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黄昏トキナとともにダンジョンボス討伐②

「おかしい。いつもより体の動きが鈍い気がする」

「そうですの? ワタクシはあまり違いを感じませんけれど」

「クスン……クスン……」


 トキナは泣いているだけの少女霊に目をやる。

 そして、このモンスターのたちの悪さに気づいて顔をしかめた。


「気づくのが遅れた……泣いているだけに見えて、あれ自体が何らかの攻撃行動。おそらくはこちらのエネルギーが吸収されてる」


 考えている時間ですら、体力が削られていく。

 僅かな可能性に賭けて今の段階から戦いを挑むか、それともあくまで逃げ道を探すことに徹するか。


「じゃあ考えてる場合じゃありませんわね。ぶん殴るのですわ!!!」

「ちょっと!」


 トキナが止める間もなくバスカが少女霊に向かって飛び出していく。


「ワタクシの拳を食らうのですわァァァ!! って、あれっ!?」


 少女霊の顔面を躊躇なく狙ったバスカの拳は当たることなくすり抜ける。


「どうして当たらないんですの!?」

「いや、だから不定形に物理攻撃は……!」


 だが、これで確信に変わった。

 確実にあのモンスターは不定形、それも完全に実体のない幽霊だ。


「どうしたら当たるようになるんですの?」

「なにかダメージを通す方法を見つけるしかない。実体を伴っている植物の部分が弱点であってくれればいいのだけど……!」


 飛び出したバスカを見てトキナも踏ん切りがついた。

 悩んでいても仕方がない。

 エネルギーを吸われきる前に、このモンスターを討伐する!


「加速――!」


 トキナの獲物は巨大な槍斧、すなわちハルバードだ。

 身体能力の強化されているダンジョン探索者でなければ扱えないような特注の一品。


 では、なぜトキナがハルバードを武器に選んだのか?

 その理由は単純だ。


「一撃で断ち切る……!」


 圧倒的なまでの破壊力。


 運動エネルギーは「重量×速度×速度」で計算できることは広く知られている。

 このうち速度についてはトキナのスキル”加速”により確保済みだ。

 であれば、あとは武器の重量をひたすら重くすれば最高の破壊力が達成される。


 目にも止まらぬ速さで移動したトキナが少女霊に絡みつくツタをハルバードの一撃でまとめて切断した。


「さすがはトップの探索者ですわ……!」

「クスン……クスン……ア……」


 泣いていた少女霊の声が止む。


「ア…………アリガトウ」


 少女霊がそう呟いた瞬間。

 最初に少女霊にツタを伸ばしていた巨大な花が枯れ落ちた。

 次に地面にびっしりと生えていた葉が萎れていった。

 最後に壁と天井のヒカリゴケが光を失っていった。


「警戒を怠らないで!」


 暗くなっていく中で二人の撮影ドローンがそれを感知して自動でライトをつける。


「地面からなにか来ますわ!」

「援護する余裕はない! 避けて!」


 バスカが地面の僅かな振動を頼りにその場を飛び退く。

 それと同時に地面から鋭く尖った枝のようなものが飛び出してきた。

 それは枝の槍とでも言うべき凶器。

 避けなければ串刺しになっていただろう。


 トキナもまた加速を使って回避する。


「ア……アナタ、モ……ヨウブン、ニ、ナッテ?」

「続けて来るよ!」


 次々に地面から枝の槍が飛び出してくる。


「こ、これ、いつまで続くんですの!?」


 とにかく逃げに徹するバスカ。


「枝を斬る!」


 トキナは加速スキルを使って枝の槍を避け、そのまま攻撃に転じる。

 次々に伸びてくる枝の槍を出てくるそばから切り落としていく。


「……手応えなし」


 トキナはこの枝の槍を破壊することで少女霊にダメージが入るのではないかと予想していた。

 しかし、少女霊の様子を見てもそのような素振りは見られない。

 八方塞がり。


 加速スキルを使用しての攻撃や移動は身体にかかる負荷が大きいため、ずっと加速状態で戦うことはできない。

 こまめに加速のオンとオフを切り替えることで消耗を抑えることができるが、初見のモンスター相手にはそれが命取りになることもある。

 このまま戦ってもジリ貧だ。


「なんとか避けきりましたわ~!」


 枝の槍が止む。

 どうやらバスカは無傷のようだ。


 少女霊はこちらの様子をうかがうように元の位置から一歩も動いていない。

 ならば、攻撃が止まっている今がチャンス。


「使うしかないか、あれを」


 トキナは腰につけた探索用ポーチから一本の小瓶を取り出す。


「久々に最終手段を使うぞ!」


 小瓶の蓋を開け、中の液体をハルバードの先端部分に振りかける。

 それと同時に、ハルバードの先端部分が燃え上がった。


「武器が壊れるからもったいないんだよなぁ。それに魔法付与の霊薬も高価だし。それだけじゃなくて痛いし危ないし……でも、仕方ない」


 魔法付与の霊薬、それは武器にかけることで一時的に魔法系のスキルと同じ効果を発揮することができる未知遺物(オーパーツ)である。


「リスナー共、行くぞ! 合言葉は~~~~!!!!」


 空になった魔法付与の霊薬の瓶を投げ捨てた。


「破壊力は正義!!!!!!!!」


 ――加速。

 すべてがスローモーションに見える世界の中で、ハルバードを両手で握りしめる。

 そして、もう一度。


 ――加速。

 身体的負荷を度外視した加速中の加速。

 超高性能の特注撮影ドローンですら捉えることができない刹那の境地。

 二重の加速がもたらすものは圧倒的なまでの速度!


 助走をつけてあとは全力で振り下ろす――!


「アナイレイション・アンリミテッド!!!」


 少女霊を脳天から一刀両断するように振り下ろされたハルバードが地面に当たった。

 それと同時にあまりの威力に耐えきれなくなったハルバードが衝撃で自壊。

 爆発といっても差し支えない破壊が巻き起こり、トキナは吹き飛ばされる。


 まさに破壊の権化。


「一体何が起こりましたの!?」


 吹き飛ばされたトキナは無惨に地面を転がる。

 バスカは急いで駆け寄った。


「大丈夫ですの!?」

「……さすがに自分の攻撃で倒れたりはしないって」


 満身創痍ではあるが、トキナが立ち上がる。


「でも、今回はヤバかった。不定形のボスってだけでも厄介なのに部屋に閉じ込めてくるとか。何にしても、これで先に進めるはず」


 この強さであればほぼ確実にあのモンスターはダンジョンボスだ。

 であれば、次の階層が宝物庫になっている。

 下に続く道があるとすれば、少女霊が陣取っていた中央のはず。


 そう思ってトキナが中央に目をやる。


「……嘘でしょ?」


 確かに必殺技を叩き込んで少女霊は倒したはず。

 あの必殺技は二重の加速により自身の消耗が大きい分、まさに必殺。

 まともに当てて倒せなかったモンスターはいない。


 だというのに、そこにあったのは最初と同じ巨大な蕾。


 音もなく蕾が開き、そして枯れ落ちる。

 その中から現れる1体のモンスター。


「イ……イタイ……クスン……クスン……」

「嘘……そんな……」


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