父と兄
「ふわぁー!すごく大きくなってるね!!」
あれから、お腹の子の成長は順調─どころではない程のスピードで成長しているお陰?で、いつ生まれてもおかしくないんじゃない?と思える位に大きくなっている。
「ネージュ、何か変わった事はない?」
『我は大丈夫だ。少しお腹が重い故、寝ていると苦しい時があるが…。』
「ふふっ。それは…しょうがないね。」
“苦しい”と言いながらも、目は嬉しそうに笑っている。
「家族が増える─って、良いね。」
ネージュのお腹を撫で撫でする。
『主。主も、我にとっては家族のように大切な存在だと思っている。』
「ネージュ!私も思ってる!!大好き!!!」
ネージュの首に抱きついた。勿論、ネージュの尻尾はブンブンと嬉しそうに揺れていた。
「最近、より一層…仲が良いな。」
『そうですね…。2人が同性で良かったです。』
と、エディオルとノアは顔を見合わせて苦笑した。
*****
「ネージュ殿が産気付いたら、後は見守るだけ─ですね。」
いつ生まれてもおかしくない─と言うところまで来たので、またゼンさんに色々訊こうと辺境地迄やって来ました。
「人間の出産だと、色々と補助する事もありますが、ネージュ殿は魔獣であり動物ですからね。特別、何か問題が起こらない限りは補助は必要ありません。」
「…ですよね。見守るだけですよね…モフモフを。ふふっ。楽しみだなぁ。」
気が緩むと、直ぐに顔がニマニマしてしまう。
「話は変わりますが、ハル様の体調は大丈夫ですか?また、無理はしてませんか?」
と、ゼンさんが少し心配そうな顔をして訊いて来た。
「はい。体調は良いですよ。無理もしてません。」
無理をしようにも、ルナさんとリディさんが過保護過ぎて、普通に過ごす事も大変だったりする。
私の事を思ってくれてるから─なので、ちょっと困ったりもするけど、嬉しい事だなとも思う。
チラリとゼンさんを見る。
「あの…私の…父なんですけどね。本当に優しくて…私が喜んだりすると、いつも目を細めて笑ってくれてたんです。その笑い方が、ゼンさんに似てるな─って。だから、ゼンさんを見ると…安心するんです。エディオルさんもそうなんてすけど、ゼンさんにもいつも助けてもらって…本当に、ありがとうございます。」
「───ハル様…」
「ネージュやカテリーナ様を見て、家族が増えるって良いな─って思って。それで…えっと…何と言うか…ゼンさんが…お父さんみたいだな─って思っていたので…あの…“ハル様”って呼ばれると…ちょっと寂しいと言うか……あれ?何を言ってるんだろう??」
コテンと首を傾げる─じゃなくて!
「────ぐぅ────っ──」
ゼンさんがまた、片手で顔を覆って呻き出した。
「すすすっすみません!変な事言って!」
前にもこんな事あったよね!?“お父さんみたい”なんて言うと、こうなるって事は、そんな風に思われて迷惑だ─って事だよね!?
「もう言いませんから!本当にすみません!」
「ハル──」
「ふぁいっ!?」
ワチャワチャ焦っていると、顔を覆っていた手を外して、優しい目をしたゼンさんに、優しい声で名前を呼ばれた。
ーまた変な声が出ましたけど!?そこは、スルーして下さい!って、あれ?今ー
「私も、パルヴァンで一緒に過ごすようになってからは、ハル…を娘のように…思っていましたからね。そう言ってもらうのは、本当に嬉しいんですよ。そんな娘の様に思っているハルが寂しいと…言うなら、“様”は外しますよ。ただ、大勢の目がある場合は仕方無いですけど。」
ゼンさんはそう言いながら、私の頭を優しくポンポンと叩いた。
「ふふっ。私の父も、こうやってよく頭をポンポンとしてくれました。」
嬉しくて、ニッコリと笑うと
「──くぅ─っ!娘が可愛い──」
ゼンさんが口元を抑えて何かを呻いた。
「え?何か言いました?」
「──いえ。独り言…です。」
「はいはい。ハル様は何も気にする事はありませんよ。」
「ロンさん!?どうしたんですか!?」
「グレン様にどうしても確認していただきたい書類があったので、魔法陣を使わせていただきました。それと、帰りはハル様と一緒に─と、ルナからお願いされたので、宜しくお願いしますね。」
実は、今日はゼンさん目的で王都パルヴァンから辺境地に行く─と、ルナさんとリディさんに言うと
「でしたら、辺境地へはハル様だけの方が良いかもしれませんね。」
と何故か分からないけど、そう笑顔で言われて、辺境地へは私だけで来ている。ルナさんとリディさんは、王都パルヴァン邸で待ってくれている。
「分かりました。こちらこそ、宜しくお願いします。」
「しかし、ハル様が娘─と言う事は、私にとっては妹と言う事になりますね?」
少し愉快そうに笑うロンさん。
「妹…!!私ひとりっ子だったので、兄妹とかに憧れてたんです!ミヤさん達も素敵な“お姉さん”達だけど……ロンさんが…お兄さん!素敵ですね!!」
「「……」」
ニマニマする顔を両手でギュッと押さえる。
「“妹”からの…“お兄さん”──良い響きですね。」
「“娘”からの“お父さん”─も良い響きだぞ。」
そんな親子のやり取りは、ハルには聞こえていなかった。