表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光速の貴公子 ~30年目のトリビュート~  作者: 紫電
第五章 スーパーフォーミュラ
119/157

繋ぎ止めていたもの

瀬名の脳は、すぐに回避するべく思考・行動を開始した。


人間の反応速度の限界であるとされる0.1秒後、ブレーキングを開始。

0.12秒後、回避のためのステア操作を行う。


スローダウンしていた車両の横を掠め、回避には成功する。


しかし、ステア操作による急激な荷重移動によって、マシンは左右にふらつく。

これ以上ステアリングを持とうとすると腕がちぎれる。


制御不能となったステアは、左右に暴れまわっている。


とうとう、瀬名はステアリングから手を離し、腕を体の前で十字にたたんだ。

衝撃吸収の体勢である。


制御を失ったマシンはコース外へ吹っ飛んでいく。

砂を巻き上げながら壁に激突。


衝突時の速度は211キロにまで減速していた。


とは言っても凄まじい衝撃が、瀬名を襲う。

衝突時のあまりにも強すぎるGフォースで、瀬名は意識を失った。


挿絵(By みてみん)







瀬名は救出され、病院へ搬送された。


取り残されたマシンから、オイルが漏れ出ている。

そのオイルがエキゾースト付近の最も温度が高くなっている場所に触れ、誰も乗っていないマシンに火が付いた。


その火の手はどんどんと大きく燃え上がり、いつしかマシン全体を覆っていた。


コックピット内、つい先ほどまで瀬名がいた場所。


そこにはオーストリア国旗と、紅いお守りだけが取り残されていた。


後日、瀬名がその2つについて問うたとき。

それの所在を知っているものは誰一人としていなかった。







「久しぶりだね、瀬名。」


辺りはいつかのように白く、だだっ広い。


「あれ…俺、死にましたか?…京一さん。」


3年ぶりに会う、もう会えないはずの人。


「いや、死んでないよ。だから僕と話せるのも一時のことだ。」


色々と聞きたいことは山ほどある。


向こうでの生活はどうですか、とか。

遺言適当すぎたんじゃないですか、とか。


でも、一番聞きたいことを聞こう。


「俺の走り、見ててくれましたか?」


瀬名は少し俯き、恥ずかしそうに聞く。


「おーおー、見てたよ。なんか最近すっげー偉そうな走りしてるなと思ってた。」


心当たりはある。

裕毅に慕ってもらえるのが嬉しくて、調子乗ってた。


「ま、それは冗談としても。まあまあ頑張ってるじゃん。」


ニカッと笑い、拳を合わせてくる彼は、自動車部にいたあの時と全く変わっていなかった。


「じゃ、僕はここらで失礼しようかな。」


「え、早くないですか?もう少し話したいです」


京一は瀬名に背を向けると、ゆっくりと遠くへ歩いていく。


「できないんだ。僕と現世を繋ぎ止めていたものが、なくなったから。」


京一はポケットから、あの紅いお守りを取り出す。


「あっ!それ、どうしてここに…?」


「キミを救急隊が救出したあと、マシンが燃えた。要はお守りをお焚き上げしちゃったってわけ。」


お守りをポケットにしまいなおすと、今一度瀬名の方を向く。


「ここは現世と天国の中間みたいな場所だ。夢とか意識がないときはここに来るみたいだね」


「じゃあ、京一さんがここまで降りてこられたのは…」


「そう。このお守りのおかげ。言ったでしょ?念を込めてたって」


京一の身体が、まばゆい光に包まれていく。


「今まではコレを通じて僕もいくらばかりかの手伝いができた。でも、これからはキミ自身の力で頑張るんだ。」


その姿は、もはや見えない。


「じゃ、またね。あんまり急いでこっちに来ないでよ?僕は気長に待ってるからさ」


瀬名の視界は、真っ白に包まれたあと一気に暗転した。







「お、目ぇ覚ましたな。」


もう一度目を開くと、知らない天井だった。

腕には点滴が刺さってる。


身体を起こして辺りを見渡してみると、知ってる顔が勢ぞろいしていた。


「瀬名くん、ごめんねぇ…私があの時ハッキリ止めてれば…」


瀬名が目を覚ますなり駆け寄り、泣き崩れる亜紀。


「いや、亜紀さんのせいじゃ…というか、病室ギッチギチじゃないですか。いやありがたいことなんですけど」


長谷部尚貴、松田優次、桑島正治をはじめとしたお世話になった大人たち。

もちろん父、稔もいる。


「おい、オレらへのコメントはなしか?」


佐川琢磨、小林可偉斗、中島聡ら戦友たちも皆、この病室にひしめき合っている。


「一人一人にご挨拶してたら日が暮れるでしょうが…みなさんどうも。」


隣でうずくまって泣いている亜紀の頭を撫でながら、声をかけてくる見舞客に逐一応答する。

そんな中、1人神妙な顔をしてこちらを見てくる者がひとり。


「琢磨、どうしたそんな顔して。」


「いや…良いニュースと悪いニュースがあるんだが、聞くか?」


「洋画かよ」


琢磨の聞いたことが無い物言いに、思わず吹き出す。


が、そのニュースは予想外のものだった。


「良いニュースは、()()()()()()怪我や後遺症は一切ないってことだ。」


「ええやん。体痛くないもんな。で、悪い方は?」






「お前、このままだと歩けなくなるぞ。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
生きてて良かった……とホッとしたのもつかの間、歩けなくなるですと!?(; ゜Д゜) 身体がだるいとか言ってて、病院で検査してもらった方がいいんじゃないかなと心配していましたが……歩けなくなるような病気…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ