☆ネージュの呟き☆
我が主の名はハル─ハルノミヤ=コトネ─
我の名は─ネージュ─
我が主は、普通の令嬢達とは少し違っている。もともと貴族ではないし、異世界から来た故に─と言う事もあるが…。
主は、どうしても自立したいらしい。自立した上で、騎士の隣に立ちたいと言う。普通の貴族令嬢と言えば、いかに自分が楽をして暮らしていけるか─を考えたりするが、我が主は、寧ろ─騎士を支えたいとも言っていた。
我は、そんな主が大好きである。
そんな主の為に、主が騎士の家に引っ越す事になった。色々な条件はあったが、まさか、最強執事がここまですんなりと我が主の一人暮らしを許すとは思わなかった故に、我も聖女も驚いた。
それでも、主が嬉しそうにしている故、我もまた嬉しくなり、自然と尻尾は揺れていた。
『ネージュ!来るのをずっと待っていたよ!』
引っ越し当日、我は─────ノアに出迎えられた。聞くと、騎士もノアもここで一緒に暮らすと言う。嬉しい事には変わらぬが……
『ふむ。いつか仕返ししてやろう。』
と、我はソッと呟いた。
「ネージュ!引っ越しの時の仕返しをしない?」
主が満面の笑顔で言って来た。
『仕返し?どうするのだ?』
コテンと首を傾げて訊けば
「ウチの子可愛い!!」
と、いつもの様にモフモフワシャワシャされた。
我は、コレがとても気に入っている。
どうやら、聖女に提案され、騎士の訓練を内緒で見学に行く故、我もノアを内緒で驚かそう─と言う事らしい。
『ふむ。それは面白いな。』
主のソレは、あの騎士にとって“仕返し”ではなく、“ご褒美”にしかならぬであろうが…ふむ。黙っておこう。
そうして、邸の使用人総出の気合いの入った送り出しを受け、王城へと向かった。
「じゃあ、ネージュは姿を消して…ノアに会いに行っててね。私の見学が終わったら呼び掛けるから。」
『分かった。主、気を付けて─』
と言い、我は主の足にスリッと顔を寄せた後、姿を消してノアの元へと向かった。
姿を消したまま、少し遠くからノアを見ると、ノアは他の騎士の馬達と一緒になり寝ているようだった。
『ふむ─。アレで…行くか。』
ニヤリと笑いそうになる口元に力を入れて、静かにノアに近付いた。
『───ノア』
『───ん?ネー…うん?』
ーふむ。寝起きの寝ぼけたノアは、相変わらず可愛いなー
ノアがパチクリと瞬きをしてから、我を見ている。
『あれ?ネージュ?どうしてここに?それに…どうして…人型になってるの?』
キョトンとした顔で、首を傾げるノア。
『くくっ。引っ越しの時のお返しらしいぞ?聖女に仕返しを勧められた主が、内緒で騎士に会いに行き、驚かそうと。我もノアにしないか?と言われてな。成功…したな?』
ニヤッと笑うと
『成功…なのかなぁ?会えて嬉しいだけだけど。きっと、私の主─エディオル様にとっても、“ご褒美”でしかないと思うよ?』
と、ノアが目を細めて笑う。
我は、この目をするノアが大好きだ。
ー一番は主だがー
『やはり、ノアもそう思うか?騎士は、喜ぶだけだな。』
それでもおそらく、“仕返し成功!”と、主は喜んだりするのだろう。
『ノア、今日は、この姿の我を乗せてくれぬか?』
『ふふっ。それは、勿論喜んで。』
ノアが嬉しそうに答えれば、ネージュも嬉しそうにノアの背中に乗った。そうして、そのまま姿を消して、外へと繰り出した。
*****
「すみません!!そのっ!妖艶な美女が馬小屋に来まして…次に気が付いた時には…その女性と共に…ノアが居なくなってしまってたんです!本当にすみません!今、数名の者達で探しているところです!!!」
と、馬の面倒を見ていた見習い騎士の青年が、顔を真っ青にして土下座の勢いでエディオルの前に居る。
「……妖艶な美女……。あぁ、それなら…きっと大丈夫だ。そのうち…いや、そろそろ帰って来るだろうから、探さなくても良い。」
と、エディオルは苦笑した。
そんな騒動になっている事を知らないネージュとノアは、ネージュの主であるハルが呼び掛ける迄、2人の時間を楽しんだ。
我には大切なモノが増えた。
一つは─大好きな主
もう一つは─大好きなノア
パルヴァンの巫女、我は今…とても…とても幸せだ。