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山童  作者: 大石次郎
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1話

途中で何度も休憩したから、伯父さんの家に着いたのは夕方になっていました。


田んぼや畑の先の少し高い位置にある伯父さん家から、シバさんの山小屋がある山の桜が見えます。

風に散っていって、今年は花が、少ないかな?


車から降りると元気な妹は、家の前で遊んでいた伯父さんの家の子供達の所に走ってゆきました。

たぶんお母さんが車で電話していたから、すぐに伯父さん達も家から出てきます。


「悪いな。5日程頼むよ。とんぼ返りなんだが」


「構やしない。迎えに来る時でいいから、墓参りしろよ」


「ああ」


伯父さんと話す時の父さんは少し声が若くなります。


「よろしくお願いします」


和美(かずみ)さんも、仕事があるのに大変ねぇ」


「いえ、お義母さんもデイサービスに馴染んでくれて」


田舎が苦手な母さんはこっちに来ると、なんだか萎れたみたいです。伯父さんの奥さんの豊子(とよこ)さんも「ソフトボール部の人みたい」と言っていて、苦手らしいです。


賢介(けんすけ)、ここは空気がいい。ゆっくりするんだぞ?」


志場(しば)さんにはウィスキーを持っていくのよ?」


2人は僕に国産ウィスキーを伯父さん達には、バームクーヘンの箱と佃煮の箱を渡して、すぐに帰ってしまいました。


村の空気は綺麗だけど、僕はなんだか疲れていてウィスキーの箱が重くて仕方なかったです。

ポーチに手を入れると、ネブライザーに指が触って少し気持ちが落ち着きました。



昨日、シバさんが猪のお肉と自然薯(じねんしょ)を持ってきてくれたみたいです。僕や皆がお風呂から上がってから、シシ鍋と、とろろ御飯を食べました。

それから従兄弟や妹達とカートのゲームとキューブで城を作ったりするゲームで遊んでいたら、頭が、ぼうっとしてきて熱が出てしまいました。


僕と妹の布団が敷かれた仏壇の部屋に、僕だけ先に寝ることになりました。

ネブライザーは使わず、コニシ先生にもらってる熱冷ましの薬だけ飲みました。


僕がネブライザーを使い過ぎるから、伯父さんの家に来たので、あまり使わない方がいいんです。


東京にいた時程じゃないけど、少しだけ胸がヒューヒューしました。

障子が開いて、妹が顔を出しました。


「お兄ちゃん、わたし、シバさん怖いから、明日、山の家、行かないよ?」


夏実(なつみ)もいるんだぞ?」


「夏実ちゃんは明後日こっちに来るって」


妹は夏実に懐いています。


「夏実はお前みたいなチビ、嫌いだってさ」


「お兄ちゃんのバカっ! バームクーヘン全部食べちゃんもんっ」


妹は障子を閉めずに廊下を走っていってしまいました。廊下の窓のどこかが網戸になってるから、少し風が通って、寒い気がしました。


「・・障子、締めろよ」


まだ熱があるし、薬も飲んだから、伯父さん家の厚い布団を退かして起きるのが面倒臭い気がしました。

ふと気になって、仏壇を見ると、お爺さん達の写真が僕を見ていました。



次の日、熱が下がった僕は、シバさんの家の山の神社の鳥居の所まで、道の駅の仕事がある豊子さんに送ってもらいました。

鳥居の階段には下駄を履いた夏実が座っていました。僕は下駄を履く女子を他に見たことないです。


「ありがとうございました」


「うん。夏実ちゃん、夕方迎えに来るから、よろしく! あと、これ、煮しめ。お父さんにね」


「わー、ありがとう。明日、(わらび)とか持ってくから」


「あら、楽しみ! じゃあ、賢介くん。志場さんによろしくね」


「はい」


豊子さんは、軽でも車高の高い車で走り去っていきました。


「賢介、神社の脇から近道しようぜ?」


「わかった。あ、これウィスキー」


夏実は大きな煮しめのタッパを持ってるから、見せるだけです。


「お~っ、これ、ネットで高く売れるヤツだ!」


「シバさんにだよ?」


「あたしも志場だってば」


「売らないでよっ」


「志場家の財政を考えるとね~」


僕と夏実は言い合いながら参道に入りました。

そこから左手の茂みの先にある大きな日本語の他に英語とフランス語と中国語と韓国語とインドの言葉で『関係者以外立ち入り禁止』って書かれてる、立て札の先に張ってある紙垂(しで)が付けられた縄を潜って、獣道みたいになる道を進みます。

すぐに道の右手の山側の端に落書きみたいな字が彫られた苔の生えた石がいくつも置かれるようになって、その中でも一番大きな石の前に来ると、僕達は止まりました。

夏実はポケットからドングリを1つ取り出して石の前に置きます。

夏実は秋になると木の実を物凄く集めるので、いくらでも持ってます。


「すぐ栗鼠(りす)とかが食べちゃうけど」


「山の祠とおんなじだよね?」


「こっちは余所行きじゃないかなぁ? 山童(やまわら)は山に住んでるからさぁ」


夏実は立ち上がって歩いてゆきました。

僕も山童の石にペコって頭を下げてから追い掛けます。

遅れるとカッコ悪いから少し早歩きもします。

急いだのと木陰の道は肌寒いから、2回だけ咳が出ました。


「悪いの?」


僕のポーチをチラっと見る夏実。


「別に」


僕達は細い道を抜けて、一車線だけのあちこちヒビが入ってそこから草も生えたアスファルトの道に出ました。

道には吹き付けた、桜の花弁があちこち溜まってます。

ちょっとだけ段になってるから、アスファルトに降りると夏実の下駄はカタッと音を立てます。

並んで坂を登りだすと下駄はカタカタ鳴って、山の仲間に僕達が来るのを知らせるみたいでした。

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