青の庭園
「うわぁ…綺麗ですね─」
一般公開されている庭園も、よく手入れがされていて綺麗だったけど…立入禁止区域は、先程とは違う赴きに整えられているようで、二度楽しめる─みたいになっている。
「こっちは、ブルー系の花を中心にしているんですね?」
「あぁ、そうだな。我がカルザイン家のカラーが青だからね。」
「そうなんですね。」
ー家のカラーがあったなんて、知らなかったなぁー
「不思議なんだが、カルザイン家の男性は、皆瞳の色がブルー系なんだ。何故か、女性はそうとは限らないけど。」
「本当に不思議な話ですね?」
ー遺伝子とかは…この世界では関係が無い─のかもしれないー
エディオル様にゆっくりエスコートされながら、更に奥に進んで行くとガゼボが見えて来た。
「あそこに座ろう─」
「はい」
ガゼボに到着すると、そこには既にお茶が用意されていた。まだ温かいそれを見るに、私達の姿を確認してから準備を始めて、私達が気付く前に退散した─と言う事が分かる。
ー“流石、侯爵家”─ですね!ー
「ガゼボからの眺めは…圧巻ですね」
ガゼボは少し高くなった位置にあり、そこからは庭園一帯が見渡せるようになっている。ブルー系の花が、綺麗にグラデーションになっている。
「気に入って…くれただろうか?」
「勿論です!連れて来て頂いて、ありがとうございます。」
笑顔のままでお礼を言うと、「良かった」と、エディオル様も笑ってくれた。
それから、少し今日の話をした後─
「ハル殿─少し…俺の話を聞いてもらえるだろうか?」
「──はい。と言うか、そもそも、私が話を聞いて欲しいと…お願いしたんですけどね?」
と、少し困った顔をすると
「うん。ハル殿の話も聞く─聞きたいけど…先ずは俺から…俺の話を聞いてもらいたい。」
「……分かりました。先に、エディオル様の話を聞かせてもらいます。」
「ありがとう。」
エディオル様は、何となくホッとしたような顔をした。
「あ、その前に。さっきはすまなかった。ハル殿にも聞こえていたと思うが─義理の妹の事だが。俺の兄嫁─レイラ義姉上の妹で、エレノア=オルソレン─オルソレン伯爵家の次女なんだが、義姉上は前オルソレン伯爵夫人の子で、エレノアは後妻─現オルソレン伯爵夫人の子になるんだ。まぁ…何と言うか…その後妻は元侯爵家の娘で、もともとオルソレン伯爵が好きだったらしく、前夫人が病死した後、無理矢理後釜に収まったって言う感じだったらしい。それで、その後妻が…甘やかされて育った典型的な…我が儘娘だったと言うか…」
ーん?元侯爵の娘?ー
「あー…ひょっとして…“老害タヌキ”のご令嬢だった─とか?」
「─だな。」
ー成る程。老害タヌキの影響をバッチリ受け継いでいるんですねー
「レイラ義姉上は、厳格なオルソレン伯爵と前夫人に育てられて、しっかりした人なんだが…。義妹はあんな感じに育ってしまったみたいで。それで、オルソレン伯爵が教育と監視を兼ねて、さっき一緒に居た侍女─カミラ殿を付けてはいるんだが…あの有様なんだ。」
「えっと─何と言うか…教育されてる様には…見えませんでしたね。カミラさんが大変そうだなと。それと…エディオル様に…好意?を寄せているような感じでしたね…。」
モヤッ
何だろう?自分で言っておいて、何と言うか…
「ハル殿─」
エディオル様が、私の名前を呼びながら、私の耳に着けているピアスにソッと触れる。
「─っ!?」
「このピアスを着けてくれていて、嬉しい。」
エディオル様は、本当に嬉しい─と言うように目を細めて微笑む。
ーうぅ…そんな風に微笑まれると、本当に心臓が痛い。しかも、近過ぎます!ー
「ハル殿は、覚えてる?俺が、ずっと一緒に居たいと思ってるのは─ハル殿だって事。」
「……」
「それは、今も変わってないし、これからも変わらない。そんな事を思うのは、ハル殿にだけだ。」
私の耳に触れたままで、親指だけ動かして、私の頬をスリッと撫でる。そう、私の耳には、エディオル様の瞳と同じ色の魔石が付いているピアスを着けている。そして、エディオル様は、私の瞳と同じ色の魔石が付いたピアスを着けている。
ー着けてるって…今気付いたけど。これって…ちょっと…恥ずかしくない!?ー
ポンッと、一瞬にして顔が熱をもつ。
「お────覚えて──ます──。」
恥ずかしくて、やっとの思いで口に出して答える。
「なら良かった。」
フワリと更に笑みを深めながら、エディオル様は私の耳から手を離した。
「それで話なんだが─」
と、エディオル様が話し始めようとした時──
少し離れた所でざわめきが起こった。
「──っ─!」
それから、誰かが叫ぶ?ような声も…するよね?
「「…… 」」
お互い、じーっと見つめ合ってはいるけど、甘い感じではなくて─
「……ここは、許可制で…今日は貸し切りだった筈だろう?」
ーうわぁ…どうしよう?ゾワゾワしますー
これ、エディオル様、本気でキレているかもしれません。




