこそこってとこだ。どこまでいけるかな?』」


明らかに悪意のある物言いに、瀬名はムッとする。


「『その言い方は無いでしょうよ。スーパーフォーミュラって、タイムで言えばF2より速いんスよ?』」


「『じゃあなんだ?このクソみたいなリタイア率は。安定感が無いのはレーサーとして最悪だぜ』」


やっと顔を上げ、周は瀬名の肩に手を置く。


「『じゃ、オレの胸を借りるつもりで頑張れよ。長い者には巻かれろって言うだろ?』」


その発言に、瀬名の何かが切れた。


「『おい、お前。』」


「『あ?』」


「『俺が長いだけのモンに巻かれるほど華奢に見えるか?』」


「『…言うじゃねえか…!!!』」


「ストーップ。ストップ。バカ瀬名おめー頭冷やせ」


つかつかとお互いに歩み寄り、一触即発のムード。

そこに水を差したのは琢磨だった。


「挑発に乗るな。お前の悪い癖だぞ。あと周はチームメイトだ、もっと友好的にだな…」


「『おーい瀬名とやら。カッコいい名前してるクセに喋るのには保護者の許可が必要なのか?』」


遠くからヤジを飛ばす周に、瀬名は無言で中指を立てる。


「だーかーらー。挑発に乗るなって言ってんの。」


「…はっ!手が勝手に。」


瀬名はゆっくりと指をたたむ。

このチームメイト2人のファーストコンタクトは、あまりにもひどかった。

だが、彼らはこれから1年苦楽を共にするのだ。


絆も芽生えるだろう。


「『ガキが!』」


「『どっちがだよ!!!』」


「どっちもだよ!!!!!」


…芽生えるかなぁ。


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― 新着の感想 ―
チームメイトのはずの周さんとは最初の印象はサイアクっぽい(笑) 間に入る琢磨くんが大変そう(;´∀`) でもお互いマイナスからのスタートなら、何かのきっかけでいい仲間になれる可能性も! 最終的にはお…
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