表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/16

15_敗色

 閃光が4度煌めいた。

 決められた型、合理的な方向。そういった剣戟けんげきとして取りうる、有るべきすじを無視した無法の暴力が天井から降り注ぐ。


 でたらめに放たれた強力無比な攻撃は、その一つでも直撃することが許されない。

 巻きあがる土埃にまぎれながら、ギリギリにそれらをかわして魔王はすべるように前進した。

 完全に攻守が逆転してしまった。


 腕の傷は深い。

 応急手当はしているが、足取りに合わせて脳内が揺れるようだ。


 ふざけやがって。

 何故か分からないが、タメ(・・)無しでの攻撃が格段の威力になっている。

 兎も角、このおぞましい連撃を黙らせなくてはならない。

 吹き上がる石礫に視界を奪われながらも、残りわずかとなった空中の火球に指示を出すべく、魔王は天に手を掲げた。

 しかしその瞬間、魔界の空が光に包まれる。


 光剣のものでは無い。

 雷電が、竜のいななきのように空気を切り裂きながら、残りの火球たちを貫いたのだ。

 空中の爆発により、空は一気に明るく染まる。

 魔王は、その光景を見て固まった。

 暗黒の空が一気に明るくなったことで、その閃光を背景に、はっきりと浮かぶ黒々としたシルエットを見たのだ。 

 その主と視線が合っていた。

 勇者が見下ろしながら、ほくそ笑んでいる。


 思わず身震いし、魔王は一歩、後ろに退いた。

 瞬間。

「ハァイっ!!!」

 掛け声と共に、虎の闘気を吐き出しながら、攻撃が背後から繰り出されていた。

 一瞬の硬直した隙。肉体のこわばりが、衝撃を受け流すのを妨げる。


「くっっ!」

 クリティカルヒットと言っていい。

 力量差を無視した、防御無視の力の直撃。


 先ほど倒したはずの体術使いの女が、死角から突然現れたのだ。

 慌てる魔王は追撃を恐れて、空中に逃れるために魔力を足元に集める。


 冷静に考えれば、追撃といってもこの力量差なら本来避ける必要も無いものだったろう。

 肉体の強張り、精神の揺らぎ。そこから生み出された連続の悪手。


「逃がさないよ」

 背後で待ち構えていた女がガーゴイルの像から飛び降りながら、攻撃を繰り出していた。

半端に浮き上がっていた魔王は、為すすべなく地面にはたき落とされる。


 ダメージを負いながらも、魔王は入れられた一撃と、その一撃により敵が振り下ろした武器の先端が砕け散るのも見ていた。


 キラキラと散っていく黄緑色の何か。

 破片の細かさは、昔見た、人界のみぞれ雪のようで。とても小さく、そして柔らかい。

 その輝きを、ぞっとしながら魔王は見送った。

「何てものを」


 ほとんど声にならない、刹那の言葉と共に地面に縛り付けられる。

 砕けったのは緑宝石だろう。

 『清浄』を意味する魔人特攻のアイテムだ。


「グガガっ」

 一撃の重みよりも、遥かに強力な魔術的効力によって、魔王はのたうち回る。

 そんな魔王を尻目に、一撃を加えた大柄な女は、倒れたこちらに追撃するでもなく、草むらに向かって飛び込んでいった。


 分かっているのだ。

 一か所に止まれば、アレが来ることを。

 そんな事はバカでも分かる。

 明け透けで、下品で、低脳な攻撃。

 しかし、脳天が揺らされて、退避することができない。


「これが最後の一撃ってわけだな」 

 勇者ライディが、大きく剣を振りかぶるのをかすれた視界が僅かにとらえる。

 振りかぶったその姿勢から予想されるのは、今までの中でも最大威力の一撃。


 無音の閃光は、自らとその周囲、王城の一部を切り取る様に放たれた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ