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光速の貴公子 ~30年目のトリビュート~  作者: 紫電
第五章 スーパーフォーミュラ
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最も速い20人

「…は?」


親友のその言葉に、耳を疑う。


「事故後に医者が精密検査をした。その結果…」


「いや待て待て。一回待て。かいつまんで説明すると?」


「だから、今からやろうとしてんだろうが。」


瀬名の耳には、直前に発した琢磨の声が聞こえていなかったようだ。

ショックで一瞬、また気を失うところだった。


「精密検査の結果、身体のあちこちに異常が見つかった。腕や脚の筋肉から、神経系に至るまで、それはもうあちこちに。」


瀬名はこの4年間、身体を酷使しすぎた。

明らかに早すぎる衰えを感じていたのはそのせいだった。


「とにかく、あと1年でもモータースポーツを続けていたら車椅子生活待ったなしだ。だから…」


「ん?お前今なんて言った?」


琢磨の話を遮り、聞き返す。


「あ?だから、あと1年でも走り続けてたら…」


「それ、あと1年は走れるってことか?」


瀬名の言葉は、病室に沈黙を生んだ。


「…待て。お前の考えてることは大体分かったが、絶対にダメだ。本当にやめておけ。」


いつになく焦った様子で、必死になって言葉を綴る琢磨。

それに対する瀬名は、こう切り出した。


「琢磨。俺な、さっきまで気を失ってた時に京一さんと喋ってきたんよ。」


「…で?」


荒唐無稽な話に思えるが、なぜか説得力があった。


「あの人の遺言、覚えてっか?」


【絶対に、進み続けろ。】


「…忘れるもんかよ。」


琢磨の中で、何かが切り替わった。


「…ちょっと、いいか。」


その2人の会話に、1人の男が介入する。

小林可偉斗。


「なんだかんだ久しぶりですね、可偉斗さん。」


「すまん。仕事の方が立て込んでてな…で、その仕事に関連する話なんだ。」


可偉斗はトヨタのモータースポーツ部に入社後、経営や企画の方へ回っている。

なにやら新事業をやろうとしているということが、父・崇斗から明かされている。


「おれが企画を提案してな…弊社(トヨタ)は来シーズンから、F1へ参戦することになった。」


病室に集まった一行から、どよめきの声が上がる。

だがそこに、1人だけ驚きの表情を見せなかった者がいた。


「この企画を提案するにあたって、とある会社から多大なお力添えを賜った。…感謝します。レンペルテクノロジーズ代表…松田優次さん」


全員が一斉に優次の方を向く。

入社して歴の浅い可偉斗がこの大事業を提案するには、優次の支援が必要不可欠だった。


「まあ僕も、久しく無かった日本メーカーのF1を見てみたかったですから。幸い瀬名くんや正治くんが稼いでくれた資金はたんまり残ってるのでね。」


組んでいた腕をほどき、親指を立てた。


「で、だ。計画はほとんど完了しているのだが…ドライバーがまだ決まっていない。」


F1では1チームにつき2人のドライバーが所属する決まりになっている。


「瀬名、いけるか?」


問いかけてきた可偉斗に対して瀬名は。


「聞く必要ありますか?それ。」


隠しきれない笑みでそう答えた。







「本来ならば瀬名と裕毅で行きたいところではある。だが…」


「申し訳ないが、裕毅は最低あと2年はスーパーフォーミュラで走らせる。まだまだ不安定なところがあるからね。」


優次が待ったをかけた。


「瀬名のチームメイトをどうするか、ですね」


「海外にはなるが、F2選手権で無双状態の中国人ドライバーがいたはずだ。」


F1直下のカテゴリーであるF2。

F1ドライバーの多くはこのカテゴリーを通ってきている。


「名前は確か…周冠英(ジョウ・グァンイン)。」


「東アジア連合、良いじゃないですか。」


「アジア人でもF1で頂点を獲れると、証明してやりましょう。」


ただし、対戦するライバルも一筋縄ではいかない者たちばかりだ。


「メルセデスベンツの絶対王者、七度のワールドチャンピオン経験を誇るルイス・ウィルソン。」


「名門・フェラーリの最強コンビ、ジャンニ・ルクレールとカレル・サインツ。」


「彼らをはじめとした、世界で最も速い20人が集まる大会です。」


瀬名に残された猶予は、たった1年。

世界の頂点へ、いざ。




第五章・完

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― 新着の感想 ―
第四章まではずっとレースのワクワクや胸熱エピソードがてんこ盛りで、すごくカーレースの楽しさに焦点をあてているように感じていました。 でもこの第五章では、事故を通しての危険性やレーサーの体への負担など、…
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