四年間の集大成
中東・バーレーン。
F1グランプリ開幕戦が、この地で始まろうとしていた。
今年度から一人の日本人ドライバーがこのグランプリに参戦することになる。
彼の名は伏見瀬名。
光岡大学にて片山京一から教えを受け、エースとなった彼はチームメイトと共に、桑島正治ら強者たちの待つスーパー耐久に参戦。
その後瀬名は父である伏見稔をチームオーナーに据えるF4チーム『StarTail』で、自動車部時代のライバルである中島聡と切磋琢磨し高め合う。
それから彼は破竹の勢いで勝ち上がり、SUPER GTでは富岡祐介、スーパーフォーミュラでは松田裕毅らと対戦。
その将来に暗雲が立ち込めながらも、プロデビューから僅か4年目でF1のシートを勝ち取るに至った。
瀬名はヘルメットのシールド越しに二つずつ縦に並んだ赤いランプが一列、また一列と灯っていくのを見つめる。
このコースのこの景色を見るのは、最初で最後になるだろうということは分かっていた。
気温は41℃、路面温度は56℃の灼熱である。
だが、あの時のようなリタイアはもう御免だ。
日本中の期待を背負った若者は口元のチューブを咥えドリンクを少しばかり含み、口の中を冷やす。
冷えたそれが体温と同じ温度になったのを確認すると、喉を鳴らして飲み下した。
友よ、好敵手よ、そして…師よ。
俺はとうとうここまで来たぞ。
その刹那、彼の目に映っていた赤い光が消える。
アクセルを思いきり踏みしめ。
全車一斉にスタートを切った。