07_犀星の間
「なに、‥‥コレ?」
レイラは、目前に広がる規格外の巨大水晶を見上げていた。
広く、角ばった城塞の内部。
薄暗い石床の上を、自身の頭の中に蔓延る霧の中を手繰るような感覚で前進してきた。
行先に何があるのかなど、どうでも良かった。
思うままに行きついた部屋は、城の中にあってひと際異質なものだった。
人気の無い部屋の入口には、何か生き物のような白い冷気が大蛇のように帯となって揺れている。
さらに部屋の前には、進入禁止を示すためのロープが幾重にも張り巡らされていた。
ロープに掲げられた札には、文字が刻まれている。
(立ち入り禁止ってことね‥‥そして、『犀星の間』?)
何故か知らないはずの文字が読める感覚は、落ち着かない感覚を更に強くする。
部屋は、とても広くドームのような形状になっていた。天井がとても高い。
全体として魔界の仄暗さを感じるが、部屋中央に置かれた存在によって、他よりはずっと開けている印象がある。
部屋の中央には巨大なクリスタルが置かれていた。
澱みのない、清らかな雫をそのまま結晶化したような、奇跡のような巨大水晶。
部屋は静寂で、辺りには静謐な呼気が漂っている。
魔界の中とは思えないほど、幻想的な景色。
それは思いを巡らせるには十分な存在力で、いつまでも見飽きることのない美しさだった。
言葉がなかった。
吸い寄せられるように、レイラは部屋の前で立ち止まり、ただ水晶を見上げていた。
この空間だけは時が止まっているように思えた。
その場に立ち止まってどのくらいだろうか。
レイラは、透き通った丸い水晶の中央に黒い影を見つける。
(人形‥‥いや、ホンモノだわ)
一見すると分からないほどの、小さな影。
水晶全体の大きさからすれば、かなり小さい。
それが人の形をしていることに気が付いた。
年齢で言えば10歳前後であろうか。
黒髪の少女が、目をつぶったまま漂うようにして固まっている。
レイラは、思わず手を伸ばした。
ロープの隙間を縫って、水晶の塊に手を乗せてみる。
途端に、触れた手のひらから、パキパキと水分が固まっていく音がする。
あっという間に霜がおりて、伸ばした手は真っ白な氷に包まれてしまった。
「‥‥なるほど」
結界というヤツだ。
結界の何たるかなど知らないが、頭の中に情報が流れてくる。
ピリピリと頭の中に痛みを感じる。
似たようなものを自分は知っていた。
既視感めいた何かが頭の中にフラッシュバックする。
「あの‥‥」
脳内を駆け回るイメージの海に溺れていると、強引に何かが自分を引き上げた。
ハッとして、氷だらけの手を引き抜く。
「‥‥あなた、人間?」
声に向かって振り向くと、3メートルを超える屈強な体躯のガーゴイルが、レイラを見つめていた。




