お金がないならモンスターを食べればいいじゃない!
「これ、いつお金はいるんですの?」
というわけで時は戻って現在。
バスカは早速購入した機材を使ってダンジョン配信を行ったわけである。
1億人見ていたはずなので、お金がもらえるはずなのだが、いつまで経ってもお金が貰えない。
バスカの中では「配信したらたくさんお金がもらえる」くらいの認識だったので、疑問でいっぱいだった。
「このタブレットにお金が出てくる機能がついているのではなくて……?」
配信操作用のタブレット端末を慎重に振るバスカ。
機械音痴の彼女にとって、タブレットはアニメと動画を見るための装置だ。
それ以外に何ができるのかは全く知らなかった。
「困りましたわね……。今日は我慢しましたけれど、明日はさすがにご飯を食べたいですし……」
バスカは考えを巡らせる。
お金は使い切ってしまった。
せっかくの一人暮らしなのだから、こんな早々に誰かに頼るというのは面白くない。
「……そうですわ。閃きましたわ!!!」
バスカの脳に浮かんだのは名案。
「モンスターを食べれば配信もできて一石二鳥ですわ~~~!!」
*
「というわけで、実はワタクシお金を使い果たしてしまったのですわ! だから今日はモンスターを食べながらダンジョンを進んでいきますわ~!」
撮影ドローンに笑顔でそう告げるバスカ。
「モンスターを食べる動画は見たことありますし、美味しそうなモンスターを食べて進みますわ!」
ダンジョン配信ブームのこの時代、配信者たちはバズりを求めてダンジョン関連の配信をだいたいやり尽くしている。
モンスター討伐のお役立ち講座、派手なバトル、攻略よりも歌や踊りメインのもの、未知遺物紹介、果てには迷惑系動画まで。
その中にモンスターを食べている動画も当然存在した。
しかし、モンスターを食べる行為はかなりリスクが高い。
モンスターはその生態がほとんど解明されていないばかりか、人体にとっては毒であることがほとんど。
少量の摂取でもお腹を壊し、多量に摂取すれば死亡報告まである。
また、ダンジョンの外に出すと塵になってしまう性質もあるため、一般的な食料としての利用はほぼ不可能。
ゲテモノ食い動画としての需要はあるかもしれないが、それ以上でも以下でもない。
まさか、お腹が空いたから大真面目に食料にしようとするバカがいるとは誰も想像していなかった。
「ちなみに今日来たのは黒花塚ダンジョンですわ!」
黒花塚ダンジョンは最近出現した新しいダンジョンである。
ダンジョンは攻略されれば入り口であった空間の亀裂が消え、また違うダンジョンが世界のどこかに出現する。
そのため、日々ダンジョンは新しく現れるのだ。
「今回は森みたいなところですわね。美味しいモンスターがいることを祈っておきますわ」
ダンジョンと一口に言っても内部は多岐にわたる。
迷宮のようになっていることもあれば、空が再現され異世界のようになっている場合もある。
何にしても、共通しているのは下層への入口を見つけて進んでいくことだけ。
この黒花塚ダンジョンは異世界タイプのダンジョンであり、森が広がっていた。
こういったダンジョンはモンスターを避けて進める可能性がある一方で、潜んでいるモンスターが見つけづらく奇襲されやすい。
また、一応は道がある迷宮タイプと違って、広大な中から次階層への入り口を探す必要があるため、マッピングは必須であった。
「あっ!!! あれきっと美味しいやつですわ!」
まあ、マッピングなんてバスカにできるはずもない。
バスカが駆けていった先にいたのは中型のイノシシ。
中型ではあるが鋭く巨大な牙が口から覗いている。
バスカという獲物に気づいたイノシシは鼻息を荒くすると、巨体に似合わぬ機敏な動作で突進を行ってきた。
「危ないですわね!」
ひらりと横にかわす。
その流れでバスカがイノシシの尻尾を鷲掴みにした。
「かわいい尻尾ですわね」
イノシシは振り払おうとそのまま前に向かって走るが、一切動かない。
相手は自分より弱そうな人間。
中型とはいえどこのイノシシモンスターの筋力は相当なもの。
にも関わらず、巨大な岩に縛り付けられているかのごとく、全く前に進むことができなかった。
「そーれっ!」
ふわり、とイノシシの身体が浮いた。
バスカが力に任せて尻尾を持って投げたのだ。
脚をバタバタさせて抵抗したイノシシだったが、脚をバタバタさせても空は飛べない。
眼の前に迫ってくる大木になすすべなく、そのままイノシシは気絶するのだった。
「食料ゲットですわー!」
気絶したイノシシの脳天に止めの踵落とし。
鈍い音ともにイノシシは天に召された。
「というわけで、調理開始ですわ! まあ、肉ってのは焼けば食べられるんですのよ!」
まさかの解体は素手!
毛皮をバリバリと両手でむしり取ると、手刀の要領で肉に手を突っ込む。
あとは引っ張って剥がすように肉を一切れ取り出した。
名家のお嬢様と言われてそれを信じられる者はこの世界に一人もいないだろう。
良くて蛮族の族長の娘とかだ。
「これに火を通して食べていきますわ~」
バスカが取り出したのは携帯調理器具だ。
見た目はただの薄い板だが、未知遺物の技術が使われておりボタンを押して板に乗せるだけで加熱が可能だ。
「焼けましたわ! ちょっと赤い気もしますけれど、これくらいは多分平気ですわ!」
そう言ってポーチから塩コショウを取り出す。
これは家に用意されていたものをそのまま持ってきた。
出来上がったのは焼いた肉に塩コショウをざっくりかけただけの代物だ。
「美味しそうですわね! 早速食べてみますわ。…………んー、ちょっと癖はありますけれど、とりあえず空腹は凌げそうですわ!」
お嬢様だというのに食べられればなんでもいいのだろうか。
「ちょっと味変してみますわ~」
そこら辺に生えている草と一緒に肉を口に放り込む。
「なんか草の味がしますわね。まあ、食べられないほどではありませんわ」
バスカは幼い頃から美食と呼ばれるたぐいのものもたくさん食べてきた。
そのため味の違いは分かるのだが、思考はどちらかといえば味より量。
美味しく食べられたらそれが一番だが、まずは空腹を凌げれば良いと考えるタイプであった。
決して配信ウケを狙ってこんなことをしているわけではないのだ。
いや、配信ウケ狙いのほうがマシという気もするが……
「というわけで空腹も収まりましたし、ダンジョンを攻略して参りますわ~!」
ビシッと撮影ドローンにポーズを決めたバスカ。
この後、バスカの運命を大きく変える出会いがあるとも知らずに。
誠に恐縮なのですが、評価してくださると非常にありがたいです。
何卒よろしくお願い申し上げます。