戻った日常
*エディオル視点*
*少し日は遡って、ハルが悠介を日本へ還した日*
「悠介の精神に干渉した。」
「…それは…禁忌だろう!?」
コトネが自室に下がった後、リュウから話があると言われて、今、俺とゼン殿とリュウの3人で執務室に居る。
「あぁ、この世界では禁忌だけど、あっちの世界では…ね。」
と、肩を竦めながら言うリュウ。
「もともと、この世界がゲームの世界だったって話はしたよな?悠介がこの世界に来たのも、多分その強制力が働いたんだと─俺は思ってる。まぁ…ハルのお陰で元の世界に還せたけど、ここでの記憶を持ったままだと、どうなるか分からないと思ったんだ。」
「なるほど。この事、ハル様には?」
「勿論言ってない。ハルは…今回の事はネージュが絡んでいるから、悠介を完全に赦している事は無いと思うけど…“悠兄さん”と呼ぶ位だから、嫌いになったりはしてないだろうし。この世界やハルの記憶を消した─とはね…。」
リュウは少し困ったような顔をする。
ーコレが、本来のリュウなんだろうー
未だに、コレがあの時の魔法使いなのか?と、疑いたくなる程の変わりようだ。コトネも、そんなリュウの変化や態度で、リュウの事は全て赦している。寧ろ、同じ魔法使いとして頼って信頼している。
禁忌である魔法を使ってでも、ユウスケの記憶を消したのも、これから先コトネに害が及ばないように─なんだろう。
「一応、ハルのエディオルとゼンには言っておこうと思って。それと、あの魔道具の事だけど、まだ裏の世界には残っている可能性が高いと思う。まぁ…こればっかりは地道に探して回収して行くしかない。でも、何とか…アレを使われても、魔力が吸われないようにする事ができないか…色々と考えてみるよ。」
それからもう少し今回の事を話し合ってから、リュウはその日のうちに隣国へと帰って行った。
*****
あの事件以後は平和な日々を送れていた。
どうやらコトネは、ネージュ殿のお腹の子が気になって仕方が無いようだ。毎日のように
「モフモフ…」
と呟いては顔が緩んでいる。
ー可愛いしかないなー
と思いながらコトネを見る─が、ルーティンになっていた。
その日の仕事は護衛ではなく書類作業だった。その為、思ったよりも早く終わり─
「終わったのなら、今日はもう帰っても良いぞ。」
と近衛の隊長に言われて、素直に帰る事にした。
「ハル様なら、ミヤ様と一緒にネージュの所に行っています。」
とバートに言われて小屋にやって来ると、小屋の前の庭にある木の下に、ネージュ殿を挟むようにしてハルとミヤ様が座っていた。どうやら、ミヤ様とネージュ殿は寝ているようだ。そのまま、静かに近付いていくと
「やっぱり、安心と安眠の魔法が掛けられてるんだ。」
「──まだそんな事を言っているのか?」
「ひゃ─────んぐっ」
ビックリ?したコトネが叫びそうになったが、慌てて自分の口を押さえて我慢した。コトネは“安心”について言い訳をしていたが、また後でしっかりと解らせよう─と、心の中で呟いた。
まぁ…そこからは色々と驚きの連続だった。
ネージュ殿がいきなり産気づいた─と思ったら、5分も掛からないうちに生まれた。人間の出産や獣の出産とは全く違っていた。
その子供は、コトネが想像していた“黒のモフモフ”だった。我慢?していた末に、そのモフモフを抱っこした時のコトネは
ーヤバい位に可愛かったー
「折角エディオルさんが早く帰って来たんだもの、私ももう帰るわ。お邪魔虫─にはなりたくないからね。」
と、ミヤ様が帰った後、俺は久し振りにコトネを俺の部屋へと連れ去って来た。バートにお茶の用意をさせてから下がらせ、2人きりになった。
俺の足の間に座らせて、後ろから抱きしめた。その小さな温もりに安堵する自分が居る。
「ネージュとノアの子供、可愛かったですね。」
「ん?そうだな。コトネも可愛いけど。」
「ゔっ──やっぱり、可愛いのハードルが低過ぎる!」
またいつものやりとりだが、こうして普通にコトネと過ごせる時間が幸せだな─と思う。
ー後は…結婚できたらなぁー
コトネの気持ちが追い付くのを待つ─と言ったのは本心だ。でも、今すぐにでも、コトネの全てが欲しい─とも思う。
“婚約者”になれば安心できると思っていたのに。なったらなったで、そんな不安定な肩書きだけでは物足りない…。もっとしっかりとした形にしたい─。
どうも、コトネに対してだけは欲の底知らず─の様な気がする。
そんな事を考えていると、無意識に力が入っていたようで
「…ディ、ちょっと…苦しいかな?」
と、コトネが俺の腕をペシペシと叩いた。
「あぁ、すまない。こうして2人でゆっくりするのも…久し振りだな─と思ったら、ついつい力が入ってしまった。」
「……」
「コトネ?」
いつもなら、逃げようとしたり恥ずかしがったりする筈なのに、何の反応もしないコトネ。
「あのですね?えっと…その…ディは…私と…家族になってくれるんですよね?」
と、コトネが口を開いた。