ランバルト
*エディオル視点*
「成る程。身分関係なく、7才になる子供は国の援助を受け学校で学ぶ事ができると。」
「そうですね。この世界とは違って、身分で区切られたりしてませんから。」
今日の王太子は、お忍びになっていないお忍びで、ミヤ様が働いている修道院にやって来ている。最初こそ、ミヤ様はランバルトを目にすると、僅かに嫌悪感?の様なものを表していたが、最近では少し、ランバルトに対する態度が軟化しているように見える。
そのせいか、最近では2人でお茶を飲みながら、お互いの世界の話やお互いの事を話したりしている。
もともと、ランバルトは頭の回転が早く、学生だった頃は常にトップを走っていた。
ただ、恋愛事には疎くて…一目惚れした初恋の相手─ミヤ様が好き過ぎて周りが見えなくなって、やらかしてしまっただけの…ヘッポコだ。
ーいや、俺が言えた事でもないが…ー
それでも、ミヤ様はランバルトに少し、歩み寄ってくれているようだ。おそらく、前に泣いていた男の子との会話を聞いてからだろう。
ランバルトは王太子でありながら、その身分に傲る事がない。相手が誰であろうと真っ直ぐ向き合う。それが功を奏した─と言ったところだろうか?
これから、もっとミヤ様に近付ける事ができるかどうかは…ランバルト次第─と言う事には変わりはないだろうけど、一歩前進か?
ー良かったな、ランバルトー
とは、絶対に言ってやらないけど。
「そう言えば、エディオルさん、ネージュは…元気にしてる?人間の場合、妊娠初期って、悪阻が酷くて大変だったりするんだけど。」
「今はハルが毎日ネージュ殿の──」
「妊娠!?」
ミヤ様にネージュ殿の事を訊かれ、答えている途中でランバルトが大声を上げた。
「あら?王太子様は知りませんでした?ネージュ、妊娠してるんですよ。ノアとの子を」
「は?ネージュとは…ハル殿のフェンリルだったな?妊娠?あのフェンリルは…メスだったのか?それに、ノアって…お前の馬だったよな?」
「「──え?」」
まさか、ランバルトが、ネージュがメスだった事、俺の愛馬が実は魔獣で、ネージュと恋仲だった事を知らなかったとは思わなかった。
「あ─っと、エディオルさんからは…言ってなかったのね?」
「俺から態々報告する必要もなかったので…。」
チラリとミヤ様に視線を向ける。
「そうよね…私もそうだったし…。それに、平民のハルと王太子様が会うなんて事はないし…ね。」
「…別に…傷付いてはいないが…そうか…兎に角…エディオル、おめでとう。」
「……ありがとう…ございます。」
少し拗ねたような顔をするランバルトに、苦笑しながら礼を言う。それから、ネージュ殿とノアの事を話して、その日は帰城する時間となった。
「はぁ─。私は、ミヤ様やハル殿の事に限らず、知らない事がまだまだあるんだな。まだ…近付けても…いないのだな…。」
修道院から帰って来て、城の執務室の椅子に座ると同時にランバルトが口を開いた。
「ハルに関しては、知らなくても仕方無いだろう。召喚されて来ていた5年前も、今も、ランバルトがハルと関わる事なんて無いからな。いや、関わる必要は無いよな。関わらせるつもりもないからな。」
「…エディオル、そんなにも私の事が──」
「ハルに関してだけは、お前を信用していないから、安心して放置してくれて構わない。」
「そこまでハッキリ言われると、いっそ清々しいな!せめて、王太子と近衛として、結婚式だけは呼んでくれ!」
「無理せず、日程が合えば参列してくれ。」
「そこまでか!?」
ー当たり前だろうー
*****
今日も、ランバルトはお忍びになっていないお忍びで修道院にやって来た。
「ハルお姉ちゃん、今日もありがとー」
「ふふっ。こちらこそ、食べてくれてありがとう。次は、何か食べたい物はある?」
「この前のクッキーが食べたい」
「分かった!来週になるけど、また作って来るね!」
と、そこにコトネとルナ殿が居た。
この修道院の奥には、孤児院もある。どうやら、コトネは、その孤児院の子達に差し入れをしているようだ。
子供達と話した後、「ばいばい」と手を振って見送った後、クルリとこちらに振り返った。
「ハル殿?」
それに気付いて、声を掛けたのはランバルトだった。
「え?王た────えっと…お久し振りです。」
ペコリと軽く頭を下げる。
「孤児院に差し入れをしているのか?」
「私の作ったポーションを、この修道院にも納めさせてもらってるんですけど、その時に孤児院の方に、お菓子を作って持って来てるんです。」
「そうか。」
「─えっと…それじゃあ、失礼しますね?」
少し困ったように笑って、コトネが帰ろうとすると
「あー、ハル殿。その…フェンリルのネージュだったか?おめでとう。」
その言葉に、コトネはキョトンとした後
「ありがとうございます。」
とフワリと微笑んで、その後、俺の横を通り過ぎる時に俺の方をチラリと見て
「頑張って下さいね。」
と言って、そのまま修道院から出て行った。
「あー…うん。エディオルやミヤ様やパルヴァンが…何故ハル殿を可愛がるか…分かった気がする。私は、何であんなやらかしをしたんだろう?」
「──もう関わる事は無いだろうが、分かってもらえて何よりだ。」
「エディオル…本当にお前は、ハル殿に関してはブレないな。」
「ブレてどうする?」
「…本当に、お前はハル殿が絡むと、私には容赦が無いんだな。」
「容赦をしてどうする?」
「うん。もういいよ。分かった……。」