狙われたネージュ②
魔力が乱れているせいか、ネージュがグッタリとしていた。
ーネージュ!?ー
どうして?昨日診た時は何ともなかったのに。ひょっとして…私が寝てから…何日か経ってしまってる!?
ーどうしようー
グッと手に力を入れて、自分を落ち着かせる。
大丈夫…ネージュには護りの魔法を自身に掛けているし、腕輪も着けているから、時間稼ぎはできる。
私が…風邪なんてひいてなくて、元気だったら今すぐにでも助けられるのに!自分でも、自分の魔力が安定していないのが分かる。下手に魔法を使って、ネージュに怪我でもさせたら…と思うと、魔法を使うのも少し躊躇ってしまう。
「あぁ、良かった。護りの魔術が…解け始めた。」
「本当か?くっくっ─お前、待ってろよ?もうすぐ…お腹の子と対面させてやるから。」
「なっ!」
「「誰だっ!?」」
ーしまった!ー
思わず声を出してしまって、急いで口を塞いだけど間に合う筈もなく。
「あぁ、この小娘だよ。どう?あんた好みだろ?」
と、細身の男の方が、もう1人の男に意味ありげに嗤いながら言うと
「そーだなぁ。ちょっと子供っぽいが…気に入った。ここで会ったのも何かの縁だろうし、連れて帰るか。」
と、ガタイのいい男がニヤリと嗤う。
「あ、ほら、こっちの魔獣に…手を出せそうだ。」
細身の男がそう言うと、ガタイのいい男が手に持っていた短剣をネージュに向けた。
「──っ!ネージュ!」
自然と体が動いて、男達とネージュの間に走り込む。
ー大丈夫!私には耳に着けているピアスがある!ー
ガツン
「ちっ─なんだコイツ!コイツも何か魔術を掛けてるのか!?」
剣先が私とネージュに触れる前に、防御の魔法が展開されて、その短剣を弾き飛ばした。
ーこれで…少しは時間が稼げる…よね?ー
『ある…じ…』
『ネージュ、大丈夫?今は…兎に角、落ち着いて。苦しいかもしれないけど、ネージュ。ネージュは、頑張って、ノアに呼び掛けてくれる?』
『…わかっ…た。主…無理は…するな…』
男2人には、何もしてない風を装って、ネージュと心の中でやり取りをする。
「その魔術も、解いてあげるから。」
「解けたら…覚えておけよ?」
ニヤリと嗤うその顔に、ゾッとする。
ー怯むな。落ち着け。大丈夫。きっと、ノアが…ディが…来てくれるー
暫くの間、その場を沈黙が支配した後、
「そろそろ…解けるんじゃないかな?」
細身の男の発言と共に、私の体からジワジワと魔力が抜けていく感覚に襲われだした。
ドクンッ─ドクンッ─
「─っ…」
あの時の記憶が、鮮明に思い出される。
ー死ぬかもしれないー
「はっ…はっ…」
ー苦しいー
『──じ!あるじ!!』
ーネージュの声が…遠いー
「捕まえた!!」
クラリとした瞬間、ガタイのいい男にグイッと右手を掴み上げられた。
「─いっ───!」
その痛みで、何とか意識を持ち直す事ができた。
「へへっ。まぁ…まだまだお子様だけど…育てるってのも…良いなぁ」
目の前で舌舐めずりしながら言う男に、恐怖を覚える。
『きさま…主から…手を離せ──』
と、ネージュがユラリと立ち上がる。
『ネージュ!?駄目だよ!ネージュ、動けるならここから逃げて!』
『主を置いては…行かぬ!』
「ふん。後でたっぷり…可愛がってやるから待ってろ。先ずは…魔獣が先だ。」
と、男がまた短剣をネージュに向ける。
ネージュの魔力は不安定のままで、立っているのもやっとと言う感じだ。男が一歩前に進んだ時、私はその男の右腕にしがみついた。
『ネージュ!あなたはお母さんになるの!今は─私じゃなくて、自分と子供を守りなさい!!』
ネージュが、“子供”にピクリと反応する。
『ネージュとノアの子供を守りなさい!』
グウッ─と、何かに耐えるように顔が歪むネージュ。
『ネージュ、お願い。私に…ネージュの可愛い子供を見せてね。それで…モフモフさせてね。』
『あるじ─っ』
「しがみついても、何にもならないからな。お前の相手は後だ。」
ドンッと、突き放されてその場に倒れ込む。
「ネージュ!逃げて!」
「煩いですね!」
と、細身の男にバシッと頬を叩かれた。
『主っ!!』
ネージュから、一気に魔力が膨れ上がる
「ネージュ!駄目!お願い落ち着いて!!子供に…負担が掛かり過ぎるから!」
「なっ…何だ!?こいつ…ただのウルフじゃなかったのか!?」
男達は、ネージュをウルフと思っていたのか…。確かに…フェンリルと分かっていたなら、手を出そうとは思わなかったかもしれない。
「これはヤバい!この女だけでも連れて帰るぞ!」
「─っ!」
腰を捕まれて、男の肩に担ぎ上げられた。
『主を離せ!』
「ネージュ!いいから!落ち着いて!お願い!」
ネージュの魔力がどんどん溢れて乱れていく。
ーダメダメ!!ー
誰か!私はいいから、お願い、誰かネージュを止めて!ネージュを助けて!!
「──ノア!ディ──!!」
『遅くなって…すみません───』
今迄聞いた事のないような、低くて冷たい、それでも耳にしっかりと届く声が響いた──