パルヴァンの森
『くわーぁっ』
「コレが、ネージュ殿の子供かぁ…可愛いな!女の子か?」
「はい、女の子で名前はネロです。」
「ネロか。よし、ネロ、今からパルヴァンの森に行くか!」
『くわっ!』
ネロが生まれてから3ヶ月後に、カテリーナ様も無事に元気な赤ちゃん─ユラン君─を出産。私は前もって知っていたけど男の子だった。どうやらカテリーナ様に似ているようで、既にレオン様の溺愛が始まっていた。
「抱いてみる?」
と、カテリーナ様に訊かれたけど…レオン様の目が怖過ぎて
「───抱くのは少し怖いので…見てるだけにします。」
としか言えませんでした。兎に角、とっても可愛くて元気な赤ちゃんでした。
今日は、そのユラン君を見にパルヴァン辺境地へとやって来た。そのついでに─と、ネージュとネロも連れて来たのだ。
パルヴァンは、ネージュにとっても私にとっても第二の故郷。ネロも気に入ってくれると良いな─と思う。
そのネロをティモスさんにも紹介すると、パルヴァンの森に連れて行ってくれる事になった。ネージュも私も久し振りの森だ。
ネージュが眠っていた大樹は、今でも相変わらずどっしりとそこにそびえ立っていた。
ネージュは、その大樹の元に座り込み、楽しそうに走り回っているネロを目を細めて眺めている。私は、そんなネージュの横に腰をおろして、ネージュの背中を撫で撫でしながらネロを見つめた。
「ネージュ殿、これ、食べるか?」
と、ティモスさんがネージュに果実を取って来てくれた。
『もらおう。我はコレが好きだ。ありがとう。』
そして、ティモスさんは私の横に腰をおろした。
暫くすると、ネージュとネロはそのまま大樹の元で寝てしまっていた。
「ハル、王都での暮らしはどうだ?」
「特に問題はありませんよ。使用人の人達は皆良い人ですし、薬師としの仕事も順調です。あ!私にも友達が2人できました!2人とも貴族のご令嬢なんですけど、数ヶ月後には騎士の嫁になる2人なんです。2人ともとっても良い人なんですよ!」
「そうか。それは良かったな。」
と、久し振りにティモスさんにワシャワシャと頭を撫でられた。
「ハルも結婚…するんだなぁ…。何となく、まだまだ先の話だと思っていたが…。」
「私も…まだまだ先かな?何て思ってたんですけどね。何と言うか…不安になっちゃって…。」
「ハルにとって、エディオル様は、その不安を取り除いてくれる存在─と言う事だな?」
「…はい。」
「ハルは、エディオル様となら、幸せになれるんだな?」
「…はい。」
「そうか…。」
ティモスさんが優しく微笑む。
「出会いこそ、俺はハルを問答無用で拘束して地下牢に放り込んだが…1人、元の世界に還れなくなったのに泣き言恨み言一つ言わずに、いつも笑顔のハルが心配で仕方無かった。それで、ついついハルに対して過保護になってしまったんだけどな。いつかハルに、笑顔だけじゃなくて、色んな自分を曝け出せる人ができたら良いな─と思っていたんだ。」
「ティモスさん…」
「ハル、これから、もっと幸せになれよ。あぁ、勿論、何かあったら…いや、なくても、いつでもパルヴァンに来いよ?パルヴァンは、いつでもハルを受け入れるからな。いや─別に今生の別れじゃないんだけどな?──って、ハル!?」
「─っ…ティモスさん……私、泣いちゃいます…」
「え!?いやいや、もう泣いてるからな!?え?ほら、泣き止もうな!?」
ーあぁ、本当に…還れなくなって飛ばされた場所がパルヴァンで良かったー
「ティモスさんが良い事言うからですよ。胸が…ポカポカ温かくなっちゃいましたよ。それで、泣けちゃいました。」
「…そう…か。なら…良かった─なのか?」
「ふふっ。ティモスさん、ありがとうございます。」
改めてティモスさんにお礼を言う。
『くわ???』
寝ていた筈のネロが私の膝に両足を乗せて、私の顔を覗き込んできた。
「ネロ、起きた──」
ペロッと、ネロに涙を舐められた。
『くわぁ?』
小首を傾げた後、またペロペロと頬を舐められる。
「はぅー。ご褒美戴きました!ネロ、ありがとう!!」
と、ギュッとネロを抱きしめた。
『くわぁー』
と、ネロが嬉しそうに声を上げた瞬間、ネロの身体がキラキラと輝きだした。
「「えっ!?」」
私もティモスさんも同時に驚き、そして、同時に─まさか─と思い至る。
そのキラキラが眩しくて、少し目を細める。そうして、その光がなくなった後──
「あー…うん。いつかはこうなるだろう─って…思っていた。俺だけじゃなくて、皆が思ってた。でも…早かったな…。」
「…ですね。いつかは─と思ってましたけど…3ヶ月とは思いませんでした。」
勿論、ティモスさんは遠い目をしていて、私は
ーやだ…チートって怖いー
と、少し自分が怖くなった。
ネージュと同じアイスブルーの瞳
ノアと同じ黒色の髪
5歳位の可愛らしい女の子が
私の膝の上にキョトンとした顔で、チョコンと座っていた。




