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山童  作者: 大石次郎
2/20

2話

最初は器具で固定したりした乾燥させた輪切りの丸太をチェーンソーで大まかにカットして、それからノミとトンカチで削ってゆきます。

シバさんは完成図を描いたり、木材に印を付けたりしません。

山の動物や川や池の生き物が多いけど、頼まれれば仏像、お地蔵(じぞう)さん、七福神(しちふくじん)天狗(てんぐ)河童(かっぱ)、鬼、山童(やまわら)、キリスト教の木像(もくぞう)も彫ります。

いくつか置いてある切り株は、綺麗(きれい)にして見栄えよくして仕上げ材を塗るだけですが「彫刻師(ちょうこくし)の仕事じゃないから」と林業の会社の人なんかに頼まれた時だけするそうです。


ガチッガチッと音を立てながら、木が隠された本当の形を表してゆくみたいで、作業場の樟脳(しょうのう)の匂いのする狸の毛皮を敷いてもらった椅子に座った僕は、いつまでも見てられます。


夏実は犬のベスとフリスビーで遊んでいたけれど、飽きたみたいでベスと作業場の入り口に顔を出しました。


「賢介、お腹空いたから、ぼた餅食べよう。朝、買ってきた」


「わんっ」


そんなにお腹は空いてなかったけど、僕は母屋のダイニングに行くことにしました。



作業場は土間だから外の、山の水を引いてる手洗い場で手を洗って、上がり(かまち)の所に丸めて転がっていた靴下を夏実が履いて、キッチンでも山の水を()したのでお茶も淹れて、すぐ前のダイニングでぼた餅を食べました。


「これ、シャトレーゼで買ったの?」


「農協」


「へぇ」


ぼた餅を食べ終わって、モンスター集めるゲームの話とか、勉強の話とか、夏実は脚が速いから陸上クラブに誘われてるけど練習場が隣の町で遠いとか、僕はマラソン大会毎年見学するの気まずいとか、話しました。


「山の(ほこら)、見に行く?」


「行く!」


ここに来たら絶対見に行ってます。



虫除けスプレーを振って熊避けの鈴を腰に付けて、僕達は山小屋の裏手の小さい畑の先の柵の戸を開けて、山に入ってゆきました。

ベスはシバさんがいないと山の動物達に反応して飛び出してゆくので連れてゆきません。

夏実はジョギングシューズ。僕はハイキングシューズです。僕の靴はシバさんが猟に行く時使ってる靴と同じメーカーです!


祠までそんなに遠くないから、少し汗が出てくる頃にはもう半分くらい進みました。

山の斜面側の道は日が当たって暖かいので咳も出ません。


「賢介、大丈夫?」


「うん」


斜面に生えてるたくさん桜が見えました。


「今年は花が少ない気がする」


「ん~。でも最近、観光客の人達が桜を見に山の中に勝手に入っちゃうから、管理用の林道しかないし」


「大変なんだ」


「大変、って程じゃないけど」


使い込んだウェストバックを付けた夏実はめんどくさそうな顔をして歩きます。

たまに山小屋をペンションとかカフェと間違えて来てしまう人もいるみたいです。



祠は進んだ先の森の中の急に開けた場所にあります。木陰で、ひんやりした空気。

ここは志場家が管理していて村では『クラ』って呼ばれてます。座る、という字を書くそうです。


「あれ?」


「無いね」


苔の生えた祠にはやっぱり苔の生えた山童の木像が置いてあるはずですが、どこにもありません。

取り敢えず、夏実はウェストバックから一昨年東京に来た時に寄ったヨレヨレになってるタワーレコードのビニール袋に入ったドングリを出して、空の祠の前にどっさりお供えしました。


「神社の方に持ってっちゃった、とか?」


「うーん、それはないと思うけどなぁ」


2人で木像を探していたら冷たい風が吹いてきて、汗で濡れていた僕は寒くて咳が少し出てきました。


「ごほ ごほ」


「賢介、寒い?」


夏実は夏実は近くの平たい日の当たる場所の石の上に連れていってくれました。 そこに座ってポーチから出したネブライザーを吸うと、咳は収まりました。


「大丈夫? 休んだらもう帰ろう」


「うん」


僕と夏実は平たい石の上に寝転がって日なたぼっこしました。


「この石 山童の寝床なんだって」


「ネドコってなんだっけ?」


「ベッド」


「ああ」


日差しと森の匂いが気持ち好くて、僕達は眠くなってきました。


「・・山童って神様なのかなぁ?」


「違う、山の主の使いだって」


「どんな子?」


「からっかったり、助けてくれたり、罰を与えたりする、山の、子供・・」


夏実は眠ってしまいました。僕も目蓋(まぶた)が重くてしょうがないです。山童のベッドは日にさらされていたから温かくて、鳥の鳴き声がして、風で、木の枝がたわんで、葉が、擦れ合って。


・・誰?


誰かの、小さな足音が、こちらに来る気が、して、僕は眠ってしまいました。

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