5.エスコートする花婿
あっぶなかったあああああああぁぁぁ。
ヤバかった。
あそこで理性をフル活用した僕、エライ。頑張った。
バカ王子の話に苛ついてたのに、マグノリアが可愛い事を言うから、ちょっと抑えきれなかった。
いい雰囲気に流されてキスしたら止まらなくて、もう、マグノリアがえろ可愛かった。
うっかり一線を越えそうになったよ。越えたかったけどね。宰相閣下の鬼の形相が見えた気がして思いとどまった。グッジョブ。
すっごい頑張って止めたのに「最後までしなければ良いのでは?」なんて爆弾発言をしないでっ。
もう色々と限界なんだよ?僕を試してるの!?
断腸の思いで部屋まで送ったよ。
途中で止まるわけないじゃん!無理でしょ!
あんなエロ可愛いマグノリアを前に止められるわけないじゃん。
なんて事を提案するんだよ。うっかり肯きそうになったじゃないか。
あの後、すっごい大変だったんだよ。え?何が?って秘密だよ、秘密。
言えるわけないじゃん!
本当に部屋に帰したくなかった。うっかり本音が漏れたらクスリと笑われて頬にキスしてくれた。
あーー!もーー!可愛いっ!
でも翻弄しないで、頼むから。
おかげで今日は寝不足です。
魔獣来ないかな。今なら最速で仕留める自信があるよ。
納得はあまりできないけど、マグノリアの意見を尊重してバカ王子は招待してやろう。
その為にも、マグノリアの横に立っても笑われないようにしなきゃね。もう少し鍛えるか。
バカ王子は王族籍を抜けて子爵家に婿入りする事になったらしい。他諸々の処罰を聞いて、僕は母上の仕業だと確信したが、当の本人は涼しい顔でお茶を楽しんでいる。
「母上、何をしたんですか?」
「あら、酷い言われようね。みんなでお茶会を楽しんだだけよ?」
「ちなみに、メンバーは?」
「クローディアとヴィオラ様、フェルミナ様とダリア様よ」
「ダリア様?」
「バルトス子爵夫人よ」
「ああ、なるほど。分かりました」
正妃様、側妃様、侯爵夫人、子爵夫人ね。そのメンバーでお茶会。絶対に参加したくないなぁ。
正妃のクローディア様と母上って従姉妹で祖国ではとても仲が良かったんだよね。
だから、僕が小さい頃は何度か王宮に遊びに行ってたもんね。おかげで王太子殿下とは仲良しです。まぁ、そこでバカ王子とヴィオラ様に陰で散々馬鹿にされたんだよね。
そうか、正妃様まで巻き込んだのか。
まぁ、身内の問題でもあるし、王家としちゃ解決しておきたいとこだよね。
それで、なんの話かと言えば、社交シーズンの開始となる観花会で、バカ王子がマグノリアに謝罪する事が決まったらしい。
日中に行う行事なので、出席率も高い。
うん、悪くない。
で、その観花会で僕がエスコートする事になった。お仕事?父上に丸投げだよ。たまには息子の役に立ってもらおう。
いつもは両親が行ってるから、実は観花会に出席するのは初めてなんだよね。ちょっと楽しみ。食事とか食事とかデザートとか。
暴飲暴食はしませんよ。後が怖いから。
という訳で、久々に王都に行きました。
マグノリアと一緒に馬車に乗って、色んな話をして楽しかった。癒される。
当然のようにアルバートさんも一緒で、合間に簡易的な運動もやらされた。なぜか護衛騎士が嬉々として一緒に参加してたよ。その気持ちは一生分からなくていいや。
王都では侯爵家に挨拶して、事前に頼んでいた衣装を調整したり、マグノリアとデートしたり楽しんだ。
なぜかアルバートさんはうちの屋敷に泊まっている。そんなに使命感に燃えなくてもいいんだよ?
観花会当日。
マグノリアのドレスは白から薄い紫のグラデーション。スカートは柔らかくて薄い生地が何枚も重なっていて軽やかに揺れていて、頭と腰に紫と青の花が飾られている。
あ、ちなみに青は僕の目の色です。肉が削げてよく見えるようになったねと言われたよ。
「すごく綺麗だ。よく似合っているよ」
よく似合っているどころじゃないよ。
なに?女神なの?
花の妖精にしては神々しすぎる。やっぱり女神だよね。
横に並んでいいのかちょっと躊躇ってしまう。
でも、婚約者は僕だし、誰にも渡す気はないんだから、頑張れ自分!
手を差し出すと、白い手袋のほっそりとした指が乗せられ、マグノリアがふわりと微笑む。
「バカ王子に会わせるとかもったいない。もう行くの止めない?」
「まぁ。殿下の為ではなくて、アルフレッド様の為に着飾りましたのよ。だって、初めて一緒に出席するんですもの」
婚約前の建国祭が社交シーズンの終わりぐらいだから、これが初めてのエスコートなんだよ。うわぁ緊張する。
っていうか、マグノリアが可愛い。何その上目使い。
僕を殺す気なの?
やっぱり、バカ王子にも他の男共にも見せたくないなぁ。
会場に到着して、エスコートしながら歩いていると周囲がほんの少し騒つく。
分かる。分かるよ。
マグノリア、美人だもんね。しかも今日は女神仕様。気になるよね。
でも残念。婚約者は僕だから。彼女の横は僕のものだから。
ふとマグノリアと視線が合い、互いに微笑む。
可愛い。
もう可愛いしかない。
どうしてくれよう。
いや、僕如きにどうもできないけどさ。
嫌だけど、王族に挨拶に行くか。
渋々挨拶に近付いたら怪訝な顔をされた。
誰?って感じに。正妃様だけ面白そうに笑っていたけどね。
んで名乗って挨拶したら、みんな面白い顔になってた。陛下と王太子は目がまん丸になってたし、側妃様とバカ王子は口まで開いてた。
うけるー。
正妃様だけが品よく笑っている。母上から聞いてたんだろうな。
「お久しぶりね。見違えましたよ」
「かなり扱かれましたが、お陰様で剣にも自信が付き、辺境の護りに役立てるようになりました」
「まあ、頼もしいこと。ねぇ陛下」
「う、うむ。素晴らしい事だ。以降もよろしく頼むぞ」
「陛下の御代の為に」
陛下、取り繕ってるけどきょどってるのバレバレだから。
挨拶が終われば、バカ王子の謝罪なんだけど、何かあるかと警戒はしたんだけど、拍子抜けするぐらいあっさりと終わった。
何かショックを受けたような感じだったけど、何かあったのかな。いつもぶら下がってるあの令嬢がいないせいかな。
ぷぷっ。可哀想に。
僕の隣には女神マグノリアがいるからね。羨ましいだろう。
その後は観花会を楽しんだ。
会う人会う人、僕を見て驚くんだよ。
二度見されたり何度も確認されたりするのはちょっとむっとしたけど、途中から相手の反応を楽しむ事にした。
特にマグノリアの友人の反応は面白かった。
純粋に驚く人、引きつった顔のぎこちない人、笑顔なのに目が笑ってない人。
「反応見ると面白いね」
「ええ、本当に。分かりやすくて助かりますわ」
あ、侯爵令嬢の顔だ。
そういう凛とした顔も好きだな。
青空と花の下で見るマグノリアは本当に綺麗で可愛くて、愛おしい。
バカ王子、一つだけ謝るよ。脳内お花畑だって思って悪かった。
気持ちが分かったよ。マグノリアといるだけで幸せで楽しくて嬉しくて堪らない。胸の中が咲き乱れる花で埋まった感じだ。
あー、なんかむずむずする。
マグノリアと共にもう一度陛下に会いに行く。
「陛下の御代を讃えて、魔法を使いたく存じます」
正妃様が口添えをしてくれたのかあっさりと許可された。正妃様が「本音は?」と聞かれたので「婚約者への気持ちが溢れすぎて困ったので」と正直に話せば笑われた。
マグノリアの照れ顔が可愛かった。バカ王子は見るな。
光と炎の魔法を空に放てば少しスッキリした。
正妃様が「結婚式は大変でしょうね」と言われたのでそれまでに精進しようと思う。
脳内でアルバートさんがとてもいい顔で笑っていて、一瞬だけ悪寒が走った。
可愛いがゲシュタルト崩壊中。
マグノリアのツンはどこに行ったんだろう。