1/157
集大成
中東・バーレーン。
F1グランプリ開幕戦が、この地で始まろうとしていた。
今年度から一人の日本人ドライバーがこのグランプリに参戦することになる。
彼の名は伏見瀬名。
東京・光岡大学自動車部のエースであった彼は、スーパー耐久ST-5クラスにチームメイトと共に参戦。
その後瀬名は父である伏見稔をチームオーナーに据えるF4チーム、『StarTail』に所属した。
破竹の勢いで勝ち上がり、SUPER GT、さらにスーパーフォーミュラに参戦。
プロデビューから僅か4年目でF1のシートを勝ち取るに至った。
ヘルメットのシールド越しに二つずつ縦に並んだ赤いランプが一列、また一列と灯っていくのを見つめる。
気温は41℃、路面温度は56℃の灼熱である。
日本中の期待を背負った若者は口元のチューブを咥えドリンクを少しばかり含み、口の中を冷やす。
冷えたそれが体温と同じ温度になったのを確認すると、喉を鳴らして飲み下した。
その刹那、彼の目に映っていた赤い光が消える。
全車一斉にスタートを切った。