リスと氷の騎士の物語
「計算されてますね。」
「本当に。微妙な…ギリギリな位置ですね。」
「………」
穴があったら入りたい──いや
ー誰か、穴を掘って下さい!入らせて下さい!ー
ルナさんとリディさんと、久し振りに会った3日目の夕方。
まだ少し疲れていて危ないから─と言う事で、ルナさんに入浴を手伝ってもらったのは…正直助かったんだけど…
「っ!!??」
「あらあら…。」
私はまたまた固まり、ルナさんには微笑ましい眼差しを向けられた。
体中に…赤い痕─キスマークが…散りばめられていた。
恥ずかしい思いをしながらお風呂から出て、ゆるっとしたワンピースを着る。首元もゆるっとして、そこには、見える?見えない?ギリギリの位置にキスマークが一つ落とされていた。
「まぁ、予想の範囲内ですね。独占欲が更に大きくなってますけど。」
と、リディさんにサラッと言われた。
ー予想の範囲内……ー
少し、遠い目になったのは、許してもらいたい。
それから、その日の夕食は自分の部屋で自分で食べました。
騎士の嫁のあるあるの3日目の今日、バートさんが
「あるある─なので、今日迄は温かく見守っていましたが、今日の今からと明日の丸1日は、ハル様を休ませてあげて下さい。勿論、コレも、騎士のあるあるなので…ご理解頂けますね?」
と、ニッコリ微笑めば、ディは「ちっ」と舌打ちした後
「────分かっている。」
と渋々ながらに頷いた。
どうやら、“騎士の嫁のあるある”と同様に、“騎士のあるある”もあるそうです。
ー確かに、アレが3日以上続くとか…もう、恐怖に近くないだろうか?ー
そりゃあ…嫌…ではなくもないけど…こう…もっと手加減を…って!何を考えてるの!?と、ディとバートさんがやりとりをしている横で、私は一人、脳内でワチャワチャしていた。
*****
「ネージュ!ネロー!」
『主!』
『あーじ!!』
結婚してから4日目の今日、癒やしを求めてネージュとネロの元へとやって来ました。
「もふもふだー」
と言いながら、ネージュに抱き付くと、
『ねろも、もふもふなのー』
と言いながら、ネロが私に抱き付いて来る。
「はう─っ!!ネロ、可愛い!!」
右腕でネージュを、左腕でネロをギュウギュウと抱き締める。
『きゃーぁ、あーじもかわいい!』
ネージュもネロも、尻尾がブンブンと振られている。
ーあぁ、やっぱりもふもふは最強の癒しアイテムです!ー
4日目の今日、私は久し振りの自由を手に入れました。ディはと言うと─
「俺も久し振りにノアと自由に駆けて来るから、ハルもネージュ殿やネロとゆっくりしてくれ。」
と言って、嬉しそうに目を細めたノアに騎乗し、蒼の邸から出て行った。
『主、また、我のもふもふに潜るか?』
「はい!宜しくお願いします!!」
そうして、元の大きさに戻ったネージュのお腹にコロンと背中を預けると、私の足の上にネロがチョコンの乗って来た。
『あーじのまりょく、きもちいいのー!』
きゃっきゃっ─と、ネロは嬉しそうに私にスリスリと顔を擦り付ける。
「ふわぁ──ネロ、可愛過ぎない!?」
と、ワシャワシャとネロを撫で回すと、ネロは更にきゃっきゃっ─と嬉しそうな声を上げた。
「あ、ネロ…寝ちゃったね。」
はしゃぎ過ぎたネロは、そのまま私の足の上に乗ったまま寝てしまっていた。
「ふふっ。可愛い。」
『主、重たくはないか?』
「大丈夫だよ。寧ろ、ネロとネージュに挟まれて幸せしかないから。」
『ふふっ─なら…良かった。』
そう笑うと、ネージュが私の顔にスリッと頬を摺り寄せてから目を閉じて、寝てしまった。
私はふもふに挟まれたままで、空を見上げる。
その見上げた真っ青な空は、世界は違うけど、日本と同じ色の空だった。
ー還れなかった日は、朝から雨が降ってたっけー
まるで、私の心を表したかのような雨だったなぁ。
そして、今日も、今の私の心を表しているような空だ。
本当に濃い6年だったけど、その6年があったからこその、今の幸せなんだろう。巻き込まれただけのモブだったけど、お父さんやお兄さんができて、好きな人と結婚をする事もできた。ちょっと、ディからの溺愛ぶりには…少し困るやら恥ずかしいところもあるけど…本当に、幸せなだな─と思う。
「お父さん、お母さん、お祖母ちゃん。それに、フジさん、ショウさん、私は…本当に幸せです。巻き込まれて、この世界に来れて良かったです。」
そう呟いてから、私ももふもふに挟まれたまま目を閉じた。
*****
ノアとの遠出から帰って来ると、庭の木の下で、元の大きさに戻ったネージュ殿とネロに挟まれて寝ているコトネを見付けた。
ー寝てるだけで可愛いとは、どう言う事だ?ー
『コレは、見ているだけでも癒やされますね。』
と、ノアも嬉しそうに3人の姿を見ている。
「そうだな。でも、そろそろ日も傾いて来る時間だから、ハルは連れて帰るよ。」
『そうですね。それでは、取り敢えずネロを抱き上げますね。』
そう言うと、ノアはスッと擬人化して、ハルの上で寝ていたネロを抱き上げ、俺はコトネを抱き上げた。
『ネージュ、そろそろ小屋に戻ろうか?』
『─ん?あぁ、ノア、帰っていたのか。』
「ネージュ殿、今日もハルの事、ありがとう。」
『あぁ、騎士か。それは…我からも言いたい。騎士よ、我が主を幸せにしてくれてありがとう。これからも、宜しく頼むぞ?』
「あぁ、勿論、これからもハルの事は幸せにするし、守っていく。」
俺がそう答えると、ネージュ殿は嬉しそうに尻尾を揺らした。
*****
ゆらゆらと、心地良い揺れと温もりを感じて目を開けると
「もふもふ───あれ?ディ?あれ?デジャヴ??」
もふもふではなくて、ディにお姫様抱っこで運ばれていた。
「くくっ。目が覚めたか?気持ち良さそうに寝ていたんだが、そろそろ日も傾く時間だったから。」
「えっ!?もうそんな時間!?すみません!えっと…おろして下さい。歩け───」
「このまま連れて行くから、ハルはこのまま俺に抱っこされておいてくれ。」
と、キラキラ輝く笑顔で被せ気味に言われてしまったら、もう逆らえません。逆らうと倍返しを喰らうので、このまま大人しく抱っこされたままにしておきます。
すれ違う人達からの微笑ましい眼差しも…気にしない事にします。
そうして、連れて来られたのは─やっぱりディの部屋だった。
勿論、ディの足の間に座らされて、後ろから抱き締められています。相変わらず恥ずかしいけど、すごく安心して幸せな気持ちにもなって、遠慮なくディに体を預ける。
「ディ、改めて─私を諦めないでくれて…選んでくれてありがとうございます。これからも…宜しくお願いしますね。」
と、素直な気持ちを伝えて、お腹に回されたディの手に私の手を重ねる。
「コトネも…俺を選んでくれてありがとう。これからも宜しく頼む。」
お互い顔を見合わせて微笑んでから、触れるだけのキスを交わした。
そして、ディの休暇中の1ヶ月は…本当に…これまた濃い1ヶ月でした。
“何が”─とは言わないけど。
元の世界に還れなかったモブな魔法使いが、氷の騎士と幸せになる。
兎に角、コレが─
“リスと氷の騎士の物語”
である。
それから、まぁ、巻き込まれから始まった私の運の悪さ?良さ?を発揮する様な出来事もあり、山あり山ありな出来事を潜り抜け──と言うのは、また別の話しで──。
結婚してから3年後に男の子、5年後に女の子が生まれるのも、また別のお話しである。




