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聖女ミヤの日常

「ミヤ様、おはようございます。」


「シュリアさん、おはようございます。」


ここは、ミヤが週4日通っている、王都にある修道院で、ウォーランド王国内で一番の大きさを誇っている。白を基調とした佇まいで、礼拝堂となる所には大きなステンドグラスが填められていて、太陽の光を浴びると礼拝堂内はキラキラと輝く。


そんな礼拝堂のある本殿の奥に、日々治療を必要とする人達が訪れる建物があり、ミヤは、そこで聖女の力である“癒し”で、訪れる人達を癒している。


この修道院は国からの補助もある為、貴族が治療等を受けた際にはお金を取るが、平民に関しては基本無料で行われる為、この修道院には多くの平民がよく訪れる。




ー3年前に還った聖女様達のうちの1人が、またこの世界に戻って来たー


その国からの知らせは、瞬く間にウォーランド王国中に知れ渡った。過去に例を見ない程の早さで、且つ、完璧に浄化を終わらせ、更には2年以上も穢れが出ない─。戻って来てくれたと、盛大な歓迎セレモニーを…と、話が出たのだが─



「え?そんなセレモニーは要らないわ。特別扱いも必要無いわ。私は、この国の人達の為に何かしたくて戻って来たの。勿論、穢れが出たら直ぐに動くつもりです。でも、穢れがないなら、その間は“治癒師”としてでも働きたい。」


とミヤが、セレモニーをバッサリと切り捨てた。なおもセレモニーを推し進めようとした貴族には…勿論、グレンと王太后が笑顔で釘を刺し──止めを刺した。


その為、セレモニーは行われず、勿論夜会等の宴会も開かれる事なく、静かに聖女ミヤを受け入れる事となった。そんなやり取りも全国に知れ渡ったせいか、歴代稀に見る聖女ミヤが修道院で普通に働いている─と知っていても、大騒ぎになる事もなく、こちらも皆静かに受け入れた。


そして、今日もミヤは、この修道院に訪れる患者一人一人に、丁寧に対応し治癒をしていった。










「──王太子と言うのは、暇なんですか?」


「暇ではない。しなければいけない仕事はきっちり終わっているし、数日先の分も終わっている。」


ミヤが週4日で働いているうちの2日程、何故か王太子ランバルトが(バレバレだが)お忍びでやって来る。近衛としてエディオルを伴って。


ミヤは、チラリと後ろに控えているエディオルに視線を向ける。


「それは確かです。殿下は…()()()()()()()完璧ですから。それに、終わっていなければ、イリスが外出を許す事はありません。」


と、()()()のエディオルが答えた。


「なら…良いって事もないけど…。兎に角、邪魔さえしなければ…。」


「それは分かっている!決して邪魔はしない!」


と、ランバルトは笑顔で答えた。



ー笑顔で聖女ミヤに会いに来る王太子と、それを軽くあしらう聖女ミヤ。そんな2人を氷の騎士が見守るー



と言うシチュエーションが日常になりつつあり、そんな様子を周りの人達も騒ぐ事なく温かい眼差しで見守っているのである。









そして、ミヤは王太子の存在を気にする事もなく、ひたすら治癒を続け──


「ミヤ様、今日はここまでにしましょう。控室にお茶を用意してますので、休んでから帰って下さいね?」


少し困り顔のシュリアさんに、そう声を掛けられた。


ーあぁ…王太子が待ってるのね?居るの…忘れてたわー


「分かりました。」


そう返事をして、ミヤは控室へと足を向けた。













「お兄ちゃんは、さみしくないの?僕はね…おとうさんが仕事がいそがしくて、あそんでもらえなくて…。」


「そうか、お前はお父さんに会えなくて寂しいのか。私の場合は…“好きな人に”だが…一緒だな。」


そんな声が聞こえて来て、私は足を止めて、その2人…3人に気付かれないように、柱の陰に隠れた。



「でも、寂しいのはきっと、お前のお父さんも同じだと思うぞ?お前のお父さんも、お前に会えなくて寂しいけど、またお前と遊んだりする為に一生懸命働いていると思うぞ?」


「そう…かなぁ?」


「お前が“寂しい”と思うのは、お父さんが好きだからだろう?」


王太子が泣いている男の子に優しく尋ねる。


「うん!僕、おとうさんの事大好きなの。とってもやさしいの!」


と、泣いていた筈の男の子は、今度はぱあっと笑顔になる。


「なら、きっと、お父さんも寂しいけど頑張ってる筈だ。そんな時は、次に会った時に、素直に寂しかったと伝えれば良い。言わないと、お前の気持ちは伝わらないからな。その上で、働いているお父さんも好きだと伝えれば良い。そして、一緒に居れる時間を大切にすれば良いんだ。」


「うーん…ちょっとむつかしいけど…おとうさんと一緒に居れる時を大切にして、ちゃんと僕の気持ちを言うってことだよね?お兄ちゃんも、そうなの?」


「うーん…私の場合は…また少し違うけど…。私は…“会えなくて寂しいな”と思ってもらえるように、頑張っているところかな?」


と、王太子は律儀にも五歳位の男の子に真剣に答えている。


ー一緒居れる時間を大切にー


「………」






「お兄ちゃん、話をきいてくれてありがとう!またね!」


気が付けば、男の子が母親と手を繋いで帰って行くところだった。


「殿下、控室に戻りましょう。もうそろそろ…ミヤ様も仕事が終わるだろうから─。」


と、エディオルがミヤの隠れている柱を一瞥した後、ランバルトに声を掛けた。勿論、ランバルトはその視線にもミヤにも気付いていない。


「そうだな。ミヤ様は、本当に人の為に働くのが好きなんだな。毎回思うが…まさか、この王太子(わたし)が、ここまで放置されるとはな。」


と苦笑するランバルト。


「──では、ミヤ様を諦めるか?」


とエディオルがランバルトに尋ねると


「馬鹿な事を言うな!お前と一緒だからな!?5年をなめるなよ?私は、人の為に働くミヤ様が好きなんだ。私を放置?それでも結構だ!放置されようが、私が寂しがろうが────それは辛いけど!それなら、私が会いに行けば良いし─────私に会えなくて寂しい!と思わせるように頑張るだけだ!!」


「………」


「くくっ…ランバルトらしいな。まぁ…頑張れ。」


氷の騎士が、少しだけ口を緩ませて笑う。


「くうっ─余裕なお前が…羨ましい!!」


「ランバルト…お前が俺に羨ましいと言える資格は…ないからな?」


「───はい…。」


最後には、どちらが主なのか従なのか分からないまま、2人は控室へと入って行った。







ー王太子とも…ちゃんと向き合わないとねー






と、ミヤはコッソリ微笑んだ。





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