表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AM ‐ アンミとミーシー ‐  作者: きそくななつそ
119/289

七話⑪


 単に気分の問題か、あるいはこの場合は陽太に対する牽制のつもりだろうとは思うが、とりあえず俺がミーシーの呼び方で当惑している様はどうしてか気持ち悪かったらしい。それを俺に伝えておくべきだとは感じているらしい。


 余計な気遣いはしなくて良いという意味なんだろうが、気持ち悪いと評された上にちょっとの間素っ気ない態度を取られてしまう。ちょっとの間というのはどのくらいなんだろうか。


 なんとなく時計を見てはみるが、時間単位で回復するものでもないだろうし、少しの間は言葉を慎んでなりゆきを見守ることにしようか。


「すごい疑問なのだが、健介からはどういう説明受けてるのだ?こうしてな、二人ともかわいいことを考えると今まだ健介が顔で選んで目茶苦茶給料が良いとか嘘ついて連れてきてるという疑いを拭いきれないのだ」


「……俺、俺は一応自分のことについては発言しても良いか?あのなあ、何故俺への信用がそこまで低いんだ」


「いや一応今なんか健介が騙してということじゃないのはなんとなく分かるのだが、そんなほいほい見つかるものなのか?今までだって一応求人してたのだぞ?しかもかわいい上におっぱん、ん……、なあ……」


「俺も今一応、お前がちゃんと店のことを考えて確認してるということは伝わってきた気がするが……、まあ、そういうこともあるだろう。全てがとんとん拍子に上手くいくという奇跡みたいなことだって世の中ないことない」


 かわいい上におっぱい大きくて料理が上手で更に魔法使いの女の子が、アルバイトにほいほい来てくれることなんて確かに疑わしい出来事ではあるだろう。


 もう片方もかわいい上に予知万能でその上……、戦闘力も非常に高い。そんな女の子がそもそも存在することすら疑わしい。何かこう陽太の言い分というのも十分に分かる。全てが偶然だというのを数分やそこらで信じられる気がしない。


「まあ、ただその、かわいいというのはな、血筋というか……、そういうのもあるだろう」


「種族単位で区切られるのは不快だわ。差別的な発言でしょう撤回しなさい」


「すまん差別的な意図は全くない。単に純粋に、いや、そうだな。撤回する」


 外国人などやはり背が高いのが普通であったり目がぱっちりしているのが普通であったりするのと同じように、魔法使いというのもやはり肌や髪の色素の加減や骨格などが見慣れた一般人と異なるのではないかという仮説だった。


 まあ、差別的な発言と言われてしまえば撤回せざるを得ないし、並んで座る二人ですら似通っているという印象は少ない。せいぜい色白という程度の共通点しかないのを一緒くたに種族としてまとめるのも強引なようには思われる。


「で、あれば……、まあ、偶然だ、陽太。俺もお前の気持ちはよく分かるが、偶然としか言いようがない」


「そうなのか。そうか。逆にごちゃごちゃ理屈をこねられても納得いかない気もするな。一周回って偶然と言われたらもう確かに反論しようがないのだ」


「そもそも陽太はそんなところ気にしても仕方ないでしょう?店をどうにかしたいと思っているなら、料理ができるかどうかが重要なわけでしょう。だったらその辺りを質問しなさい。形だけでもそういう面接らしいことをやって店長にちゃんと料理のできる子が見つかってとても貢献してくれそうだと説明しなさい」


「陽太お兄ちゃんと呼んで欲しいのだが」


「ちょっと気持ち悪いから少しの間素っ気ない態度を取ることにするわ」


 陽太には悪いが、……良かった、俺以外にも発動してくれた。


「面接らしいことと言われてもなあ。健介とかなんて知らん間にいたみたいになってるしな?」


「知らん間にってことはないだろう、お前が連れてったんだから」


「まあ、一応そうだな。やってみたいというのはあるし、折角だから、質疑応答みたいなな、そういうのはやるか。健介はどっち役をやるつもりでいるのだ?なんなら健介も今まで試用期間ということにして入社面接受けるか?雇用契約継続のための面談みたいなものなのだが」


「そういうお前こそちゃんと面接受けたのか?」


「俺の資質を問うのか?まあなんなら逆にこっちが面接受けてやっても良いのだが?俺の場合は面接マスターだからな、どんな質問でも答えられるぞ」


 俺の確認を挑発と受け取ってなのか、面接官が面接を受けてやっても良いと言い出した。まあ……、今回の場合は、陽太から質問をする意味は薄い。二人からの質問を受け付けてやる方が良さそう、ではある。


 ただ、実際のところ、アンミは店についての詳しい説明を求めないかも知れない。聞こうと思えば俺やミーシーに聞くことはできた。


 どういう形式が望ましいのかは決めかねるな。陽太が興味本位で質問してくれている方が、会話は上手く繋がるようにも思う。


「将来的なことをいうと俺も就活をすることになるだろ?女の子から面接を受けるというのは良いな。なんか興味を持って聞いてくれてる感じがしないか?」


「ただ、……沈黙が訪れてしまうとつらいんじゃないかとは思うけどな。お前が面接を受ける側のお手本を見せてくれるということで良いのか?」


「まあ、そういうことだな。もちろん二人も質問してくれて良いのだ。例えばアンミちゃん、この俺に尊敬している歴史上の人物を聞いてみてくれ」


「え?じゃあ、えっと斉藤さん?歴史上の」


「いや、陽太お兄ちゃんと呼んでくれた方が良いのだが」


「うん、陽太。歴史上の尊敬している人は誰ですか?」


「はひぃっ!……私が尊敬している人物は伊井なおかゆです。厳しい鎖国政策が取られていた当時において日本の将来を見通し開国へ踏み切る決断は、今日の我が国の発展を見るに決して間違ってはいなかったと思うからです」


「陽太……、すごい。歴史の、人とか知ってる」


 お返事の段階で気が狂っているのはともかくとして、井伊直弼、……じゃないのか?なおかゆ?付け焼き刃の知識を漢字の読み間違いで見破られてしまうというジョークのつもりなんだろうか。


 しかし、井伊直弼の子孫とかに直粥というのがいたのかも知れんし……、俺にはそれをどう広げて、どう評価すべきなのか分からん。むしろここでは陽太お兄ちゃん呼称を軽くスルーして、実在の怪しい人物の名前を聞かされても素直に誉めてあげるという、アンミのバランス感覚に感心した。


「陽太、悪いけど歴史上の人物だと詳しくない人間には分からないわ。身近で尊敬している人とかにしてちょうだい?そしたらアンミも思いつくでしょう?」


 この質問ならおそらく大多数は両親だとかお世話になった先生だとかそういうのを挙げる。仮にアンミが歴史に詳しくなくても、スイラお父さんについての和やかエピソードを語ることはできるだろう。


 人柄を見るという点では、そちらの質問の方がマシだ。陽太は気を利かせて店長の話でもしてくれると良いな。アンミにも店がどういう雰囲気か伝わる。


「そうだな。陽太、じゃあ身近にいる人とか限定だとどうだ?」


「はひぃっ!……実家で飼っている金魚のパックンです。少し前、餌の代わりに小石を水槽に入れてみたのですが、餌じゃないことが分かるとすぐに吐き出してすいすい泳いでいました。生命ってすごいなと思いました。あ、あと、あなたのことも尊敬しています」


「…………。陽太よ、尊敬している、人、だ。俺をその餌と小石の見分けがつかない金魚のパックンと一括りにするな」


「身近な人、とか、と言っただろ。健介は。そして健介は覚えておくと良いのだが、面接官という人間は基本的に誰かに尊敬されたいと思っているに違いないのだな。こういうところでおべっか使うのはテクニックとして常套手段だろ。照れ隠しとかしなくて良いぞ。小石がどうとかじゃなくて、一生懸命に生きている姿に尊敬の念を抱いているのだ」


「一生懸命には生きてるかもな。だが取ってつけたかのようにパックンと並べられて喜ぶ奴などいない」


「じゃあ、ミーシーちゃん何か聞きたいことはあるか?」


「では陽太、何か頑張ってきた成果みたいなものはあるかしら?」


 ……まあ、陽太は見本として成立していないながら、ミーシーはちゃんと、後に同じ質問を受けることを想定して誘導役を担ってくれている。無難なところだな。


 今回アルバイトの募集は料理のできる人間ということ以上に何があるわけじゃない。店長はそのことを聞きたがるだろう。アンミは長いこと料理をしていて、こんな料理が得意ですと言えば良い。


「はひぃっ!……高校時代、私は一年生の時からサッカー部に入っていたのですが、毎日毎日二十分にも渡ってイメージトレーニングを繰り返していました。そのお蔭もあって、近所の小学生チームと対戦した時に、手でシュートして小学生を泣かせたことがあります。あと、厳しいイメトレによって我慢強さが身につきました。私が主催した『芋食って放屁我慢大会』では二度も優勝したことがあります。まあ、ふふっ、すみませんが、次回あなたが参加したとしても、私に我慢負けして放屁して恥ずかしい思いをすることになるのでやめた方が良いですね」


「あなたが後悔することになるわ。なんなら芋食べる合間にコーラ飲むぐらいのハンデつけてあげましょう」


「安い挑発に乗るな……。参加しようとするな……」


 まずそこを我慢できなくて何を競うというのか。


「次、一周回ってアンミちゃんの番だな?この格好とか気になるだろ?実はバイクを買ったのだ」


「陽太、バイク買ったんだ。それはいいんだけど、そのね。お店で仲良くするのってどうしたら良いと思う?」


 なるほど。それがそもそも一番重要な部分ではある。採用自体は決まっていて、料理ができることなどいずれ明らかになるわけなんだから、今はそういう建設的な質問をすべきだった。


 アンミが一番しっかりしているのかも知れん。


「はひぃっ!……仲良く?まあ、はっ、健介の場合はな、それこそ知らん内に仲良くなってたみたいなとこあるからな。そうやって考えると全自動みたいなもんだよな」


「ちょっとは真面目に考えてやってくれ。アンミは今すごく建設的な話題を出した。大切なところだろう」


「真面目にだと?それがいわゆる悪い例だな。人のこと気にして窮屈な思いしてなくて良いのだぞ、健介も。むしろ、自由にやってる中でそれぞれ役割もできてくものだと思うのだ。なろうと思ってなるんじゃなくてな、付き合う内に徐々にそれぞれ形が決まっていって気づいたらもう離れられなくなっていくものだろ。まあ、合ってればという話なのだが、正直合わない人に無理して合わせる必要ないからな」


「けどなあ。それが理想だとしても、お互い良い関係を保とうと努力もすべきだろう。合わせてやらなきゃならない時もあるし、間に入ってやらなきゃならない時もある」


「それは健介が面倒見たがるのも含めて合ってるということになるんじゃないのか?俺は正直、健介に合わせるつもりとか全然ないぞ?」


「……ちょっとは合わせてくれても良いだろう」


「まあだから、アンミちゃんは逆にな、店で気に入らないことがあったら、変にこうしなくちゃいけないとか考えずに言ってくれたら良いのだ。合わないと思ったら、それはそれで仕方ないことだしな。気に入ってくれると良いとは思ってるのだが。俺も健介も、気に入ってるから働いてるのであって、働かなくちゃと思って我慢してるわけじゃないのだ。気に入ってくれるとは思ってるのだが」


「俺は前もって、お前にもアンミにも我慢してみてくれと注意してるぞ。お前の言いたいことも分かるし、俺もそう我慢してるわけじゃないが……、最初は双方歩み寄りというか、そういうのが必要だろう。愛着があるから大抵我慢してられる。無理して合わせろとか我慢して働けと言いたいわけじゃなくて、最初くらいはお互い格好つけてて良いだろう。お前はアンミのやる気を目減りさせるべきじゃないし、アンミもちょっとくらい我慢して良いところを見つけていけば良い」


「俺が格好つけるのは良いのだがな。アンミちゃんもミーシーちゃんも気ままにしててくれないと何をどうしたいのかとか分かんなくなるだろ。店でいうならあれだぞ?店長がボケ役で健介がツッコミ役してるだろ?店長が真面目ぶってたり健介が寒いボケし始めたら変な緊張感生まれると思うのだが?」


「それはそうだが……」


「だから、ありのまま自分らしく、自由でいることが大切なのだな。ああ、良いこと言ってしまった。ほら健介、ツッコミ役だろ?ツッコミしてみろ」


「……じゃあいつもみたいにボケ役してろ」


「じゃあ。……正直健介はおまけ面接官だからあれなのだが、質問してくれ。俺が就活する時とかされそうな質問とかをしてると良い練習になるな」


「そうか。なら、採用されたら何をするつもりかとか、どこをどうしたいとか、そういう展望はあるか?今回お前じゃなくて二人が採用される側だから……、こんなんになると良いなという想像でも良い」


「はひぃっ、……採用されたら何をどうするか、なんて考えていても仕方ないです。そういうのを、取らぬ狸の皮算用というんです」


「よくもそんな面接官の心証を著しく悪化させるような最悪の回答を用意できるな……。なんか楽しげな雰囲気でも語ってくれ」


「健介そんな気負ってやってたか?」


「……うん。まあ、そう……、言うなよ。どうにかしたい気持ちというのはあったんだ。今回は俺が誘ってという部分もあるから……、まあそうだな。俺の時より細かいこと言ってるかも分からん」


「まあ、その辺は健介から説明試みても良いぞ。不安を取り除いてやるというのは健介に任せておくことにしとくのだ。次、ミーシーちゃんな」


「陽太、簡単な質問をしましょう。簡単な約束をしましょう。アンミと上手くやっていけそうかしら?長くね。健介は上手くやってくれてると思ってるわ」


「ああ、もちろん」


 空気を読んでなのか、そのギャップにツッコミが欲しいのか、陽太はそこでだけは気が狂った返事を省略したし、後にならんと分からんなんてことは言わなかった。


 続けざまにアンミからも同様の質問が出る。「ミーシーとずっと仲良くできそう?健介は仲良くしてくれてる」と。


「ああ、もちろん」


「…………。じゃあ、引き続き俺とも仲良くしてくれるか?」


「いいともー」


「揃えてくれるかと思ったのにな……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ