表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/107

それぞれの前夜



*ウォーランド王国の王都から、少し離れた位置にある、とある領地にて*







「うん。ここも、まだ穢れは出ていないな。」


「本当に凄いよな。2年経っても穢れが出ないって。召喚された聖女様の3人共が凄かったんだろう?」


「らしいよ。本当に、異世界に無理矢理召喚されたのに、完璧に浄化してくれて─本当に感謝しかないよな。」



月に一度、定期的に国から派遣された魔導師達が、各地に穢れが出ていないかの確認を行っている。この3人の魔導師達も、国から派遣された魔導師だった。


「よし、じゃあ、次の場所に─」


今居る場所の確認が済み、次の場所へ移動しようとした時、その魔導師が持っていた魔石が手から滑り落ち、転がって、運悪くその場所にあった池に落ちてしまった。


「えーマジか!?」


「うーん…結構深そうだな…。どうす──」


どうしようか─と思っていると、その池の中から魔力が一気に溢れて来た。


「何だ!?」


と、魔導師達が叫んだと同時位に、池の水が水柱の様に沸き上がった。










水が沸き上がったのは一瞬だった。後は、特に問題はなく、辺り一帯が水浸しになったくらいだった。


「多分、池に落とした魔石が、魔力暴走を起こしたんだろう。この池から魔力は感じないから、もう大丈夫だろう。少し遅くなってしまったな。急いで次の場所に行こう。」


こうして、3人の魔導師達は、次の場所へと転移した。
















*ウォーランド王国、パルヴァン辺境地、パルヴァン邸にて*




『リュウ!!』


パルヴァン邸の地下牢に、閉じ込められている宮下香が、リュウの姿を目にした瞬間に大声を上げた。


『やっと会えた!お願い、ここから出してくれるように…言ってくれない?聖女とか言う女に、私を日本に還すって言われたんだけど…嘘よね?』


『嘘じゃないわよ』


『─っ!な…で、また聖女(あんた)が居るのよ!?出て行ってよ!』


隣国もある程度落ち着いた為、リュウがパルヴァンにやって来たのだ。勿論、宮下香を日本に還す為に。


そして、還す日の前日、最後に─と、リュウはミヤと共に地下牢に居る宮下香に会いに来たのだ。


『出て行ってよ─って…相変わらず自分の立場が、全く解ってないのね?まぁ、それも、明日で終わりだから良いけど。』


『“明日で終わり”?』


鉄格子を握り締めている手に力が入る。


『明日、俺が、あんたを日本に送り還す─必ず。』


リュウが、真っ直ぐ宮下香の目を見据えながら言う。


『そんな…私…嫌…だ──っ!!私、還ったらどうなるの?だって…()()()の婚約者が自殺したとか…苛めがバレたとか…』


ズルズルとその場にへたりこみ、ぶつぶつと呟き続ける。そんな宮下香を一瞥した後、ミヤとリュウは、この世界の言葉で話し出した。


「本当に…自分の事しか…考えてないのね。少し位は反省してるかと思ったけど。」


「本当に、俺は、何であんなにもコイツに執着してたんだろう??あの時の俺を…殴ってやりたい!どう見たって、ハルの方が正しいし、まともだし!!何より──小動物万歳!で可愛い!!」


「……え─確かにハルは可愛いけど…()()、絶対にエディオルさんの前では言わないようにね?リュウが言うのは…アウトだと思うから。」


「分かってるよ─絶対アウトだよ。」


「それと、ちょっと訊きたいのだけど…。設定として、世界を跨ぐ度に負担が掛かると言う事はあるの?」


「んーどうかな?何度も往き来する─なんて設定がそもそもなかったから…。でも、“自由に往き来は出来ない”、“膨大な魔力が必要”と言う設定はあったから、有り得るかもしれない。でも…何故?」


「私とハルって、こっちに戻って来る時が3回目だったでしょう?こっちに戻って来て、魔法陣が消えた瞬間…身体が千切れそうな感覚の痛みがあったのよ。それで、もう4回目は無いな─って。」


その時の痛みを思い出したのか、ミヤの眉間に皺が寄る。


「そうなのかも…しれないな。」


と、リュウは言いながら、未だに蹲ってぶつぶつ呟いている宮下香に視線を向ける。


「加護も何も無い宮下香は…どうなるか微妙だな。」


ミヤ様は“聖女”として、ハルは“魔法使い”としての、ある意味“この世界に存在しても良い”と言う加護がある。でも、宮下香には、それが無い─無くなった。


「ひょっとしたら…2回目でも、結構なダメージを喰らうかもな…」


「もしそうだったとしても…自業自得ね。チャンスは、いくらでもあったのよ。それを全部駄目にしたのは…宮下香本人だから。」


そうして、ミヤとリュウは、未だ蹲っている宮下香に背を向けて、地下牢から出て行った。












*****



「いよいよ…明日ですね。」


「ハルは…リュウが心配なんだろう?」



リュウが、宮下香を送り還す日の前日の夜。


「気になって、眠れないんだろう?」


と言って、エディオルさんが私の部屋にミルクティを持って来てくれた。


はい。もう、正式な婚約者になったので、部屋に2人きり─でも問題は無いそうです。


ーえ!?じゃあ、今迄は問題あったの!?ー


とは、思っても…誰にも訊けませんでした。






「心配はしてますけど…()()()大丈夫ですよ。」


と、ニッコリ笑って言うと


「やっぱり…ハル()()()な。」


と、エディオルさんは優しく笑った。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ