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光速の貴公子 ~30年目のトリビュート~  作者: 紫電
第五章 スーパーフォーミュラ
114/157

予兆

『あーっ!!!2号車、伏見瀬名がまたストップだーッ!!!』


シーズンも後半戦、瀬名は自身の体調やマシントラブルによるリタイヤに喘いでいた。

前半戦で稼いだポイントの貯金も底をつきかけ、ランキング2位にかろうじて残っているような状況。


対照的に裕毅はとても好調で、ランキングトップをひた走っている。


「瀬名さんが完走したレースでは、ボク一度も勝ててませんから!」


なんて気を遣わせてしまう始末。

実際、調子がいいときはマシンも身体も本当によく動いてくれるのである。


だが、ここ最近明らかに不具合が多くなってきている。


なんというか、慢性的に身体の調子が悪い。


風邪とかではない。

かといって身体のどこかに痛みがあるとかでもない。


ただ、身体の可動域が若干狭くなっているような感覚や、妙なだるさを感じるときが増えてきたように思う。


考えたくはない事ではあるが、瀬名はドライバーとして超早熟型であるという可能性が浮上してくる。

いわば、23歳にして体力の全盛期を過ぎてしまった…ということも考えなければならなくなってきた。


これは由々しき事態だ。


()()を達成するためには、早く、早くしなくては。


もう時間がない。


裕毅を待っているヒマはない。

というか、俺はアイツよりも本当に優れているのだろうか?


自分の実力に対して疑問を抱き始める。


少なくとも今までは、裕毅と自分でどちらが優れているか、なんて考えたこともなかった。


それは自分の方が優れていることが明らかだった、という意味ではない。

そんなことを考えなくても2人で高めあえていた。


無意識に裕毅と比較してしまった自分が嫌になる。


焦りは更なる焦りを生む。


全11戦のシーズン中、終えたレースは10。


リタイアは4戦。

6戦をトップチェッカーで終えていると言えば聞こえはいいかも知れないが、4割のリタイア率は自分史上類を見ない。


異常だった。


そして、複雑な思いを抱えたまま最後の1戦を迎える。


11月18日、鈴鹿サーキット。

スーパーフォーミュラ最終戦予選日。


その日は、どんよりとした曇り空だった。







「今日こそリベンジですよ瀬名さん!!!」


「なあ、お前それ毎回言ってないか?」


ポケットに手を突っ込みながら歩く瀬名の周りを、ぐるぐると周回する裕毅。


「それに、俺には何度も勝ってるだろうが」


その言葉に裕毅はハァ…とため息をつく。


「瀬名さん、全然ボクのこと分かってくれてないんですね」


「めんどくさい彼女か?おのれは」


下を向いていた裕毅は瀬名の目を睨みつけると。


「開幕戦!!!ボクはあなたへの勝負権がなかったんですからね!!!」


「そりゃお前合意の上だっただろ…」


瀬名は開幕戦にて、裕毅への授業と称してレースを行った。

その内容は、1位を走る瀬名をひたすら追いかけてラインを覚えるというものだった。

したがって、裕毅は2位が確定したレースに臨むことになっていたのである。


「ですので!今日はボクがポールポジションを取ります。」


「おお。宣戦布告?」


「そうです!!!そんな余裕こいてられるのも今のうちですよ!!!」


「元気だね…」


その声量に圧倒される瀬名。

だが、その宣戦布告で瀬名にもスイッチが入った。


ここ最近不調続きだったし、裕毅とバチバチに戦り合って勝ってやろう。


「予選走る順番、瀬名さんが先でしたよね?」


「ああ、そうだったな。てかもうすぐだ」


「ま、頑張ってくださいよ。どうせボクが抜きますけどね!」


「ほー、生意気言うようになったじゃねえか」


瀬名はコックピット脇に置いていたヘルメットを被ると、マシンへ足を突っ込む。

パチンパチンと音を立てながら六点式シートベルトをつけていき、最後にステアリングを装着する。


少しこのステアリングを握るのに抵抗があった。

なぜかは分からないけど、なんとなくそう感じた。


なんでだろうと考える暇もなく、出走のゴーサインがかかった。


自分の準備をしながら見送ってくれる裕毅を横目に、瀬名はコースへと飛び出していった。





スーパーフォーミュラの予選形式は、Q1とQ2に分かれている。


Q1で上位半数に入ったマシンがQ2へ進出する。


そして『予選の予選』であるQ1は出走台数が多いため、A組とB組という二つのグループに分かれて行われる。

今回瀬名はA組、裕毅はB組に割り振られた。


各10分の予選、瀬名は当然のようにトップタイムを叩き出す。


タイムは1分34秒225。

スーパーフォーミュラにおけるコースレコードを更新した。


Q1通過は確実である。


「ぐぬぬ…やりますね…」


「さてさて、裕毅は超えられるかな~?この俺を!」


今日は調子がいい。

裕毅を煽る口も調子がいい。


「ま、勝負はQ2だ。あんまり飛ばさなくてもいいかもな」


「いーや、こうなったら負けられません。」


今度は裕毅がヘルメットを被り、自らの手で体を叩いて気合を入れる。

裕毅の乗る22号車が発進した。






ピットを出ると、まずはゆっくりタイヤを温めながら走行する。

タイム計測が行われるのは2周目から。


2周目以降のタイム計測が行われる周回のことを、アタックラップという。


高速コーナー、130Rからシケインに飛び込む。

60キロまで減速した車体が、再び加速する。


最終コーナーを立ち上がってくる22号車。

レースファンの歓声を受けながら、グランドスタンド前を通過。


300キロに迫るスピードで、1コーナーへ向かっていく。


まだブレーキには足をかけない。


まだ。


まだ…


「瀬名さんに、勝つんだ…!!!」


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― 新着の感想 ―
ん?なんか……瀬名くん、大丈夫??? 体力のピークがどうのとか、そういうことではなく何か病気の可能性だってあるし、いっかいちゃんと病院で診てもらってくださいっ!!(京一さんのトラウマがががが)
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