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AM ‐ アンミとミーシー ‐  作者: きそくななつそ
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四話⑭


「あ、そうだ。そういえばなんだが、明日は朝から出掛ける用事があるんだ俺は。昼飯は家で食べないと思う。アンミにそう伝えといてくれないか。朝アンミが起きてたら別に俺から言っても良いが、なんだったら朝もパンとか簡単なもので済ませる。お前は納得するか分からんが、アンミが明日の朝もまだお疲れみたいだったら一回くらいは我慢してパンで済ませても良いだろう?」


「じゃあまあそうしましょう。片づけお願い、ごちそうさま」


 ゴクゴクと茶を一息に飲み干してミーシーは席を立った。皿を流し台へ置いてからは居間にも向かわず階段を上って自室に戻るようだった。おそらく、ミーシーの方もそこそこにはお疲れなんだろう。


「健介、これ、ニャ?」


「ん?なんか猫が食べちゃダメなものでも入ってたか?」


 ミーシーが階段を上りきったであろう頃合いにミーコも食事を終えたらしく、机の上から飛び降りてこちらの方へと歩いてきた。


「これ、ミーシーが作ったんじゃないかニャ?」


「ん……?んな馬鹿な。足りたか?おやつ後間もないことを考えても、そんな数分で食い終える量じゃ少ないだろう」


「ぴったり丁度、お腹一杯ですニャ」


「そうか。俺はゆっくり食うことにしよう。今日も早めに寝ることにはする。明日に限って目覚ましが壊れたりしそうだ。それでも起きられるようにしなければならん」


「私は先に部屋戻って寝てるニャ」


「ドア、開けてたよな」


「開いてるニャ。おやすみなさいニャ」


「ああ」と返事だけしてまた食事へと戻る。淡々と食事を済ませたミーシーなどと違って、俺は自分で思っていたよりも空腹だったようで、ゆっくり咀嚼しながらでも少し多めの晩飯を楽しみながら食べられそうだった。


 こうして一人取り残されてみるとなおのこと自分のペースでじっくりと食事できる。片付けも俺がやることになったわけだし、なんならわざと時間を掛けて食べてたって良い。


 いつの間にやら、ほんの少しだけ一人でいることに物寂しさを感じるようにはなってしまったが、それでもこれは、俺の知らなかった味だ。俺以外の誰かが作った料理の味だ。今日、俺のために作られた味がする。折角だから、しっかりと噛みしめて喉を通したい。


「うん。美味い……」


 この静けさというはむしろ、一人になって虚空を眺めて、ようやく気づくものなのかも知れない。


 食い終える間際になってなんだか内臓の調子の良さに気づく。ジェットコースターで振り回された時に縮んだり捻じれたりして良い具合に揉みほぐされたのかも知れない。


 単にいつもより運動したからだったり、ここ数日の中では遅めの夕食だったからかも知れないが。晩飯の量が多いなと感じたのはアンミの夕食が再配分されてのことだったか。アンミは本当に晩飯は食べないんだろうか。そうして、最後をかき込む。


 食い終えてからはしばらく椅子に腰掛けたまま茶をすすって過ごした。ふとももに力を入れてみたり、グーでトントンと叩いてみたりする。足に少し微妙な違和感というのが残っている。遊園地でちょっと歩いてちょっと踏ん張っただけなのに筋肉痛の予感が埋め込まれていた。


 早寝早起きももちろんだが、運動不足の解消も日頃の目標に含めた方が良いかも知れない。これはもうかなりの肉体的衰えではある。立ち上がって調味料を棚やら冷蔵庫にしまい込んで、続けてミーコの分も皿を重ねて流し台へと運ぶ。ジャバジャバと水を掛けた後、スポンジに洗剤を含ませて擦る。


 一応、ミーシーに大口を叩いたというのもあるし、アンミに迷惑を掛けないように完璧な仕事を心掛けよう。一枚ずつ丁寧に裏までスポンジを擦りつけて完全に油分が消えたことを指を置いて確かめる。何枚も同じように丁寧に、裏面まで洗う。


 ついでにシンクの横に積んであったふきんを一つ取ってアンミがやっていたように水気を拭い取る。普段ならさすがにここまでやらないが、こうまでしてあればさすがに文句も出ないだろう。これで九十点は確実に取れる。


 残りの十点は排水口の生ゴミの処理についてだが、これについては勝手が分からんからそのままにしておこうか。溢れ出ているわけでもないし、問題ないだろう。


 そのまま風呂場へと向かって、シャワーを浴びて、ゆっくり浴槽に浸かって、頭を洗って、歯を磨いて、何を考えるでもなく淡々とスケジュールをこなした。まだ八時半だからテレビでも見ようかと思ったが、それもやめておく。


 朝御飯はないにせよ、絶対確実に百パーセント、約束の時間に寝過ごさないように気をつけて就寝しなくちゃならない。そうした焦りが逆効果なのか、この満腹感の後にくる眠気を逃したら上手く寝つけないような気がしてならなかった。


 さすがに、ちょっと疲れているとはいえ、十二時間以上寝るなんてことはないだろう。できれば早起きをして、朝御飯を食べてなんなら体操でもして、体調を万全にした後に出掛けるくらいの気構えでいよう。ということで、こんな早い時間なのにもう自室に戻ってベッドに入ることを決めた。


 どうせあれこれ余計なことをぐだぐだとやってると時間ばかりが過ぎていってしまう。できるだけ万全に整えておきたい。「さてと」と、部屋に入って電気を消して静かに毛布を被った。


 で、目覚まし時計を、そうだな。五時半に設定しておく。およそ九時間睡眠だ。だがまあ、……眠くはないな。こんな時間には多分小学生だってベッドに入ってない。眠くはない。だが、眠らなきゃ。


 ……幽霊、幽霊はまた出たりするかな。変な時間に目が覚めてその後眠れなくなる可能性もあるか。ああ、……あくび一つ出ない。まあ、とにかく、目を瞑って眠気が訪れるのを待つしかない。


第四話『ため息ふたつ』


The girl also lets out a sigh.



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