6話
僕達は朝陽を右手に見てバケヤマドリに乗って飛んでいました。主様の湖が離れてゆきます。
綺麗な湖だったなぁ。広さは芦ノ湖みたい。お婆さんが元気だった頃、家族で行ったことがありました。
「・・山童、そのオンジイって悪いヤツ?」
夏実が聞きます。ちょっと困ってる感じです。
「んん? 悪ぃことは悪ぃ。昔は、目立たなきゃほっといてもいいくらいだった。化け物は大体そんなもんだし、でも最近はやり過ぎだぁ。懲らしめねーとなぁ」
山童はそんなことを言っているのに、ちょっと、さみしいような? 顔をしました。
「それより、2人ともよぉ。オンジイの所にはオイラの仲間も隠れてるんだがよぉ。そいつら、人間にしか使えない強い道具を持ってんだよ」
「人間にしか使えない道具?」
なんだろう?
「あんた、仲間とかいるんだ」
「おう。ケンスケとナツミがいるとオイラ達も助かるんだがよ、どうする? まぁ、ヤバいことはヤバいんだよ。オンジイの手下の中にゃ強い化け物も4人いるし」
「オンジイってのにも仲間いんの?」
「へぇ?」
僕、ドッジボールとかも苦手なんですよね・・
「だから、よぉ。一応、材料集めも済んだし、主様も機嫌よく若水くれたし、ケンスケの弱虫は治したかったけど・・どーしても、ってんだったら、これからオイラの家まで引き返して、元の所に帰してやんよ」
しぶしぶって感じの山童です。
僕と夏実はお互いの顔を見てから、
「もう少し詳しく聞きたいけど、山童達がなんか困ってるなら僕は」
「帰ろう。遊びはここまで。賢介は家に遊びに来たんだから、あたしが連れて帰る」
僕の話の途中で、夏実は言いました。
「・・わかった。オイラ、志場の巫女の言うとおりにする。バケヤ」
山童は夏実の言うことを聞いて、僕が何か言う前にバケヤマドリに呼び掛けようとしたのですが、
「え?」
僕達が飛んでいた空の前から、ものすごく嫌な感じのする黒、青、赤、黄色の4色の煙が絡み合うように回転してこっちに向かってきます!
「いきなりかよっ、湖で目立ち過ぎたかぁ。ケンスケとナツミはしっかり掴まれ! バケヤマドリ、備えろっ!」
山童は草の髪からヒネズミの髭を取りながら鋭く言って、バケヤマドリは拡げた尾羽根に電気を帯び始めました!
「何何っ??」
「敵なの?!」
「ナマクラ、アバタオニ、ヤキムシジョロウ、マガリカガミ! オンジイの手下達だぞっ!!」
4人のお化け達は4色を煙を引いて近付いて
「山童っ!」
「山童ちゃ~んっ、ホホホッ」
「借りを返してやるっ、山童ぁ!」
「山童、確かに童子を連れておるな。ふむ・・」
黒は鎧の武士のお化け。青は獅子舞みたいな顔の吹雪のお化け。赤は派手な女の人の着物を着たムカデのお化け。黄色は鏡を持った顔に大きな目が1つだけあるお化けです!
「バケヤマドリ! ナマクラからだっ」
バケヤマドリは尾羽根からバリィっと雷を出して鎧のお化けを弾きましたっ。
他の3人のお化け達は煙を引いて僕達を囲みます。
獅子舞は吹雪を吐いてきて、ムカデは扇子を振って火の玉を出してきました! 鏡のお化けは何もせず見ています。
「わぁっ!」
「賢介ちゃんと掴まってっ」
バケヤマドリは吹雪と火の玉を避けました!
「アバタオニっ!」
山童は叫んでバケヤマドリがすれ違う瞬間に先に火を点したヒネズミの髭を獅子舞のお化けの顔に投げ付けましたっ。
「ぎゃっ?! ちくちょうーーっ!!」
獅子舞のお化けは顔に当たったヒネズミの髭が燃えて、吹雪の身体を全部焼かれて消えてしまいましたっ。
「おおーっ、やっつけられるじゃん!」
「凄いねっ」
夏実と僕が喜んでると、
「こっちを見ろ」
いつの間にかすぐ横を飛んでいた鏡のお化けがそう言って、僕が思わず振り向くと、お化けの持っている鏡に僕が映っていました。
鏡の僕と目が合うと、めまいがして、それが収まって前を見ると、僕は暗い所にある円い窓からバケヤマドリの背に乗って飛ぶ、夏実と山童を見ていました。
夏実は驚いて、山童は怒ってるみたいです。
「何? え??」
僕がわけがわからなくなっている内に、あっという間に窓の向こうのバケヤマドリは遠くなってしまいました。
(山童が若水以外にも用心しているのであれば、取り敢えずこの童子は連れてゆこう。オンジイなんぞに命を懸けるのもバカらしいからの。シシシ・・)
鏡のお化けの声と笑いが頭の中に響いてきました。
「さっきの鏡のお化け?! ここから出して!」
(騒ぐな、童子)
また声がして、後ろから、シワシワのお年寄りの手が僕のまぶたに触れると、
「あ・・」
僕は物凄く眠くなって、立っていられなくなりました。
(シシ。とりあえず、ヤヨイ姫の話し相手でもさせておくか)
ヤヨイ、ヒメ? 僕は暗い中で倒れて、そのまま眠ってしまいました。