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繋がり

ここ、王都のパルヴァン邸にも、地下に広い部屋がある。宮下薫を日本に還した時のように、今回も地下にある部屋で悠兄さんを還す事になった。

この部屋に居るのは─ゼンさん、ミヤさん、エディオルさん、リュウ、私─だけだ。





「悠兄さん、また会えた事は…嬉しかった。日本に還っても、元気でね。」


「俺も、またハルに会えて嬉しかったよ。元気でな。その…エディオルさんと…幸せにな。」


私との挨拶が終わると、悠兄さんがミヤさんへと視線を向ける。それに気付いたミヤさんが、悠兄さんの方へと近付いて来た為、私は悠兄さんから離れてエディオルさんの居る方へと戻った。






「ミヤ…本当に、色々とごめん。」


「浮気の事ならもう済んだ事だし、今回の事なら私に謝る必要なんて無いわよ。悠介が謝らなければならないのは、ハルとネージュだけよ。」


「そう…だな……。」


悠介は、哀し気に笑う。


「俺、本当にミヤの事好きだったんだ。浮気しといて何言ってるんだ─って感じだけど。もう……二度と会えないんだよな?」


「そうね。住む世界─生きていく世界が違うから。」


「…だな。みや、元気で…今迄…ありがとう。」


「悠介も、元気でね。」


そのまま、ミヤさんは悠兄さんに背を向けて離れて行く。それとすれ違うように、リュウが悠兄さんに近付いて行く。


「悠介、日本で元気でな。」


「リュウ…ありがとう。」


『眞島悠介。ハルのお願いを叶えた後、一晩ぐっすり眠れば、今回の事もミヤ様やハル達の事も、キレイサッパリ()()()()()よ。』


「──え?」


悠介は少し目を見開いた後


「そうだと良いけどね。」


と呟いた。そんな悠介を、いつもとは違う冷たい目で見ていたリュウだが、悠介は勿論の事、その場に居る誰もが気付かなかった。







「ハル、大丈夫か?」


「はい。私はいつでも大丈夫です。えっと、皆さんはもう少し離れていてくれますか?」


悠兄さんとのお別れの挨拶も済み、魔法陣の展開の準備に入る。


ーミスのないように、悠兄さんが怪我とかしないように、慎重にやらないとねー


目を瞑って魔力の流れを整えて、魔法陣をゆっくりと展開させていく。すると、悠兄さんの足元に魔法陣が現れて、そこから水色の光がキラキラと輝き出した。


ー出来る事なら、悠兄さんが池に落ちたって言ってた時と場所に戻れたら良いんだけどー


そんな、少しの願いを込めて魔法陣に魔力を流し続ける。水色の光がフワフワと広がって、一際大きく輝いて──


その輝きが落ち着けば、もうそこに、悠兄さんの姿は無かった。





「ふぅー。終わりました。悠兄さん、無事に…還れてると良いけど…。」


「ハルが還したのよ?大丈夫に決まってるわ。怪我の一つ位してても良い位じゃない?さぁ、上に戻りましょうか。」


「そうですね。ハル様、お疲れ様でした。ロンにお茶を用意させていますから、サロンに行きましょうか。」


ミヤさんとゼンさんの掛け声に、皆でサロンへと向かった。















*****



コポコポ……ゴボッ……









ザバザバザバッ──



「何でまた水の中なんだよ!」


「「「悠介!」」」


「え!?」


「お前が池に落ちて、なかなか上がって来ないから心配しただろう!!ほら、俺に掴まれ!早く上がって来い。」


ー向こうの世界に飛ばされた時に…戻ってる?ー


「眞島さん、大丈夫ですか?今、タオル持って来ますね。」


「あ…あぁ。ありがとう…。」


目の前には、会社の同僚達が俺を心配してくれている。


ーえ?()()は夢だった?ー


お腹に手をあてると─カサリ─と、音がする。


ー夢じゃないなー


俺は、ハル─琴音から頼まれた物を失くさないように、お腹周りに括りつけておいたのだ。それがあると言う事は、夢じゃなかったって事だ。


現実だった事にホッとしたのと同時に、もう二度と咲には会えないのだ─と言う事実に胸が軋んだ。











*****



「「咲と琴音(琴ちゃん)に会った!?」」


こっちに還って来てから一週間後。ようやく小宮さんと藤宮さんと会う事ができた。


「はい。何だかよく分からないけど、気が付いたら異世界に飛んでて…。それで、そこで2人に会って…。」


小宮さんも藤宮さんも、最初は“信じられない!”と言う顔をしていたが、俺が異世界で過ごした話をすると信じてくれたようで、それからは、異世界の事や咲と琴音の事を色々と訊かれた。




「えっ!?琴ちゃんとエディオルさんが婚約!?琴ちゃんは大丈夫なの!?」


「ある意味、琴音が大丈夫じゃない位溺愛されてますよ。」


「「溺愛っ!?」」


琴音とエディオルさんの婚約には、あまり納得?のいかない2人。


「信じられないけど、見て来た人が言うのなら…そうなんてしょうね…。えっと、それで?私達に渡したい物って?」


ある程度話が落ち着いた時に、小宮さんから言われて思い出す。


「あ、そうだった。還って来る前に、琴音に頼まれたんだ。これを、2人に渡して欲しいって。琴音からだ─と言えば分かるからって。」


言いながら2人に袋を渡すと、2人がそれを受け取り、中身を開けて確認する。


「これ…」


中から出て来たのは、水色と黒色の魔石で出来たブレスレットだった。


「ふふっ。また、最強のアイテムが戻って来たって事ね。」


「これを持ってると、あの2人と繋がってるんだって思えるよね。何と言うか…眞島さんのした事は赦せないけど、コレを持って来てくれた事は感謝するわ。」


小宮さんと藤宮さんがニッコリ笑ってるけど…


ー目が笑っていない…よな?ー











“これを持ってると、あの2人と繋がってるんだって思えるよね”


その日の夜、寝る前にふと思い出した小宮さんの言葉。


「俺には…何も残らなかったな…。」


琴音に頼まれた物以外、何も持って還って来なかった。もう、思い出だけしか残っていない。


「俺も、ちゃんと吹っ切れないとな…。」


胸がチクリと痛むのを無視して、そのまま現実から逃げるように眠りに就いた。











*****



『眞島悠介。ハルのお願いを叶えた後、一晩ぐっすり眠れば、今回の事もミヤ様やハル達の事も、キレイサッパリ()()()()()よ。』



リュウ()は、悠介の記憶に干渉した。

意図はなかったとは言え、ハルとネージュが被害を被った。一番最悪な形で。自分のした事を棚に上げて…怒りを覚えた。

悠介が、こちらの記憶を持ったままだと、どうなるか分からない─また、こっちに来られたりしたら─


そう思って、俺は、悠介がハルとの約束を果たした後、ここでの記憶やミヤ様やハルの事を忘れるようにと、悠介の精神に干渉した。


本当は駄目なんだろうけど。


もう、今頃は、この世界やミヤ様やハルの事を忘れて、今迄通りの生活を送っているだろう。



「その、胸にポッカリ空いた穴は…二度と埋まる事はないだろうけどね。」



と、リュウは一人、ひっそりと呟いた。





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