5話
朝になると、浴衣からイワナリ達が火鉢の近くに干して乾かしてくれた元の服に戻った僕達は、山童とバケヤマドリの背に乗って朝陽に向かって飛んでいました。
服は洗うのに使ったムクロジという実の匂いがします。
「いい朝!」
山童は朝から元気です。
「今、何時だろね? ふわ」
あくびがでます。腕時計の時間はずっと止まっているのです。
「ホント。眠っ」
夏実のキッズスマホも時間は止まり、どこにも繋がりません。僕のスマホはたぶんシバさんの作業場のテーブルの上だと思います・・
「ケンスケ! ナツミ! 主様のとこまで一直線だぞ?!」
「わかったよ」
「なすがまま」
「難しい言い方するね、夏実」
「漫画で読んだ。敵の罠にハマった時言ってた」
「オイラは敵じゃないぞ~」
でも、元の世界には帰してくれない山童の言う通りに、バケヤマドリは飛んでゆくのでした。
そこは見果てぬくらい広い湖でした。橋の掛かった鳥居もある小島がたくさんあって、バケヤマドリはその内の1つに降りて、僕達が降りると座って目を閉じて眠ってしまいました。
「また凄いとこ」
「眩しい」
朝陽に湖面が光ってました。
「行くぞ」
山童に付いていくと、そんなに多くはないけど小島や橋を色んなお化け達が渡ってゆきます。
「おはよう」
「山童かぁ」
「おう、オイラだ!」
「お前、オンジイ早くなんとかしろよ」
「任せとけって!」
「後ろの童子達、上手く人間に化けるなぁ」
話し掛けてくるお化け達もいました。シンザンヘイが効いている間は、人間だって気付けないみたいです。
「はは」
「どうも~」
愛想笑いをしてやり過ごします!
どんどん進んでゆくとすれ違うお化け達が少なくなっていって、最後は僕達だけになりました。
なんだかゾワゾワしてきました。
「この先だ。安心しろ、主様は大食いだが、もうずっと眠っていて次いつ起きるかオイラにもわかんねぇくらいだからよぉ」
「大食いって・・」
「恐っ」
一番立派な橋の先の小島の、一番立派な鳥居の先に神社で夏実が踊るような舞台が湖にせり出してあって、そこにお供えをする台が置かれていました。
舞台の前には時代劇のサムライみたいな格好をしたイモリのお化けと藻? みたいなお化けが立っていました。
「山童っ! オンジイを討伐せずに何を遊んでおるっ。どこぞの童子どもまで連れてっ」
「モッ!」
イモリのサムライが怒鳴って、モッは藻みたいなサムライが言いました。
「これから行くんだよぉ。その前に若水を汲んでく、志場のドングリも持ってきたぞ?」
草みたいな髪からヨレヨレのタワーレコードの袋を取り出す山童。
「何?! 志場のドングリっ? 1つくれっ」
「モモッ!」
どうも夏実のドングリは大人気です。夏実を方を見てみると、知らん顔してました。
「しょーがねーなぁ。ほらよっ」
山童が1つずつ2人のお化けのサムライに投げると、2人はすごい勢いで食べてしまいました。
「ふぁ~っ!! 漲るっ」
「モォーッ!」
お化けのサムライ達は鎧がはち切れそうなくらい筋肉モリモリになりました! 藻のお化けもですっ。
「すごっ」
「うわぁ」
夏実はあまり好きじゃないみたいです。
「じゃ、供えるぜぇ?」
山童は舞台に上がって、2回お辞儀をして2回手を叩いて、台にあった皿にタワーレコードの袋の中のドングリを全部を入れました。
「主様、志場の供物です。オンジイを懲らしめにいくので、若水を下さい」
山童がお願いすると、湖の中があやしく光って、お供えされたドングリは全部キラキラした光に変わって湖の中に消えてしまいました。
そのすぐ後に!
「わっ」
「えーっ?」
湖の中から水の魚の大群が出てきて、僕と夏実の周りをぐるぐる回って飛んで、それから山童の周りを移ってゆっくり回って飛び始めました。
「なんだ? すげぇ気前いいじゃん!」
山童は髪から瓢箪を取り出して栓を抜いて、とても入りきらなく見える水の魚の大群を全部瓢箪の中に吸い込ませてしまいました。
キュッと栓をする山童。
「ケンスケ、ナツミ。これで準備できたぞ?!」
山童は、自信満々に言うのでした。