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侍従は婚約破棄を止めたい

侍従は婚約破棄を止めたい

作者: 葉月美弥

婚約者の義務として王子とのお茶会に登城した侯爵令嬢に、王子の侍従の私から殿下は執務が忙しくて来れないと伝える。だったら朝の段階で連絡を寄越せよ。と侍女殿の顔が語っていた。本当に申し訳ない。

帰る侯爵令嬢を馬車まで見送る。

侍女殿が馬車に乗る前に、呼び止めた。この前、偶然に聞いてしまった殿下の言葉が気になり、相談したかったのだ。ここで詳しい内容は話せないと伝えると怪訝な顔されながらも侍女殿の時計を渡された。これを届けに侯爵家に伺える理由をもらった。16時頃が都合が良いらしい。




16時に侯爵家の使用人用入り口に向かう。近くで休憩をしていた侍女殿を呼び出してもらい、時計を渡す。

お礼にお茶をさそった風に、話ができる状況をつくってくれた。めっちゃ優秀な女性だ。


「相談したいことは何?」


「この前、殿下が婚約を破棄すると言っていた」


「あら今更よ。お嬢様を蔑ろにしているのだから、さっさと白紙に戻してもらいたいものだわ」


「それが穏やかなことではなく、2週間後の学園のパーティーで婚約破棄をするというのです」


「!!?」


「陛下に何度か婚約の破棄を伝えているが一向に聞いてもらえないため、大勢の前で行い、無視できなくするためだと思う」


「では、お嬢様は見世物にされるってこと!?どうにか止めなさいよ!」


「自分にはどうにもできないから、相談しているんだ」


「あなたの直属の上司に相談しなさいよ」


「それだと殿下の立場が悪くなってしまう。内密に処理したいんだ。侯爵令嬢様がパーティーに参加しないとか…」


「不戯けるな。あなたが殿下を大切にしたい気持ちもわかるけど、私はお嬢様が一番大切なのよ。貴賓たちが大勢くるパーティーに出席しないなんて侯爵令嬢としてあり得ないわ。なぜお嬢様が損なことをしなければならないの!!?」


「落ち着いてください」


「はぁー。あなたの方が落ち着いて考えてよ。今回のパーティーをやり過ごしたところで、次は王宮のパーティーがあるじゃない。同じような状況になるでしょう」


「…そうですね」


「想像してみてよ。万が一にパーティーで殿下がお嬢様に婚約破棄をしたとしよう。お嬢様に瑕疵が無いのに騒ぎを起こした殿下の方が処罰されるわ」


「うっ」


「だから今のうちに王宮のみで処理した方がいいはず。上司に報告して陛下に対処してもらう。殿下の今後の立場はわからないけど、バカな婚約破棄をした後よりはマシだと思います」


「上司にまともに取り合ってもらえなかったら…」


「私に聞かれても。あなたの熱意で訴えるしか」


「そうですね」


きゅっと拳を握り決意する。


「上司に報告します。本日はありがとうございました。あなたに聞いてもらえて気持ちが軽くなりました」


「どういたしまして。何も解決してないけどね。こちらでも侯爵様に報告して対処していただくわ」





3日後、どうして良いか分からず侯爵家に向かった。


「侍女殿!」


「突然来て何よ。私の名前は、ララっていうの」


「ララ殿。昨日王子とご学友様たちが侯爵令嬢様の罪を書面にまとめていました」


「はぁ?お嬢様の罪?」


「学園で一人の令嬢に酷いいじめを行っているそうです」


「お嬢様に限ってそんな…」


「そのことを上司に報告しても良いか、ララ殿に相談しに来ました。事実確認をしてから報告した方が良いと思って」


ララ殿は俯いて考え込み、それから決意したようにこちらを見た。


「もう、こうなったらお嬢様に直接聞くのが早いかもしれない。ちょっと待ってて」



しばらくしてからララ殿に呼ばれ、侯爵令嬢のところに向かった。


「そちらは殿下の侍従さんね」


「サルスとお呼びください」


「サルスさん。話とは?」


この機会をつくってくださったことに感謝を述べてから現状を伝えた。


「今、殿下が侯爵令嬢様の学園での罪を暴く準備をしております」


「私の罪?」


「そうですよね。お嬢様が罪など犯すはずがございませんよね。大変失礼いたしました」


ララ殿が急に締め括ろうとする。


「ちょっと待って、詳しく聞きたいわ」


侯爵令嬢がララ殿を止め、こちらをじっと見てきた。


「ひとりの令嬢をいじめているというものです」


「ああ」


「お嬢様、思い当たることがあるのですか?」


「はじめに言っておきますが、私はいじめなど行っておりません」


「ええ。もちろんですとも」


ララ殿が強くうなずく。それを見て侯爵令嬢が笑顔になる。いいな、この関係。


「今、学園で起こっていることをお伝えします。半年前にに転入生が来たの。男爵の庶子で1年前までは平民として暮らしてきたそうよ。半年間で貴族としてのマナーを学んできたようだけど、半年で身につくものではないわ。身分というものをわかっていないのか、殿下にも気軽に声をかけてきたの。その貴族らしからぬ態度が珍しいのか、殿下と一緒にいることが増えた。だから私は、婚約者のいる殿方と二人きりでいるのはよく無いと何度か声をかけたけど、取り合ってもらえなかったわ。あの子、殿下以外にも殿下の学友の方々とも仲良くなっているの。おそらく苦言を申したことがいじめと捉えられたのかも」


一通り話された侯爵令嬢はふぅと息はいた。

どうしてそれだけで、侯爵令嬢を罰することが出来ると考える殿下の頭が…


「非常事態じゃないですか!その話を侯爵様にお伝えしたことは?」


「無いわ。恥ずかしくて。心が狭いとか、私の対応が悪いからと言われてしまうかもしれないと思ったら…」


「いやいやうちの殿下が確実に悪いですよね」


学園の調査をしなくては。


「サルスさんは、殿下の侍従よね。殿下の不利益になることを私に話してよかったのかしら」


「それは、内密に対処したかったのですが、ララ殿に内密に対処するには限度があること。もし大ごとなことが起こってしまっら余計に殿下の立場が悪くなると気づかせてもらったんです。殿下が道を間違ったときに正すのも侍従の役目ですよ」


「ふふふ。あの殿下にはもったいない侍従ですわ。あら、これは不敬な発言でしたわね」




城に帰り上司に報告する。前回の報告は半信半疑に聞いていた上司も陛下に報告してくださるとのこと。また学園への調査も開始してくれた。





学園のパーティー3日前、殿下は、陛下の執務室に呼ばれた。私は廊下で待機し、殿下のみ執務室に入った。陛下が馬鹿な茶番劇を始める前に止めてくださるのだと思っていた。

「どうされたのですか、父上」

「明後日のパーティーについて、準備はできているのか」

「ええ。きちんと出来ております」

「最近、婚約者のロザリナ嬢との茶会に参加していないと聞く。当日のロザリナ嬢のエスコートは問題ないだろうな」

「え、ええ。問題ないです」

「それなら良い。時間を取らせた。下がれ」



殿下の自室に戻ってから声をかける。


「殿下、侯爵家にパーティーのエスコートについて連絡しておりません。今から手紙を出してもよろしいでしょうか」


「いや、出さなくていい」


「では、当日はどうされるのですか。突然伺うのは失礼に当たります」


「エスコートしない」


「そんな!先程、陛下に嘘をついたとおしゃるのですか?」


「聞いていたのか」


「陛下のお声のみ聞こえましたが、話が短く済んでいましたので、殿下が肯定したのだと推測いたしました。エスコートされないならしないとお伝えすればよかったではないですか」


「父上は私の話に耳を傾けない」


「でしたら侯爵令嬢様と相談されてみては」


「なにを相談するというのだ。あの女は私を見下している卑しい人間だ。そんな奴に相談などできないだろう」


「では、侯爵様に相談して…」


「うるさい!お前はなに様なんだ!お前の立場はなんだ!」


「殿下の侍従です」


「なら私の望む通りに動けば良い」


「しかしながら!」


「まだ言うか!」


「言わせていただきます!」


「だまれ‼︎」


「殿下の立場が悪くなることはおやめください!」


「はっ!なんだそれは。出て行け!この時点でお前を解雇する!」


「私は殿下が好きです!」


「は?ちょっ!気が触れたか?」


「殿下の素直なところが好きです。ですが、その素直さで誰かを傷つけていませんか?」


「兵よ!こいつを連れていけ。気が触れている」


「侯爵令嬢はいじめなどしておりません!」


近衛兵によって羽交い締めにされ引きずられていく。痛いです。


「あの女め。私の侍従をたらし込んていたのか。ここまでして王子の婚約者の立場が欲しいのか」


最後に聞こえた殿下の言葉が悲しかった。



殿下に伝わらなかった。上司に怒られた。陛下は殿下がどう動くか様子を見たいからほっとくようにと仰ったと言われたけど、殿下に気づかせたかった。

翌日、侍従の解雇の書類にサインをした。

殿下のばかぁ。こういうものだけ仕事が早いとか酷いです。


荷物をまとめて城を出る。

実家に帰るまえにララ殿に挨拶でもするかと

侯爵家に向かった。


「あなた突然に来すぎよ」


困りながらも笑顔で迎えてくれた。

侍従を首になったこと。実家に帰ることを伝える。


「あの殿下が王太子ではないことが唯一の救いね。このまま結末を見ずに逃げるの?」


「しかし、これ以上は…」


「パーティー当日の給仕係を募集しているの。私は当日、お嬢様を守るために応募済みよ。私の口利きで、働けるようにしてあげる。城で働いていたなら、ギリギリの今からでも働けるはずよ。だから最後の結末まで見届けましょう」


ララ殿の強気な笑顔に心臓がキューンとなった。





パーティー当日、人手不足のところに配属されたため会場の様子は一切わからなかった。

殿下〜大丈夫ですよね?馬鹿な事はしてませんよね…ううっ

ララ殿は侯爵令嬢の近くで給仕するところに配属された。さすがです。ララ殿。

殿下のことが気になりながら仕事をしていたら、この場を統括する者から声をかけられた。


「サルスさんお疲れ様。あなたのおかげで仕事がスムーズに進んだよ。少し休憩をしたらどうかい。パーティーの給仕の醍醐味は会場を間近で見れることなんだから、こっそり見てきたら」


「はい。ありがとうございます」




会場を覗くと殿下が侯爵令嬢を呼び止めたところだった。殿下!侯爵令嬢の顔をご覧になってください!こんな状況でも冷静じゃないですか。反撃準備が出来ているってことですよ!ほら!向こうの侯爵様の厳しい顔もみて!


「殿下、なんでしょうか?」


侯爵令嬢が殿下と向き合ったとき、私は無意識にこの現場のど真ん中に飛び出てしまった。

首が飛ぶ。侍従はすでに首になっているから、物理的にこの首が飛ぶだろう。

でも!だけど!


「サルス!お前、なんでここに!?」


「私は殿下のことが好きです。大切です。だからどうか周りをご覧になってください。今、どういう状況かご理解ください!」


あの男性、もしかして殿下の…殿下はもしや男性が…と外野がざわついた。


殿下は横にいるふわふわした雰囲気のある女性の肩に手を置き、私を睨んだ。


「違う!私の愛している女性は、ここにいるフィーリアだ。この者は気が触れている。兵よ!この者を連れて行け!」


ああ。殿下。


「殿下、ご確認したいことがございます。殿下の愛する方は、そちらのフィーリア様なのですね。では、私との婚約はどうされるのでしょうか?」


「はっ!そんなものは破棄するに決まっている」


「承知いたしました。婚約破棄を承ります」


侯爵令嬢が静かにそう仰った。

予想外の展開に固まる殿下。


「これは、殿下からの一方的な契約破棄ですわ。どういうことかご理解しておりますか?」


「違う!順番が逆になってしまったが、お前が私の婚約者に相応しくないから、お前の罪をこの場で暴く!」


「それは、きちんとした証拠があるものなのでしょうか。また当事者全員の証言があるものなのでしょうか。私は、殿下からの問い合わせや尋問など受けておりませんけど」


「だまれ。お前に聞いたところで、正直に答えないどころか、証拠さえも隠滅するに決まっている」


「ひどいです。ロザリナ様。私がリカルド殿下に相応しくないからって、あんな酷いことを…でも今日謝ってくれるなら許してあげようと思ったのに」


ここでフィーリア嬢が参戦した。すごい。殿下と侯爵令嬢の会話に割って入るなんて。そして爵位が上の令嬢に上から発言。常識では考えられない。


「マーカス。罪状を読み上げろ」


殿下の後ろにいた伯爵令息のマーカス様が用紙を取り出したところを侯爵令嬢が止めた。


「お待ちになって」


「諦めて、罪を認める気になったか?」


「いいえ。王宮からも調査書がありますので一緒に読んでいただこうと思いまして」


側にいたララ殿から書類を受け取った侯爵令嬢は殿下に渡す。


「ふん。デタラメばかりを書いたものではないか」


「あら、この調査を承認した方のサインをご覧になって?」


「ち、父上…」


「そう。陛下が調査してくださったのよ」


にこりと笑って


「どちらの調査の証言が正しいのか、おわかりいただけましたか」


力強くはっきりと仰った。


「ここまでして私との婚約にしがみつきたいのか!」


「いいえ。先程、婚約破棄を承ったではないですか。婚約は継続いたしません」


唖然とする殿下をお疲れで混乱されているから控え室に連れていくよう指示をした侯爵令嬢が私に声をかけた。


「戦場でもないのに命をかけて殿下を守ろうとするなんて、勇敢ね」


「いやでも守れきれなかったので…」


顔色が真っ青な殿下とご令息たちが近衛兵に誘導されて退場していくのを眺めた。

フィーリア嬢だけはキャンキャン騒いでいる。すごい。


「そんなことないよ。サルス様が頑張ったからさらに酷い状況にはならなかったんだよ」


べしっと私の背中を叩き労いの言葉をくれたララ殿の笑顔を見てキューンとなった。



後日、殿下は王位継承権を剥奪され、国境付近の公爵家で暮らすことになった。フィーリア嬢は厳格な修道院に送られて、男爵家は爵位を剥奪された。殿下の学友たちもそれぞれの罰が与えられた。


私は城の仕事は解雇され戻れないため実家に帰ろうとしていたが、今は侯爵家で働いている。毎日、ララ殿の笑顔を見ることが出来るこの暮らしが素晴らしく、遠い地で暮らす殿下にも同じような幸せな暮らしが訪れることを願った。






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