ハルの思い
あの日から、自分の誕生日が嫌いになった。
『2人が…乗っていた飛行機が…墜落して…』
そう私に連絡をくれたお祖母ちゃんも…一ヶ月後に亡くなって、独りぼっちになった。
私の誕生日を祝ってからイギリスに行く─と言った。
私の誕生日があの日じゃなかったら、お父さんとお母さんも飛行機事故になんて…遇わずに生きていたのに。
だから、私の誕生日なんて……祝わないで───
「ノア!ネージュ…ネージュがどうしたの!?」
ノアに焦った様な声で呼び掛けられて、急いでエディオルさんと共にノア達の小屋までやって来た。すると、元の大きさに戻ったネージュが、グッタリした様子で横になっていて、そのすぐ側に、擬人化したノアが居た。
『ハル様!ネージュが…ネージュが、急に辛そうな顔をしたと思ったら、魔力が一気に溢れて…この大きさに戻って…そのまま倒れてしまって─っ!どうしたら──っ!』
ノアが、ネージュの頬に手をあてたまま、今にも泣きそうな顔でネージュを見ている。
ーん?ー
その懐かしい違和感に、ドクンッと心臓が波打った。
ーあぁ…そうか……ネージュ…ー
そのままグッと口を噤んで、手をギュッと握り締めた。
「ノア、私がネージュを診て、溢れた魔力も落ち着かせるから…暫くの間は、ディと一緒に邸に下がっていてくれる?」
『ネージュは…大丈夫なんですか?』
「ふふっ─ノア。私を誰だと思ってるの?規格外の魔法使いな薬師で、ネージュの主だよ。安心して待ってて。」
『──っ!はい!ありがとうございます。ネージュを…お願いします!』
そう言うと、ノアはエディオルさんと一緒に邸の方へと入って行った。
グッタリ横たわるネージュにソッと触れる。
「ネージュ。気付かなくてごめんね。直ぐに、楽にしてあげるからね。」
『──ある…じ………』
私の魔力を、ゆっくりとネージュに流し込んで、ネージュの中で溢れて乱れた魔力の流れを整えて行く。
ーネージュが、もともと魔力が多くて強過ぎる─と言う事を…忘れてたなぁ。きっと、守る為に、魔力が溢れたんだろうー
「ふふっ─。」
自然と口から声が漏れる。
そうして、ネージュの魔力の流れを整えた後、身体に問題がないかも確認して、ネージュの寝息も落ち着いたのを確認してからノアを呼び戻した頃には、夜だった筈の空が少し白み始めていた。
「えっと、取り敢えず、ネージュは特に問題は無いから安心してね。それで、ネージュは…ネージュの最近の様子はどんなだったの?」
未だに擬人化しているノアに、最近のネージュの様子を訊いてみた。
『特に変わった様子はなかったのですが…最近は…少しよく寝るな─と思った事はあります。』
「…そっか……。ノアも魔獣なら…ネージュが過去にどんな境遇に遇ったのか…知ってるのかなぁ?」
『…はい。私も…魔力は少ないとは言え、魔獣ですから。長生きはしているので…。ネージュの事は、耳にした事があります。』
眉にギュッと皺を寄せて、苦しそうな顔をするノア。そんなノアの手を持ち上げて、両手でギュッと握る。
「ノア、ありがとう──。」
『え?』
ノアとエディオルさんが、そんな私を不思議そうに見て来る。
「私ね、出会いこそ…ネージュに殺され掛けたんだけどね?」
と言うと、エディオルさんがフッと笑った。
「名を交わしてからは、本当にネージュには色々と助けてもらったの。いつも私に寄り添ってくれて、体全身で私の事が好きだって表してくれてね。だから、私も、ネージュにその分、同じだけ─それ以上に気持ちを返して行こうって思っていたの。」
一度口を閉じてから、少し自分を落ち着かせる為に深呼吸をする。
「でもね、どうしたって…どう頑張っても…私はネージュを置いていってしまうって。また、ネージュを独りぼっちに…してしまうって…思ってて…どうしたら良いんだろう?って……でも、そんな時にね…ノアが現れたの。」
我慢ができなくて、ポロッと涙が溢れて、少し焦った様なエディオルさんが私の横に立ち、そっと背中に手を添えてくれた。
そんなエディオルさんに顔を向けて、笑えているかどうか分からない笑顔を向けた後、またノアに向き合う。
「同じ魔獣なら、ネージュとずっと…私よりもずっと長い間一緒に居れるって。私が居なくなっても、ノアが居てくれるって…それだけでも、本当にノアには感謝してたの。でもね、ノア、あなたは…もう一人…そんな存在を作ってくれたの。」
『──もう……一人?』
ノアは、目をパチクリと瞬いた後
『え?まさか…ネージュの…お腹に?』
「ふふっ。ノア、おめでとう。そして、本当にありがとう。ネージュのお腹の中には…2人の子供が…宿ってる。」
そうー。ネージュは妊娠していたのだ。魔力はあるものの、強すぎる事もないようだけど、子供の存在に気付いたネージュが無意識にその子供を守ろうとしてか、魔力を暴走させた─と言う感じだった。
「ノア、今はネージュは落ち着いて寝ているだけだから…ネージュが目を覚ますまで、側に居てあげてくれる?」
『は…い…はい!それは勿論です!!ハル様、本当に…本当にありがとうございます!!!』
ノアは泣き笑い?しながらネージュの側まで行き、その鼻先にキスを落とした。
「良かったな…ハル。」
「──っ…はいっ…良かった…です!」
エディオルさんの優しい腕と香りに包まれた私は、その中で少しだけ…涙を流した。




