悠兄さん
久し振りに、リュウから王都のパルヴァン邸に行くから─と呼び出され、今日もパルヴァン邸にやって来ました。
やっぱり、ゼンさんの顔を見ると落ち着きます。
今日も、私の目の前には、私の好きなお菓子がズラリと並んでいる。きっと、ゼンさん達の気遣いなんだろうなぁ─と思うと、心がほっこりします。
そんなお菓子を食べながら、リュウにネージュの事を報告した。
「ネージュが妊娠……お母さん……。」
ブツブツと何やら呟いた後
「はぁ──。本当に…ハルの周りは驚きと驚きと驚きでいっぱいだな…。」
「でしょう?一緒に居て、全然飽きないのよ。癒されるし…一石二鳥なのよ。」
と、ミヤさんとリュウが、うんうんと頷き合っている。
ー魔法使いって、癒し効果でも…あるのかなぁ?ー
「えっと…癒しはよく分からないけど、リュウは何しに来たの?」
「あぁ。俺の国でも悪さをしていた奴等を、根こそぎ捕まえたって報せが、この国から来てな。そいつらは、この国で処罰を受けるんだが、その処罰について意見があれば言ってくれとあったから、俺が陛下からの親書を持って来たんだ。で、そのついでに、遊びに来たってとこだな。」
「そうなんだ。どの世界でも、国を跨いで悪い事をする人達が居るんですね。捕まって良かった。」
うんうんと頷いている私の横で、ミヤさんがニヤリ─と嗤っていた事には気付かなかった。
勿論、その根こそぎ捕まえたのが、ルナとリディとゼン達─パルヴァン─だった事も、ハルは知らない。
「話は戻るけど、ネージュが妊娠してるって事は…結構早く生まれて来るかもな。」
「え?何で?魔獣の妊娠期間は、3ヶ月位って聞いたんだけど…魔獣によって違うの?」
確かに、ゼンさんも確かな事は分からないけど─とは言ってたけど。
「いや、魔獣によってじゃなくて、胎内の子が引き継ぐ親の魔力の強さや大きさで変わってくるんだ。きっと、ネージュの子はネージュの魔力を引き継いでるから、その分成長が早くなる。早く成長すると言う事は、早く生まれて来るって事だな。」
「……えっと…ちょっと気になる事があるんだけど…。ネージュの魔力を整える為に、私の魔力をね…ネージュに流したり…してるんだけどね……。」
そこまで言うと、やっぱりと言うか─うん、やっぱり、リュウとミヤさんが悟ったような顔をした。
「あー…成る程な。断定はできないが……いや、それ、絶対に、更に早く生まれて来るパターンだ。その子は、絶対にハルの魔力も取り込んでる筈だからな。」
「それ、何なら、子供のうちから擬人化─するんじゃないの?」
と、ミヤさんも悟ったように言う。
「「………」」
勿論、それに関しても、私もリュウも否定できなかった。
そして、そろそろ帰ろうかと言う時に、外回りの仕事を終えた悠兄さんがやって来た。
「ハル、久し振りだな。元気にしてた?」
「悠兄さん、お疲れ様です。私は元気にしてますよ。悠兄さんは…ここでの生活は慣れて来た?」
二股?浮気?は置いといて、私にとっては、優しいお兄さんだ。眞島さん(父)とは違って、悠兄さんは所謂─イケメン─な方だと思う。おばさん(母)が綺麗な人だったもんね。
「ハルのお陰で言葉が分かるようになってから、ここでの生活にもすぐに慣れたし、ロンさんの手伝いも楽しくて、日本に居る時よりも充実してる位だよ。」
と、本当に楽しそうな顔をしている。
「ふふっ。なら…良かった。会って早々なんだけど、私はそろそろ帰るね。」
と言うと
「あー、じゃあ、俺もそろそろ帰るわ。」
と、リュウも立ち上がった。
「ハル、近いうちにネージュに会いに行ってもいいかしら?」
「勿論、ミヤさんならいつでも大歓迎ですよ!」
そうして、リュウはその場で魔法陣を展開させ隣国へと帰って行き、私は玄関でミヤさんに見送られ、馬車に乗り込もうとした時
「なぁ、ハル。その…ハルからも、俺の事を…ミヤに何か言ってくれないかなぁ?」
馬車に乗る時に手を貸してくれている悠兄さんが、ポツリと呟く。
「悠兄さんの事を…ミヤさんに?」
「その…何と言うか、ミヤに壁を作られてるみたいでさ。なかなか…うまくいかなくて…」
「……」
「だから、ハルから何か言ってくれたら、ミヤも…」
「悠兄さん。私は、悠兄さんとミヤさんの間には…入らない。これは、悠兄さんのとった行動の結果だと思うし、それでもヨリを戻したいと言ったのは悠兄さん本人でしょう?なら、自分で頑張らないと、意味は無いと思う。それに、頼まれて私が間に入った方が、ミヤさんから悠兄さんに対する思いは、マイナスにしか働かないと思う。本当にミヤさんが好きで、本当にミヤさんとやり直したいなら、自分の力で頑張るべきじゃないかな?」
「……そう…だな…。ごめん。ハル。今のこと…忘れてくれ。それじゃあ…気を付けてな。」
と、悠兄さんは少し寂しそうな顔をして、馬車の扉を閉めた。