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13_三様

「どういうことだ」

 魔王は独りごちながら、辺りに舞い上がる土煙をにらみつけた。


 後方から放たれた雷の呪法。

 その効果により、ギリギリまで圧縮していた魔力のつぶては破裂してしまった。


 確かに火球自体に耐久性はない。

 魔力を注ぎ込み過ぎた火球の最も弱いところを、見事につかれた。


 良い判断だ。

 魔術の性質をよく理解している。


 放たれた雷の呪法は、自身が使うものとは異なるものだった。

 内在する魔力を使用するのではなく、体外の魔素を操作する『呪法』と呼ばれるものだ。

 爺が得意とするものと同質で、自身の内在魔力に依存しない分、単なるレベル差があっても使用法によっては、今の自身の魔力をも凌駕するかもしれない。


 当然、使用するには相応の技巧が必要になる。

 広範囲攻撃を行うという意味では、なかなかに厄介な相手ではあった。


 だが、しかし。

 確実に言えることは‥‥。


 この程度の相手であれば何の問題もない、ということ。


 奴と相対した際の対処法は、事前に幾度も検討していた。

 状況が変わった以上、次の手を打てば良い。


 しかし、魔王は動けずにいた。

 尚も、土煙を睨みつける。


 それよりも‥‥。


「あいつ、何を考えてやがる」


 魔王の視線には、何故か勇者パーティーに参加している、レイラの姿が映っていた。

 彼女は楽し気に、こちらに向かって不気味な笑みを浮かべていた。


 ***


 どうでも良いことだ。


 この世界に呼び出されてから、何一つ自分が分からない。

 その理由も大方予想がつく。

 たぶん、人形のように、私自身を召喚した相手に尽くさせるため。


 けれど、自身にはそこまでの効力がなかったのか、人形ほどに従順ではなかった。

 自分には、自我が残っている。

 少なくとも、こんな手を使って自分を従わせようなどという事をしゃくに感じる程度には。


 つまり。

 そうであるならば、この場で、どちらについても良いのではないだろうか?

 そう、どうせなら負けそうな側につく方が面白そうだ。


 この人間たちがなんであれ、圧倒的な力量不足ということが自分には分かる。

 弱い側に加担して、純然たる戦力差をひっくり返す。

 それは自分という存在、その価値を認識しやすいだろう。


 それに‥‥。

 何はともあれ、状況は良く分からないが‥‥。


 あの魔王が苦笑いを浮かべていた。

 それだけで思う。


 なかなかこれは、‥‥面白そうだ。


 ***


 ぜぇぜぇと、ノキアは自身の息のかすれる音を聞いて、初めて肉体の負担を理解する。


 緊張が続く過酷な状況下で見落としていた。

 辺りは先の、魔法による連続爆発により空気が乱れているようで酸素が足りていないのだ。

 呼吸が難しい。


 ふいに、視界が白みかけるのを、ギリギリと強く歯を食いしばりながら、必死で耐える。


(こんな半端で嘆いていてもしかたない。‥‥だけど)


 土埃舞う戦場をノキアは手探りで探し回っていた。

 腰を落とし、遂には四つん這いになりながら、彼女が倒れているはずの場所を探索する。


(もう、この辺りのはず。お願い)


 意識が遠のく時のような、淡い恍惚こうこつに全力で抗うが、もう限界は近いだろう。

 もはや祈るような心地で、ノキアは地面に手を伸ばす。

 そして。

 今までとは異なる手応えに声にならない歓喜の叫びをあげた。


(よし!)

 

 一気に距離を縮めて、ズタボロの彼女の、ベルの容体を確認する。

(息は、ある。ざっと見た限り、骨も大丈夫)

 天才的な受け身のなせる技だろう。

 これならば治せる。


 治癒魔術は単純ではない。

 手を当てて、神にでも祈れば勝手に肉体が再生するというものでもない。

 それは無責任というものだ。

 どこがどういった損傷をしていて、どうカバーすれば改善するのか、医学的アプローチはどうしたところで必要なのだ。

 人体の構造を把握していないものが手を出せる領域ではない。


 本来のロール。『ヒーラー』としての腕の見せ所だ。


 ノキアは大きく息を吸い込み、殆ど失いつつある、最後の魔力をベルの体に注ぎ込む。

 彼女にはその価値がある。


 そう。

 全員で陽動し、何としても光剣の一撃を導き出す。



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