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山童  作者: 大石次郎
7/20

7話

・・涼しい、お香の匂い? おでこに冷たい、湿った布? が当てられたような・・・


「ハッ」


目が覚めると濡らして絞った布をおでこに当てられていました。身体を起こすと、


「おはよう、君」


夏実より少しだけ年上に見える、不思議な女の子が僕を見ていました。

僕が幼稚園くらいの時に読んだ絵本の浦島太郎に出てくる乙姫(おとひめ)みたいな格好をしていて、頭に小さな角が2本生えていました。


「えっと・・」


僕は着物みたいな形の薄い掛け布団を掛けられていました。柔らかいベッドの上です。

近くのテーブルに置かれた綺麗な器で、お香が焚かれていました。

なんだかとても豪華な部屋です! 前にマレーシアだっけ? インドネシアだっけ? カレーの美味しいお店にお母さんとお母さんの友達のアキコさんに連れていってもらったことがあるんですが、そこのお店みたいです。

僕がキョロキョロしていると、女の子は急に顔を近付けてきました。


「わっ?」


びっくりしてしまいます。女の子は僕のニオイを嗅いで、身を引いて、長い袖の服で口を隠して笑います。


「うふふふ、やっぱりシンザンヘイの匂いがする。君」


また顔を近付けくる女の子! 今度は嗅がずに僕の目を見てきます。近くで見ると女の子の瞳は猫の瞳のようで、犬歯(けんし)も鋭いですっ。


「人間でしょ?」


「いやっ、どうだろね? 違うかもしれないよ??」


僕はあたふたしすると、女の子はまた、うふふ、と笑いました。


「そっかそっか。山童君、人の子を連れて来たんだね・・」


女の子はほっとしたような、さびしいような、山童がオンジイの話をした時と少し似ている顔をしました。


「・・私は、ヤヨイ。春の季節を表すお化けだよ」


春の、お化け?


「ヤヨイ。鏡のお化けが言ってた気がする」


「マガリカガミね。気を付けて、アイツはお父様より危険なお化けだから・・君の、名前は?」


「僕は、賢介。 荻原賢介(おぎわらけんすけ)


「うん、ケンスケ君。いい名前・・これを、君に」


ヤヨイは近くの綺麗な飾りの箪笥を開けて何か取り出すと、僕の右手を取ってその上に置きました。

指輪です。太陽の印の指輪で、輪の部分に小さな石が3つ付いていました。


「日の印の所に摘まめる所があるでしょ? そこを回してみて」


「うん」


言われた通りにすると、太陽の印の代わりに月の印が出てきました。


「あ、凄い。面白い」


「ふふ、これはイヌガミの指輪。指に嵌めたままそうして日から月に印を変えると、(おおかみ)のお化けに変身できるんだよ?」


「えーっ?」


「使えるのは3回だけ。長くも持たないわ。上手く使いなさい。間違うといけないから、今は元に戻しておいて」


「わかった」


印を元に戻しました。


「でもいいの? 君はマガリカガミの仲間じゃないの? 僕は山童の友達だよ、たぶん・・」


山童はどう思っているかわからないけど。


「ふふ、そうだね。じゃあ、代わりにその鈴をちょうだい。交換しよう」


ヤヨイは僕の腰の熊避けの鈴を見て言いました。


「熊避けの鈴、でいいなら」


これはただの鈴だけど。

僕が鈴を外してヤヨイに渡すと、ヤヨイはそれを腰の帯に付けてくるっと回って鳴らしてみせました。


「ふふっ、いいね!」


ちょっと可愛いかったから、なんと言っていいかわかりません。


「ケンスケ君、お茶を飲もう」


ヤヨイが手を向けると、窓の近くにあった椅子とテーブルが僕達の近くに浮いてきて、部屋の隅の長い台に置かれていたお菓子とお茶の道具と花瓶も浮いてテーブルに並べられました。

水差しと金属の瓶と山童の所にあった物よりずっと豪華な火鉢を浮き上がって寄せられて、水差しの水は金属の瓶に入れられ、金属の瓶は凄く燃え上がった火鉢の台に置かれてすぐに沸騰(ふっとう)します!


「凄いっ」


「ふふ」


金属の瓶はお湯で亀みたいな形の急須と湯飲みを温めて、温まった急須にお茶の葉とお湯が入れられて、浮いたまま亀の急須がぐるぐる揺らされて、湯飲みにお茶が注がれました。

お菓子もたくさん並べられます。


「座ろうケンスケ。私と君のことをたくさん話そうよ?」


「うん」


僕達は椅子に座って、温かいお茶と食べたことないくらい美味しいお菓子を食べながら話し始めました。

僕はここに来てからのこと、学校のこと、家のこと、咳のこと、夏実のことを話しました。

ヤヨイは、好きなお菓子やお茶の種類、春の季節のことを話してくれましたけど、自分のことは何も話しません。


「毎年、どこかで桜は咲くでしょう? 私はそんな風なモノだからね。ふふ」


ヤヨイはそんな風に笑って、お茶を飲んでいました。

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