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 そろそろ冷静になってきたので一旦状況を整理しよう。

 俺は桜庭湊、男、高一……だった。今の名はフロレスだ。友達と花見をするため場所とりをしていたらうっかり、アウルムとかいう異世界の神様に魂を抜かれた。そしてドラゴンの住む洞窟に落とされた。


 なんやかんやで身体ができて、一振りの剣を拾った。これは聖剣でドラゴンを一撃で倒すほどに強い。そして幼稚園児くらいの男の子の姿になる。名前はレオン。めちゃくちゃ可愛い。ちなみに今、レオンは俺の背中の上。


 この世界で初めて会ったイーリスは獣人で耳と尻尾が生えている。イーリスの出身地である獣人の里特有の訛りは関西弁としか思えない。いろいろ忙しい人だな。

 そして今、森を抜け街に入った。どっちかというと街は西洋風だ。建物はほとんど木造だけどね。


 もとの世界に帰りたくないのかっていうと、そういうわけではない。そうは言っても無理なものは無理だからな。一回死んで生き返れたと思うと儲けもんだよね。


 そういうわけだから嘆いても仕方ない。こうなる運命だったのだろう。今のところ大した問題は起きていないわけだし大丈夫だろう。今後のことはしばらくイーリスに任せればいいよね。


 状況整理終了。


「ここやで」

一軒の建物の前でイーリスは足を止める。目の前の家は周りの家二つから三つ分の大きさだ。

「この家大きすぎない?」

ついつい声が漏れる。豪邸じゃん。


「ああ、ここ集合住宅やから。一階は共有スペース、二階に個室が八部屋ある。今は五人住みよるんよ」

イーリスの言葉に安堵する。流石に一人の家ではなかったようだ。


「ほな、入るで。ただいま」

そう言って扉を開けるイーリス。中に誰かいると思うと少し気まずさがあるな。

 そんなことも言ってられないので付いていく。イーリスが靴を脱ぐので俺も。外国っぽさがあったから土足と思っていたんだけどな。


 中を見ると、部屋の中央にテーブルが一台と椅子が数脚。十脚かな。右手には階段。左手には扉が三枚。それにソファが一つと簡素な部屋だ。

「ありゃ、誰もおらんのか。思ったよりも早めに帰ってこれたしな。そこら辺でゆっくりしよって。俺は部屋片付けてくるから」

二階に上がりながらイーリスは告げる。


「レオン、下ろすよ」

一声かけて背中のレオンをソファに下ろす。俺もその横に座る。


「あのさ、確認なんだけど、これからレオンは俺と一緒にいるんだよね?」

「うん。だってね、ボクはねフロにぃのけんなんだよ。だからね、ずっといっしょなんだよ」

早口で言葉を紡いだレオンは、ぎゅーっと俺の横腹を抱きしめる。


 こんなことされたら放っておけないな。まあもとからそんなつもりはなかったけど。それにしてもなんでこんなに懐かれているんだろう。生まれたての鳥みたいなものか?


「ちょっと質問なんだけど俺の髪とか眼とかって何色?」

レオンは鮮やかな黄色の髪に青い眼をしている。イーリスは薄めの銀髪に灰色の眼。こうなると自分がどうなのか気になるよね。


 少し離れたレオンが俺を凝視する。くりくりの眼でだ。

「うーん、しろかな……でもね、やっぱり、ちょっとだけピンク」

「それって髪? 眼?」

「かみ!」

「そっか、ありがとう」

軽くレオンの頭を撫でてあげる。


 眼の色はもちろん髪の色はよく分からなかったな。後でイーリスに聞こう。これ以上追及してもレオンの語彙力じゃ上手く説明できそうにないからな。


「フロレスー。ちょっと上がってきてくれん?」

いきなりイーリスの声が家の中に響く。はーい、と返事して階段へ。レオンも付いてきたな。


「階段登れる? 抱っこしようか?」

この家の階段は段ごとの高さがかなりある。レオンが一人で登るのは難しいかもしれない。そう思って尋ねてみた。


 レオンはうん、と短く答え俺の前に両手を上げて立つ。

 レオンを抱き上げて階段を上る。二階の廊下には扉が左右に四枚ずつ。全て個室のものだろう。


「こっちこっち」

イーリスは右の一番奥の部屋から手を振っている。部屋の中に入るとベッドが一つと木箱が二つ。それに小さなテーブルが一脚置かれていた。なかなかに広い部屋だ。


「フロレス、この部屋でええ?」

この部屋を使っていいってことだろう。

「うん、大丈夫。部屋の片付けって俺の所だったんだね。ありがと」

言ってくれたら手伝ったのに、とも思うけどこういうときは余計なことを言わずに感謝しておくのがいいな。


「レオンと二人で一部屋でええやろ?」

「大丈夫。ね?」

一応レオンにも確認。だいじょうぶ、と元気な返事をもらった。


「服だけやけどフロレスの分は俺のを木箱に入れとるから使って。それしかもってへんのやろ?」

「ありがと」

でもイーリスの服ってちょっと大きい気がするな。まあ同じのを着回すより断然いいか。


「レオンが着れるようなんは流石にないかったわ。ごめんな。明日そこら辺も揃えにいこか」

「あのさ、俺今無一文なんだけど」

こんな状態じゃ買い物なんていけない。


「ちょっとくらい俺が出してもええんやけど……まあ、魔物狩って売ろか。そうしよ」

ベッドに腰掛けながらイーリスは言う。

「一個ゆっときたいんやけど……」

突如、イーリスは神妙な顔になる。声のトーンもいつもよりも低い。途端に変わった場の空気に息を呑み込む。


「フロレスが異世界人やってのは軽々しく人にゆわんとき。変な輩に目ぇつけられるかもしれん」

了解の意を込めて首を縦に振る。

 

「よし、とりあえずこんなもんやな。下、降りよ」

イーリスはすぐにいつもの雰囲気に戻り柔らかな笑顔で言った。


次回は2月4日金曜日18時です。

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