宴会
「お…お祝い…ですか?」
「えぇ。“お祝い”です。」
目の前でニッコリ笑うゼンさん。
「この世界から、あのクズ聖─あの元凶が居なくなったんですから。お祝いをしなければいけませんよね?」
いや、しなければいけない事ではないと思うけど…。そんな事、この笑顔のゼンさんには言えない─よね。
「えっと…ご馳走?楽しみにしてますね。」
と言うと、「お任せ下さい」と言って、ゼンさんはエディオルさんと私にお茶を淹れると、そのまま部屋から出て行った。
「ゼン殿は…ミヤシタが還った事が、よっぽど嬉しいんだな。」
隣に居たエディオルさんが苦笑する。
ゲームのヒロインが、還って喜ばれるって…。まぁ、彼女の場合は自業自得なんだけど。せめて…少しでも、日本で更正してくれたら…良いけど。
チラリとエディオルさんに視線を向けると、エディオルさんと目があった。
「ん?」
首を傾げて、優しく笑うエディオルさん。
「えっと…ディが…彼女に惹かれなくて良かったなって。」
と、素直に口にする。
「…ハル?」
優しく腰を引き寄せられて、顎に手を添えられてそのまま顎を持ち上げられた。
「何度でも言うが─俺は、ハル以外は要らないから。ハルしか要らないから。ハルが嫌だと言って泣いても──離す気はないから。」
「はぅ───っ」
ー恥ずかし過ぎる!!ー
エディオルさんの胸にグリグリと頭を擦り付ける。
「ははっ─本当に、ハルは可愛いな。でも─」
エディオルさんはそのまま口を噤んで
「これからの事を考えて─これ位の事には、早く慣れないとな?」
と、私の耳ともで囁く。
「ふぁい!?────っ!???」
ビックリして、変な声と共に顔を上げると、透かさずキスをされた。
「これも慣れないとな?」
オデコをくっつけたままだ。
「なっ─────慣れませんよ!!」
「ははっ。」
と、エディオルさんは嬉しそうに笑って、私をギュッと抱き締めた。
ー誰か、エディオルさんから少し─少しだけでもいいので、砂糖を抜いて下さい!心臓が持ちません!ー
そうして、ズラリとご馳走が並んだ夕食は
「無礼講だ」
パルヴァン様のこの一言で始まった。
ー宴会になってるよね?ー
彼女に関しては、“聖女”である事以外は極秘扱いになっている為、実は彼女の悪行?は知られていない。彼女が元の世界に還った事も、まだ公表されていない。なので、この本邸での宴会?には知っている人だけしかいない。それでも、騎士様達の邸ででも理由は言わず、ご馳走が準備されているそうだ。
「リュウ、身体は大丈夫なの?」
「あぁ、全然問題は無い。何なら、もう1人位召喚できるかもね?」
と、肩を竦めて苦笑するリュウ。
「なら良いけど…リュウも、結構な魔力持ちだったのね?」
どうやら、ミヤさんは気付いてなかったようだ。
『ふん。最後にあの女の、あの顔を見れた故…少しだけ…ほんの少しだけ、お前を赦してやろう。少しだけ─』
「くくっ─。それは…ありがとうございます。」
擬人化して参加しているネージュが、擬人化しているノアの隣でツンデレ?を発動させている。そんなネージュを優しく見つめるノア─。
「はぅ──っ」
ー美魔女&イケオジ、ありがとうございます!ー
そんな2人を見て悶えているハルを、蕩けた顔で見つめるエディオル。
「…ミヤ様、これ、いつもこんな感じなのか?」
「そうね。こんな感じよ。見てると癒されるから─不思議なのよね──。」
「癒される──あぁ、ハルだからか?」
「多分ね。でも、それ、リュウが言うのは─」
「分かってる。“アウト”だろ。絶対、エディオルの前では言わないよ。」
と、ミヤとリュウは笑った。
そうして、無礼講と言う宴会は夜遅く迄続いていた。
いつからか、男性陣と女性陣に別れて話が盛り上がっていたのだが─
「エディオル様、お話中すみませんが、よろしいでしょうか?」
と、ルナがエディオルに声を掛けて来た。
「あの…ハル様が…」
「ハル?」
と、少し言葉を濁すルナを不思議に思いながらも、エディオルはハルの方へと足を向けた。
「ハルがね、間違えて…強いアルコールを飲んじゃったみたいなのよ。」
と、そこにはハルに抱き付かれているミヤ様が、困ったように笑っていた。
「もしかして…酔ってます?」
「そうなのよ。まぁ…めちゃくちゃ可愛いんだけどね。」
「可愛い?」
「ハル?ほら、エディオルさんが来たから、部屋迄送ってもらいなさい。今日はもう、休んだ方が良いわよ。」
と、ミヤが抱き付いているハルの肩を軽く揺する。
「ん?ディ?」
と、ハルがミヤから身体を離し、後ろを振り返る。
「ハル、部屋まで送るから──」
「ふふっ─ディだ。ディが居る─。」
と、ハルは満面の笑顔でエディオルに抱き付いた。
「────えっ?」
「ふふっ。ディだね…ディの良い匂いがする。大好き──。」
と、更にギュウギュウと抱き付いて来た。
「え????」
「ね?可愛いでしょう?」
と、ミヤをはじめ、ルナとリディとネージュが笑っている。
『騎士よ、早く主を部屋に連れて行って、休ませてやってくれぬか?あぁ、我も、今日はノアの所で休む故…気にしなくて良いぞ?』
ーえ?何?俺は試されているのか?それとも…ご褒美なのか?ー