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3分の1

650馬力級のマシンたちがコースを周回する中、ピットレーンでも仕事をする人間たちが慌ただしく動いている。


「OK瀬名くん、後ろとの差は2.3秒だ。前の周から0.2秒離してる。良いペースだぞ」


『Copy。』


モニターと無線が完備されたブースで指示を出す監督。


「いつ出番が来るかは分からない。いつでも出られるようにしておけよ!」


「「「オウ!!!」」」


タイヤ交換、給油、ジャッキ。

それらのピットワークを支えているのは彼らピットクルーたちだ。


そして、彼らがいるピットのさらに奥。

モニターでレースの様子を見ながらドリンクを一口含む。


「いいペースで走れてるぞ…。1号車の前で繋いでくれさえすればオレがギャップを倍にしてバトンを返してやるからな…!」


全員が一丸とならなければ、勝利はあり得ない。

だが、その心配は必要ないだろう。


今シーズン最後となるこのレース、皆の心境は二文字に集約されている。


「勝つ…」


「「「勝つぞ!!!」」」


「絶対に勝つ。」


そしてピットからコースに出て、走行中のマシンに入ってみる。

彼もまた、勝つことだけを考えて走っているのは間違いない。






「ふぅ…そろそろか?」


『瀬名くん、残り5周だ。残り5周でピットに入ってくれ』


独り言が聞こえたかのようなタイミングで、優次は返す。

瀬名は了解の返事をし、ステアリングを今一度握りなおした。


「よし…じゃあスパートかけますかね…!!!」


アクセルを床まで踏みしめ、回転数を上げていく。





「追いつけない…離される…。」


見える範囲にはいる。

いるのだが、じわじわと離されていく。


屈辱だ。こちらが明確なミスをしたわけではない。

でも、それでも離される。


それならもう、私の実力が足りていないということにならないか?


畜生、私は最速のシムレーサー…そう思ってきたというのに。

ゲームのみならず、現実でも負けるというのか…?


今回のレースは燃費を考える心配はない。


イーブンの状態で、最初からFuel Mapは1で走ることができる。


お互いが全力で走っているはず。


幸い、第一スティントがもうすぐ終わる。

第三スティントまでに策を講じなければ…。






5周後、当初の予定通り瀬名がピットイン。

何事もなくピット作業は続き、正治にバトンを渡した。


この時点での1号車とのギャップは、3.6秒。


しかし。


「くッ…離れねぇ…」


ギャップは次第に縮まっていく。


『1号車がファステストラップを更新。1周あたり0.3秒詰めてきてるよ…こらえてくれ、正治くん…!』


第二スティント中盤時点で1号車がスリップストリーム圏内に入ってくる。

ホームストレート、バックストレートを走っていても気が休まらない。

GT-Rのストレート速度をもってしても1号車がじわりじわりと詰め寄ってくる。


正治は、イマイチこのコースの攻め方を極められずにいた。


特に前半セクションのS字などはその傾向が顕著で、つつかれんばかりに1号車が接近してくる。

耐えの時間が続く。


連続して乗る周回数に関して言えば、第二スティントが一番多く走らなければならないと言える。


体力も消耗し、正治の全盛期を過ぎた肉体は悲鳴を上げていく。


「くぅ…ハンドルが重い…ペダルが硬い…横Gが強い…!!!」


GT500マシンは、もはや通常のレーシングカーというよりもフォーミュラカーに近いと言われている。

市販のベース車の面影は既になく、ただガワを被せただけとなったモンスターマシン。


それほど戦闘力の高いマシン。

言ってしまえば戦闘機である。


優次はそんな正治の様子を見て、ピットインのタイミングを少し早めた。

瀬名も緊急の招集にさっさと準備を済ませ、戦闘態勢に入る。


マシンから倒れ込むようにして出てきた正治を抱き留め、労いの言葉をかける。


当初の予定より5周ほど早いピットイン。

当然、競っていた1号車はまだピットに入っていない。


実質的にアンダーカット作戦を取ることになったチームレンペル。


ピットによるロスタイムと、現在の1号車とのギャップを照らし合わせると、1号車がピットから出てくると同時に27号車がピット脇を通り過ぎることになる。


瀬名が5周の間淡々とラップを刻み、ギャップをできるだけ減らそうと奮闘する。


しかし、GT300をオーバーテイクしなければならない場面があったりと中々運に恵まれない。

結局、5周後のギャップは変わらず、1号車がピットイン。


ピット作業は円滑に進み、ドライバーが富岡祐介に変更された。

60キロ制限のピットロードをゆっくりと進む1号車。


と、同時に27号車が最終コーナーを回りホームストレートへ帰ってきた。

ピットの速度制限区間を抜け、1号車が加速する。


コースに合流、そして。

後ろから追ってきた27号車と接敵。


ほとんど横並びのまま1コーナーに入っていくが、ピットに入っていてたった今加速し始めた1号車と、全速力で最終コーナーを抜けてきた27号車ではかなりの速度差があった。


その速度差を利用し、27号車が再び前に出る。


「さあ、ラウンド2だよ、sennaさん。今度は負けないからな…!」


「前を守るだけ、簡単だな。簡単だと思えば宝くじ当てるのだって簡単さ。」


レースは残り3分の1、勝者は1人だけである。


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― 新着の感想 ―
明確なミスをしたわけでもないのに、それでも離されてしまうことに実力不足を感じたなら、富岡さんはもう「負け」を感じてしまっているのかも……。 今回のレースの勝敗に関わらず、レーサーとしての負けを感じてし…
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