カルザイン侯爵夫人
「これは、一体何の騒ぎなの?」
後ろを振り返れば、侍女らしき人を連れた、これまたキリッとしたご婦人が居た。
ーきっと、エディオル様のお母さんだー
第一騎士団長様を見た時、エディオル様は父親似と思ったけど、お母さんとも似ている。やっぱり、イケメンの両親は美男美女なんですね─。
「まぁ、ルーチェ様!お久し振りですね!」
「……あなたは…オルソレン伯爵夫人…とエレノア嬢…だったわね。」
「そんな他人行儀な呼び方はお止めになって?お互い、子供同士が結婚しているんですよ?リリーとお呼びになって?」
「……」
ー流石はエディオル様のお母さん。一気に圧?が掛かって来ました!ー
「ところで、何故、オルソレン伯爵夫人とエレノア嬢が青の庭園に居るのかしら?」
「え?“何故?”とは─ここの使用人に入れてもらいましたの。エレンが、エディオル様に会いたいと─。そうしたら、エディオル様がここにいらっしゃったから、入って来たんですの。ほら、そこの─平民の娘も入って来ているでしょう?」
「平民の娘─」
声を出して反応したのはルーチェ?様だけど、エディオル様もその言葉にまた反応して、更にゾワゾワする笑みを深めた。
ー2人分の圧が半端無いー
「そうなんです!どうしてここに平民の娘が居るのかって!それで、今ここから出て行ってもらおうとしてたところなんです!」
と、意気揚々とエレノアさんが声をあげた。
いやだ…この世界でも、若い子は怖いもの知らずなの!?そろそろ黙ってくれないかなぁ?こっちは笑顔で立ってるだけで大変なんですけど!?
「ねぇ…エディ?あなたは今日、エディの大切な人の為に青の庭園の立ち入り許可を取った筈─だったわよね?」
「はい、そうです。」
「その大切な人とは…誰の事なの?」
ーえ?ひょっとして、平民の私はアウトなんですか!?ー
ギョッとなりそうなのをグッと我慢していると、エディオル様が私の横迄来て、ソッと私の腰に手を添えながら微笑んできた。
「勿論、ここに居るハル殿の事です。平民ですが─パルヴァン邸付きの薬師です。」
エディオル様はそう言うと、私の腰を指で軽く叩く。
「…初めてお目に掛かります。パルヴァン邸付きの薬師─ハルです。宜しくお願い致します。」
平民なので、カーテシーではなく、背筋をスッと伸ばしたままで腰から少し折り曲げ頭を下げて挨拶をする。
「そう。あなたが、あのハルさんなのね?」
ーん?あのって…何?ー
顔を上げてルーチェ様を見ると、優しい顔で私を見ていた。
ー???えっと…平民だけど、大丈夫そう?ー
チラリと見たエディオル様も、優しい顔をしている。何だかよく分からないけど、大丈夫そうで良かった。で、終わらないのが─
「ルーチェ様!エディオル様のお相手が平民など…有り得ませんわ!ここは、ルーチェ様がハッキリと──」
「本当に煩いわね──。」
「え!?」
「先ずは、オルソレン伯爵夫人。私は、あなたに名前呼びを許した覚えは無いわ。」
ーあれ?このセリフ、今日だけで二度目だよね?ー
「次に、平民だとして、何か問題があるのかしら?伯爵夫人が、侯爵家子息のプライベートに口を出すとは…自分の立場を弁えなさい。そしてもう一つ。私は─カルザイン侯爵家は、今日、オルソレン伯爵夫人とエレノア嬢に、青の庭園への立ち入りを許可していないわ。あなた達2人は、不法侵入者よ。」
「なっ─不法侵入者とは酷いではありませんか!?お互いの子が結婚し、繋がっていると言うのに─」
オルソレン伯爵夫人が、更にルーチェ様に追い縋る。
「えぇ、残念ながら、繋がりがあるからこそ、あなた達2人はまだここに居られるのよ?でなければ、あなた達は2人とも青の庭園に一歩踏み込んだ時点で拘束されていたでしょうね。」
「「!!」」
「これで分かったかしら?私が衛兵を呼ぶ前に、ここから出て行きなさい。」
「…分かりました…。」
「お母様!?」
オルソレン伯爵夫人は、隠しきれない怒りを持ちながら外へと向かって歩き出し、エレノアさんは納得いかないと言う顔で私を睨み、オルソレン伯爵夫人の後を追って行き、その後を少し距離を空けてカミラさんが付いて行った。
そして─
「毒蜂と小さな虫が、失礼致しました。」
ーふわぁっ!!ー
あの突然現れた男の人が、結構離れていた位置に居たのに、また気配も無く瞬時に近く迄来て喋り出して、ビックリしたけど、何とか変な声は我慢できました!
「本当にね─。今回の事、きっちりイーサンに報告しておいてね。」
「承知しております。では、失礼致しました。」
その男の人は文字通り、消えるように─消えた。
ー魔導師なのかなぁ?ー
なんて、少しボーッと考えていると、ルーチェ様が私の方へと近付いて来て─
「ぐふっ───」
「母上!」
「あー、会いたかったわ!ハルさん!!」
そう言って、何故かルーチェ様に抱き付かれた。
抱き枕なハルです。




