複雑な思い
「悠介、あなたは…明後日、日本に還ってもらうわね。」
「…そう…か。分かった。」
「……」
ここは、王都パルヴァン邸の悠介の部屋。
あの日の夜から、悠介はこの部屋で軟禁状態のままに過ごしている。自分自身のしでかした事にショックを受け、少しやつれているようにも見える。
「ハルとネージュは…元気にしているのか?」
「ええ、ハルもネージュも、お腹の子も元気にしてるわ。」
「本当に…良かった…」
クシャリと、今にも泣きそうな顔をして笑った。
*****
“小宮さんと藤宮さんに、何か言付けとかあったら、俺が還れたら伝えるよ”
と、悠兄さんから謝罪と共に書かれていた手紙を受け取っていた私は、1つだけお願いをする事にした。
今日は、悠兄さんを日本へ還す日。私は、エディオルさんと一緒に王都のパルヴァン邸へと来ている。
「ハル様、いらっしゃいませ。体調は大丈夫ですか?」
出迎えてくれたのはゼンさんだった。
「ゼンさん!はい、私はもう元気ですよ!あの、遅くなりましたけど、あの日は…ありがとうございました。ゼンさんが来てくれて、本当に嬉しかったです。それに、態々ポーションも持って来てくれて、本当にありがとうございました!」
「あのポーションは、もともとハル様が作った物ですからね。でも、元気そうで安心しました。」
目を細めて微笑むゼンさん。その笑顔に、私はまたホッコリと温かい気持ちになって
「うーん…やっぱり、ゼンさんは…お父さんみたいだなぁ…と言うか…私のお父さんに…なんとなく似てるかも??」
ーお父さんも、よく目を細めて優しく笑ってたよねー
なんて、一人勝手にフワフワしてしまっていると
「─うっ…おとうさん───くぅ─っ」
ゼンさんが何やら呻いた後、片手で顔を覆って項垂れた。
「え゛っ!?あっ!すみません!私、また声に出てましたか!?すみません!お父さんに似てるとか!!」
ー駄目だ!最近気が緩み過ぎて、口から言葉がダダ漏れ状態だよね!?ー
とワチャワチャ焦っていると
「ハル、ゼン殿のアレは、気にしなくて良いから。」
と、エディオルさん。
「ハル様、父の事は放って置いて大丈夫です。悶えているだけですので…。」
と、ロンさんが愉快そうに笑っていた。
「悶っ!?」
ー悶えてるって何っ!?ー
兎に角、気分を害している─訳では無いんだよね?
未だ項垂れているゼンさんをよそに
「さぁ、父は思う存分噛み締めた後復活するので、エディオル様とハル様はこちらへどうぞ。」
と、ロンさんに案内されるがままに邸の中へと入って行った。
ーゼンさんは、一体何を噛み締めているんだろう?ー
「ハル!今回の事は、本当にすまなかった!謝って済むとも思ってないけど、本当に、ごめん!」
ロンさんに案内された部屋には悠兄さんが居て、私達が入ると勢い良く立ち上がり、90度に頭を下げて謝られた。
「悠兄さん、謝罪は…受け取ったから、頭を上げてくれる?」
私がそう言うと、悠兄さんは、ソロソロと顔を上げた。
「俺と会うのは…初めてだったな。俺は、エディオル=カルザインだ。と言っても…今日限りで、二度と会う事は無いと思うが…。」
「は…い。そう…ですね。おれ─は、眞島悠介です。今回の事は、本当にすみませんでした!」
ーゔっ…エディオルさんの圧が…半端無い!ー
悠兄さんが少し気の毒な気もするけど、私の為に怒っている─と思うと…ちょっぴり嬉しいな─なんて思ってしまったりする。
今回は、私だけじゃなくて、ネージュにも被害があった。もう少しで、ネージュもお腹の子も危なかった。だから、悠兄さんからの謝罪は受け取ったけど…それじゃあ、丸っと赦せるか?と問われれば…答えるのはちょっと難しい。
だから、今回、ミヤさんのこの─悠兄さんを日本に還す─と言う早い決断には、感謝している。
悠兄さんには助けてもらった事もあるから、嫌いになったりはしないけど…何とも複雑な気持ちだったりする。
「えっと、悠兄さん、手紙に書いてた事なんだけど、1つだけお願いしたい事があって…良いかなぁ?」
「勿論、俺に出来る事なら何でも…。」
手に持っていた鞄から二つの袋を取り出す。
「これを…美樹さんと千尋さんに渡して欲しいんです。」
「藤宮さんと小宮さんに?」
「うん。“ハルからだ”と言ってもらったら、分かってくれると思う。」
「分かった。必ず渡すよ。」
「お願い…します。」
丁度お願いの話が終わった時
「ハル、来て早々だけど、準備が整ったから、頼んでも良いか?」
と、ノック一つ無くリュウが部屋に入って来た。
「え?何でリュウが?」
「何故お前が居る!?」
エディオルさんと同時に声を上げる。
「何で─って。まぁ…何と言うか…一応関係者だし、ハルに何かあった時の為の…お守り?みたいな?」
ー“お守り”って何だ!?ー
「ま、兎に角、移動を宜しく!」
ヘラリと笑うリュウに、苦笑しながら皆でその部屋を出た。




