05_勇者一行
「よぉしゃー。楽勝楽勝ぉ!さすがだわ、聖剣‥‥なあ、みんな!」
粉砕した錠前の欠片を面白がって蹴飛ばしながら、勇者ライディは口を開いた。
魔界の最重要拠点。敵地防衛のド真ん中。
大胆にもその中心でケラケラと笑い声を上げている。
今まさに破壊した、高さ数十メートルの巨大な魔王城の扉。
そして、その直前に襲いかかってきた植物系モンスターの大群。それを彼は、手にする光剣、その二振りで蹴散らしてしまった。
鞘から放たれた刀身は、光そのものが形を成したもので、彼の剣を振る速度によって、その密度と射程が変わる。
伝承に登場する、人類に託された希望の剣である。
「なあ、『ベル』。スゲくね?今の攻撃」
「‥‥」
返ってくるはずの賛同の言葉が待ちきれずに、ライディはすぐ横に並んでいたパーティーメンバーに話しかけた。
が、声をかけられたモンク役の『ベル・オースレン』は、はしゃぎ回る剣の所持者を一瞥してから、無言のまま前方へ歩き出した。
「ったく。相変わらず無口なヤツだな~。今の見ただろ、スゲェ威力だ。な?『ノキア』!」
「‥‥え?ええ。勇者様、流石でございます」
ヒーラー役の『ノキア・シフォン』は、いつものように愛想笑いを浮かべながら、ダル絡みするライディに相槌を打った。
(ああ、ダメ。また勇者が調子に乗っている。)
目に余る増長の度合いに、ノキアは背筋が凍っていくようで思わず身震いする。
「あのですね、勇者様。敵陣の真正面でそのような大声を上げられては‥‥」
「は?だからなに?オレが負けるって?冗談だろ」
鼻息荒くライディは、ノキアの小言を跳ね除ける。
「あー、それに『エクレール』さんが城の中に潜入済みだったはずだろ?作戦も万全」
「‥‥え、ええ。何やら城内は慌ただしいらしく、今なら混乱に乗じやすいと連絡がありました」
「だろ?」
「いや、混乱に乗じるというのは‥‥」
「邪魔」
重装備を着こなす守りの要、タンク役の『ヴァルミラ』が、勇者とノキアのやり取りに割って入った。
彼女は、勇者以上に鍛え上げられた肉体であり、背丈も大分高い。
「お、おう」
勇者は一歩退いてヴァルミラに道をゆずった。
彼女は、先を進む『ベル』の後を、これまた黙って進んでいく。
(寒い。薄ら寒いのよ、勇者。)
ノキアは心象同様、凍えるように自身の腕で自身を抱きしめた。
メンバー間の和。
圧倒的戦果に反して、このパーティーにはチームワークと呼べるものが存在しなかった。
メンバーは、それぞれに職業を極めたスペシャリストである。
魔界へは、大規模な軍隊を送ることが難しい。
それゆえ本来なら、派遣された部隊は少数精鋭のロールプレイを実行しなくてはならないのだが、あまりに強力すぎる光剣の力の所為‥‥。
いや、ほとんどが勇者の勇者たらしめている部分によって、チームとしての結束が終ぞ生まれぬまま、冒険の最終局面まで来てしまっていた。
(でもダメ。こんなの上手くいくわけがない。いくつもの『人界』で語られてきた英雄譚が、実際はこんなウンコみたいな戦いだったわけ無い!)
ノキアは、内心の葛藤を振り払うように喉を鳴らした。
「それで、どうなさいますか?勇者様」
「ん?何がだ?」
「城内に入りましたら、どういう作戦にしましょうか?すぐにエクレールさんと合流されますか?」
「まずは、城のお宝だな。この剣を超えるものがあるとも思えないが、財宝があるなら拝借して一旦離脱しよう」
「今回は様子見ってことですね」
「ああ、もう情勢は決まったようなものだしな。急ぐこと無いだろ」
「エクレール様は?」
「そだな、まあ早めに合流しよう」
噛み合っているようで、噛み合わない会話に辟易としながら、ノキアは抜き身の光剣をそのままにしていた勇者の肩に軽く触れ、前進を促す。
「では行きましょう!」
声をかけるが、勇者は未だ話し足りないのか、どうでも良い自慢話を続けかけて、唐突に押し黙る。
少し進んだ場所でヴァルミラが腕組みしながら、2人の会話が終わるのを待ち構えていた。
「作戦会議は終わったのかい?」
「お、おう。今決まった」
「なら、そろそろ警備の兵も出てくる、気合い入れな!」
「ええ!準備しましょう勇者様」
「は!どうせ、この聖剣があれば楽勝なんだけどな!」
「‥‥」
ノキアは、この旅に入ってからもう何度目かになるため息を、腹の底から吐き出した。