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AM ‐ アンミとミーシー ‐  作者: きそくななつそ
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二話⑬

 ミーコもこちらへ首を向けていただきますに合わせて前足を合わせて首を下げるようなぎこちない動きをしていた。


「特に理由がなければみんな揃っていただきますしましょう。七時や八時でも私は構わないわ」


「いやあ……、別にそういう要望を出したというわけじゃなくてな?アンミも……。ラップして置いといてくれたら良いぞという話だぞ?片付けは俺ができるし、米を炊くにしても言っておいてくれたら俺ができるから」


「ミーシーは、六時より前が良い?」


「私は別に。時間がいつもバラバラなのは気分的に嫌なだけで多少遅かろうが早かろうが飢えて死んだりしないわ」


「そりゃ死にはしないんだけどな」


「……健介は七時か八時が良い?」


「ん、そうじゃなくて……。お前ら二人は六時前にいただきますしててくれたら良い」


「でもそれだと健介は一緒にいただきますできない?」


「いや……。できないわけじゃないが、できた方が良いのか?」


 わざわざ確認はするが、多分聞くまでもなく、どうやらみんなで揃っていただきますしたいという意見のようだった。習慣上家族揃ってご飯を食べてたということなんだろうか。で、そうすると、一人残しておくというのは気が咎めるということなのかも知れない。


 俺は別にそれほど気にならないが、どうしてもといわれたら六時なりに合わせるしかない。多数決にせよ規則正しい生活リズムにせよ、議論するにも分が悪い。腹ぺこミーシーを待たせるというもそれはそれで可哀相だ。育ち盛りではあるだろうし……。


「うん、できた方が良い。でもご飯はミーシー、七時でも八時でも大丈夫って言ってる」


「まあそうだな。こういうのはそうやってな、意見を出してくれると良い。お前らの方が生活リズムも整ってるだろう。二人がいつも食べてる時間にご飯用意してくれ。俺がそっちに合わせた方が良いだろう。その方が健康的だ。他も都度かみ合わんと思ったら遠慮なく言ってくれ。晩御飯は六時前で良い。朝御飯と昼御飯は何時だ?旅館とかもそういうのあるしな。言っておいてくれたらそれに合わせる」


「そうなの?うん、無理しなくても良いよ?」


「むしろお前らこそ遠慮しなくて良い。飯の時間などはこの時間だと知らせてくれたら良い」


「朝ご飯は、六時……、だし、昼御飯は十二時、晩御飯も大体六時くらいがいつも」


「それこそあなたが変に気を使うからいちいちこじれるのよ。好き勝手してなさい。どうせあなたは明日も朝御飯の時間に起きられないわ」


「そうかも知れんが……、どっちも遠慮してたらそれこそまとまらないだろう。俺もお前もどっちでもいいと言い出したらアンミも困る」


「じゃあ仕方ないわね。ほら、この肉の切れ端をあなたにあげましょう。あなたはこのせいぜい二ミリくらいの肉の切れ端一個で晩御飯の時間を決める権利を放棄したことにしましょう」


 そう言ってミーシーは、箸で小さい肉のカケラを俺の皿へとポトリと落とした。


「…………。普通に、ありがとうで良くないか?晩御飯の時間を決めさせてくれてありがとうと、言えば済むだろう。何故余計なことを言うんだ」


「感謝の気持ちを込めたわ」


「そうか。二ミリくらいの破片にな。じゃあそういうことだ、アンミ。ご飯はいつも通りの時間に作ってくれ」


「うん。分かった。健介、私のもあげる」


「いや、やめろ。だからそういうのは良い。育ち盛りだろう、食べろ。今のはなアンミ。悪い例だろうに。俺がセコイ交渉をしたみたいになるから。優しいねとか、ありがとうとか、普通はそういうのを雰囲気になる場面だ。あんまりそういうのは期待できんようだが」


「あら、優しいわね。ありがとう、とても助かるわ」


「……一応、言えることは言えるのか」


「ありがとう、健介」


「いや、……礼を言われるような、……まあ、どういたしまして。こちらこそありがとうな。美味い料理を作って貰って。規則正しい生活というのもできるようになるかも分からん」


 アンミが「うん」と答えてからは、特に会話はなかった。途中アンミは自分の食事を中断して席を立ちミーコの方へ歩いていった。ミーコの皿が空になったことに目ざとく気づいておかわりが必要かどうか確認をしているようだった。


 ミーコの返事は聞こえてこなかったが、単に首を振って答えたのか、アンミはまた自分の席へと戻って食事を再開した。ミーコはというとまた丸まるようにしてごちそうさまのポーズらしきものを作っていた。そしてまあ、食事の開始時間の要望はあれど、さすがに終了時間の取り決めまではしないようで、食べ終わったミーコはそのまま居間を抜けて階段の方へとトントンと跳ねるようにして去っていき、それについては二人とも何ら指摘はしなかった。


 個人的にはむしろ食後の歓談を努力義務とでもしてくれるとコミュニケーションも取りやすくなってありがたいもんだが、それはないか。俺も食べ終わって少しゆっくりと茶を飲みながら二人の食事を観察した。


「ごちそうさま」


「うん」


 ミーシーも食べ終わってはいるが、席を立つこともなく目を瞑っていた。


「そういえば部屋はどうなった?寝れるようになってるか?」


 同居人がいたとして、いちいちそう衝突するようなこともないだろうし、何も律儀に全て前もって協議せずとも思いついた時に話し合えば良いとは思っている。とはいえ立場上、……本来であれば居候の発言力は弱いはずであるから、意見がないかという確認は、俺が進んでやるべきかも分からん。現実問題、俺が一番遠慮がちに発言しているようにも感じるが……。


 俺もどうしても譲れない部分があるなら考慮に入れて貰わないとならない。といっても、部屋を与えて、飯の時間を決めて、その他に何かあるもんだろうかひとしきり考えても思いつくことはなかった。トイレも風呂も消耗品類も、勝手にしてくれとしか言いようがない。必要なものがあるならそれは言って貰わないと分からない。


 生活用品については俺が負担するのが妥当だろうな。下手に細かい金銭やり取りを提案される方がやりづらい。それもあらかじめ話しておくことにするか。それで少しは家事負担に報いられるし、打算的なことをいえば、ある程度の家主としての発言力は確保しておきたい。


「ちゃんと寝れるようになってるわ。まあ、でもなんなら寂しい時は呼びなさい。あなたが寝つくまで横にいてあげるわ」


「……ギャグで言ってるんだよな?余計寝つけないと思うからいらない。俺が断ることを前提にした提案はしなくて良い。あとまあ、生活用品とか足らないものがあるなら言ってくれ。気づいたら我慢せず遠慮せず言ってくれ。……まあ、買ってくるというなら必要な分お小遣いをせびってくれたら良い。新生活するのに何かと必要だったりするだろう?」


「ご心配なく。大体準備してから来たわ。生理用品とかも当面いらないわ。あなたは女の子のことをよく知らないでしょう。持ってるし、足りなくなったら頑張って止めるわ。止まるのよアレは。頑張れば」


「嘘つけ、あのなあ。必要な金は負担してやると言ってるんだ。不満のないように生活させてやろうと気配りしてるんだ。そしてな、その負担というのは、というか心労だけは、最小限にしたい。大丈夫かどうか逐一観察して表情見てなんてことはできる気がしないし、不安がつきまとうような生活をしたくはない。いくら必要だと言ってくれるだけで良いんだ。よほど不審な支出じゃない限りは事細かに聞いたりしないし、その方が気が楽なんだ。分かってくれ」


「あらそう。じゃあ恥ずかしがらずに言うわ」


「……まあ、そうだな。気づいたこととかそういうのがあればな。じゃあ、とりあえずは俺はまた部屋に戻るから、相談したいことでもあったら声掛けてくれ。多分基本的には部屋にいるから」


「居間でテレビでも見てくつろいだらどう?」


「ん……?そうか?そうした方が良いか?」


「ちょっとおしゃべりでもしてましょう」


「ああ……。そうか。そうだな。じゃあ、居間で……」


 皿を重ねて流し台まで運んで、一度ミーシーの顔色だけ窺って居間へ移動した。おしゃべりと銘打った割に楽しそうな表情をしてたりはしない。単に要望リストがあるということなのかも知れないが、まあなんにせよ、声を掛けてくれるのは単純に嬉しかった。


 居間でそわそわ待ってるというのも変だなと思いながらソファへ腰掛けたがミーシーは待ち時間もほぼなく居間へと姿を現してまっすぐこちらへと向かってきた。そして俺の隣に、座る。まあ?ソファが一個しかないとそうなるもんなのかな。


 確かにアンミとミーシーがこうして座っている分には別に違和感もなく仲良く見えるんだろうが、いざ俺がその立場になると、ミーシーの横顔から話し掛けるなというオーラが見えている気がしてならない。でも何かしらは、話があって、こうなっているわけなんだから、これは勇気を出して口を開くべき、なんだろう、多分。


「……何か、話したいことがあるんじゃないのか?」


「ないわ」


「…………。幻聴だったのかな。おしゃべりしようということじゃなかったか?」


「じゃあ喋っててちょうだい。私は私でやることあるのよ」


「やることってお前……、座って、じゃあ?テレビ見るか?テレビ見るなら俺は確かに黙ってた方が良いな」


「いいえ、喋ってなさい。ねえ分かったわ。じゃあ、条約を結びましょう。仲良さそうにしましょう。ソファから降りずに部屋にも戻らずここで仲良しの友達と一緒にいるみたいに振る舞ってみてちょうだい」


「?それに、合わせてくれるのか?だが……、相手ありきだからな。仲良さそうなと言われても……」


 なんだろう、ちょっとかわいらしく思った。もしかしてミーシーも、俺と同じように異性相手にどう振る舞うのが仲良しなのか分からなくて戸惑っている、のかも知れん。


 俺には女の子が……、ましてミーシーが喜ぶ話題なんてものは分からないし、ミーシーからしても年上の大人の男に振る気の利いた話題を思いつかなくて当然だ。だからこれは、勇気を出して、気まずさも省みずに、コミュニケーションを図ろうとしてくれたと、そういうことだろう。


「そうだな。まずはちゃんと自己紹介をして、何が趣味だとか、例えば、好きな映画のジャンルとかそういう話をしないか?」


「そうね、それが良いと思うわ」


「……うん。じゃあ、映画の、ジャンルで良いのか?」


「良いわ」


「俺は昔、特撮とかが好きだったな」


「そう、良かったわね」


 会話が……、続けられる気がしない。ちょっと気を使ってジャンルをボカして対象年齢を下げて話題を挙げたのに、じゃあどんな作品を好きなのかと、そんな適当な相槌にすら到着しない。


「……これは俺が勝手に喋ってるだけにならないか?どんな作品が好きかとか聞かないのか?」


「ゴジラとかなんでしょう。聞かなくても知ってるし、だから勝手に喋ってなさいと言ったのよ。あなたの自己紹介をしたとするでしょう。もう大体浅くてどうでもいい情報しかないのよ。あなたも割合飽き性でしょう。人生で一番感動した映画挙げる時ですら気分でバラバラでしょう?」


「そんな……、そうかな。そうかも知れんな。まあ、でも、そりゃ気分によるが、挙げるということは好きなのは好きなんだぞ。なんだ、予知で先回りをやめろ。自己紹介できんだろう、そんなことをされてつまらないと言われたら」


「いいわ、もうしりとりしましょう。それでちゃんとお互い会話してるふうに見えるわ。その方が脳みそ使わなくて済むから、しりとりしましょう。くそむし」


「……ん?色々、ちょっと、分からない。会話してるふうに見えることが重要だったりしないだろう。なんで俺は今くそむし呼ばわりされたんだ?」


「しりとりしましょうと言ったでしょう。し、ね。あなたはしでどうぞ。いくらでもあるでしょう。しでんで終わらなければ良いわ」


「……くそむし呼ばわりされた上に死んでと、言われてないか?」


「言ってないわ。気のせいでしょう。でも嫌なら一人でしりとりしてなさい。私は隣でへぇとかなるほどとか言っててあげるし、なんなら、それはさっき言ったでしょうと審判役までしてあげるわ。あと、一応、最後にんがついてたらそれも教えてあげるわ。テレビ見てるから小声で迷惑にならないように気をつけてやりなさい」


「それは……、ならいっそ、え、どうなんだ?お前一人でテレビを見てたら良いだろう。俺と話す気はないってことか?」


「そんなことないわ。仲良くしましょう。少なくとも表面上は仲良く見えるようにしましょう。二人並んで座っていたらちょっとはそれっぽいでしょう?一応今も会話にはなってるでしょう?」


 ああ、なるほど。ちょっと納得いく理屈が組み上がった気がする。アンミは流し台で皿を片付けている。水の音が一度止まって、片付けが終わったのかと思った。


 アンミは一度こちらへ、来るような素振りをして、居間を覗き込むような格好だけして、また姿を消し水の音が聞こえてきた。


 要するにだ、多分、おおよそ百パーセントそうだと思うが、ミーシーはそもそも俺と会話したい気持ちなど微塵もない。けど、アンミから注意を受けたんだろう。仲良くしろと。


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