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AM ‐ アンミとミーシー ‐  作者: きそくななつそ
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六話㉔


「……うん?なんで?例えば……、私とかのろいから?」


「いや、きびきびやってくれている。料理の方も店のと比べ物にならないくらいまともだろう。だが、例えばアンミ、お前歳は?」


「十四か、十五か、十六か、もしかして十七くらい。そういうのは分からない。誕生日は分かる」


「…………。ああ、いや、歳がどうこうじゃなかったな。未成年だよな?そうすると労働法というのがある。法律で決まってて、そして確か……、そのだな」


「うん……。未成年だとできない?ミーシー?ミーシーって法律分かる?」


 アンミが居間へとことこ歩いていく間にまた電話機がうるさく音を鳴らし始めた。即切りするなり電話線抜くなりして対応したい。


「くっそ、陽太め、こっちが焦ってる時に限って……」


「もしもし、健ちゃん?あのさ、陽ちゃんにも話したんだけどさ」


「店長ですかっ、今忙しいんですよ!」


「えぇ、なんで怒ってるの?健ちゃん忙しいのに電話すぐ出てるじゃん。そんなに忙しくないよ、多分だけど」


「てか、陽太からも電話あったし、どうせ料理担当の募集の件でしょ、俺はもうそれであたふたしてるのに」


「陽ちゃんも結局なんやかんや言って健ちゃんがやる気だし大丈夫だとか言ってさ。そうだ、陽ちゃんからアイデア料理みたいなの言われたんだけど、多分不味いと思うんだよね、話聞いただけでも。健ちゃんそれ却下するの協力してくれない?」


「店長が却下すれば良いじゃないですか、なんで店長なのに店のメニューの件で多数決の根回ししなきゃならないんですか、ああ、と、後で掛け直……、ああそうだ、店長。例えばなんですけど、未成年とか雇えないですよね?しかも、十六未満とかだったら絶対に無理なはずだ。これちゃんと法律で決まってて」


「あー、なんか昔そういうの言われた気はするけど、全然問題ないよ。ほら、喫茶店やってる人とかって子どもに手伝いさせたりするじゃない?それでお小遣いあげるのと一緒」


「一緒じゃないでしょ?全然一緒じゃないですよ?問題あるでしょう、さすがに」


「うーん、でも、別に僕のとこ税務調査とか雇用統計調査の対象とかに絶対ならないしね?しかも、健ちゃんもそうでしょ?履歴書とか書いてたりしてないじゃん。だから雇用契約とかそういうのしてないわけだし、契約とかしちゃうとダメだけど、……別に元からそういうのしてないかな」


「…………。それ、それは大丈夫なんですか?」


「僕の友達は大丈夫だって言ってるよ?経費で出してないからバレないって」


「バレたらマズイんですか?」


「さあどうだろ?僕の給料ってことにしておいたら僕が何に使っても問題ないんじゃない?詳しいこと分かんないけど、でもほら、あれだよ?なんかしっかりやろうと思ったら結構大変だよ?今度は事務とか仕事できる子いないし。健ちゃんできないでしょ?税金とか保険とかなんかそういうの。今は買ったやつの領収書取っとけば良いだけだけど。あれ?というかもしかして料理してくれる人見つかったりしたの?未成年でも全然大歓迎。多分なんだけど、十歳とかでも僕らより料理上手な子いると思うんだよね。そういうテレビ番組あったしさ。それにだって、陽ちゃんさ……」


「…………。店長また、後で掛け直します。いつか掛け直します」


「うん?でも、これ結構大事なことだから健ちゃんだけはさすがに真剣に考えてね?じゃあ、また今度」


 ……俺も、もしかして違法就労者だったのか?なんかそういえば、連絡先シートとかそんなのしか書いた覚えがない。給与明細とかそういうのがないのは単にチェーン店じゃないからだと思っていた。


 そうするとなおのこと、ヘンテコなだけじゃなくこんなおかしなところでアルバイトしたいと思う人間なんて……、こういうのもなんだが、……せいぜいアンミくらいだ。アンミは一体、何を考えてるんだ。


「健介?ミーシーが行っても良いよって」


「そうだ、アンミ。よく考えたらミーシーが、……反対するはず、……だぁ、が?行って良いよ?……う、嘘つくな」


「えっ?」


「いやいや、だってミーシーが?あの外に出たがらないミーシーか?行って良いって言ったのは」


「うん……。言ってなかったのかな?も一回聞いてみるね」


 少し落ち込んだ様子で歩くアンミの後に続き、ソファの前で立ち止まる。俺とアンミが一言すら呟く前に、聞くはずのない台詞がミーシーから聞こえた。


「行きなさいな、近所だし……。割と都合の良いところだし、繁盛してないならアンミものびのびできるでしょう」


 ……と、いうことだった。俺はもしかすると外出リスクというのを過大評価していたのかも知れない。追われているといっても結局大したものじゃないのかも知れない。


 だから、要するに、俺は心配し過ぎていて、アンミはバイトをしても良いのかも知れない。


 かも知れない、というより、心配し過ぎだった、ということになる。


 予知不調に伴ったトラブルに巻き込まれて、いきなりスタンガンで攻撃してくる不気味な黒い女に惑わされて、要するに、心配し過ぎだった、ということだ。


 良かった。そこは何よりだ。なるほど、なるほど。だから俺は、別にアンミとミーシー二人のそういう事情に過度に反応しても仕方ないし、単に二人と仲良くしていれば良い。そうだとすればすごく気が楽になる。


「そう……、か。ああ、さっき店長からも電話があって、実は未成年でも問題ない、……そうだ。本当かどうかは定かじゃない。厳密なことを言うと多分ダメな気がするんだが、当の店長が問題ないと、いうか、未成年でも店長は歓迎すると、……歓迎するとは言ってた。現状まるで繁盛していない連続赤字だから調査の手など及ばないという、そういう見解だった」


「なら、私もついでにお邪魔するわ。味見係をしてあげましょう。そして運搬係をしてあげましょう」


 ウェイターという言い方をせず運搬係などと言い出す、ということはおそらくミーシーは少なくともバイト一日目の時点までは予知していることになるのか。


 こちらに問題がないなら、店長に電話して大丈夫なんだろうか。店長も店長で焦って誤った判断をしてたりしないだろうか。一人は料理をしてくれるわけだが、もう一人……、味見係で通すのも厳しいようには思う。そうか……。ミーシーが、賛成してしまった。俺がそれを拒否するのも不自然か?とりあえずもう一度、店長に、電話はしてみよう。


「…………。分かった。アンミもバイトしたい、ということで良いんだよな?言っとくが、ちょっと変わってる店だ。店長はもうその……、ぼんやりしてるし、優しいのは優しいが、抜けてるところが多いし、陽太というのがいてな?陽太はもう、その、……自由だから、お前がもしかすると不快に思うような言動があるかも知れない」


「うん。私ね、ミーシーとアルバイトしたかった。他の人とも仲良くできたら良いなって思う」


「仲良く、そうだな。逆に仲良くないと間が持たないようなところだしな」


「アンミも少しは覚悟しておきなさい。まあ健介から見てなお変人ということはそれはもう相当な変人でしょう」


「お前が言うな。俺が一般人として真っ当な評価基準を持っているから変人を変人と評価してる。悪いがお前も面白族の一員だ。付き合いが長くなってくると、麻痺してくるもんだが……」


「そしたらもうその店では面白族の方が多数派でしょうが。人を面白族とか失礼な評価するのが真っ当だなんて、あらお上品ね私も参考にさせて貰うわ」


「……撤回しよう。面白族というのは撤回する。店長も良い人だし、陽太も良い奴だ。ただ合う合わないというのはあるだろうし、話を聞き流すようなスキルがないと難しい部分はある。それだけ先に言っておく。だからアンミ、ちょっと我慢することはあるかも知れない。それでもやりたいというなら」


「うん、やりたい。頑張る」


 完全な即答だった。条件提示も何もあったものじゃない。どうしてまたやりたくなどなってしまったのか。


 まあ、順当に考えて、家のキッチンが狭くて調理素材が限られていることが原因かも知れない。お店の設備とかに興味があるかも知れないし、俺のバイト先なら調理実験をしても構わないという話をミーシーが仄めかしていた可能性もある。


 ただアンミの回答から何かを窺うというのはどうやら俺にもできそうにない。そうして遊園地に行った。それはアンミのお願いでそして今日も買い物へ行き、アルバイトへ参加するなどと言う。


 ミーシーがそれを許可するのは俺に対する、牽制でもあったかも知れない。アンミの願う通りにしてあげること、そして外のことなど気にするなという、ミーシーなりの配慮だったかも知れない。


『どれか一つでもアンミのためになるのなら、悪いことではない』それが、どうしてこう的外れに見えるのか。アンミはアンミで思いつきでミーシーを誘っていたりしないだろうか。ミーシーはミーシーでアンミを甘やかし過ぎて無計画に物事を手配していないだろうか。


「じゃあ……、店長に電話する。ちなみに店はまだ開業してないからな。そこも注意点だな。具体的な話になったらその時また話そう」


 採用されてしまった場合は、住所とか連絡先とかどうしようか……。一緒に住んでいますというのをあまりおおっぴらにしたくない。誤魔化しながらやっていくしかないのか。


 受話器を取っていくらかコールの後、店長の声が耳に届いた。


「もしもし、高橋です。店長あのですね……。すごくとんとん拍子に話が進んで、二人、店でアルバイトしたいという子が見つかったんですが」


「嘘っ、本当に?健ちゃんすごいね!さっき電話した時から全然時間経ってないのに」


 確かに……。五分も経たずに二人も求職者を見つけてしまったことになる。


「そうなんですけど……。先に言っておこうと思うんですが、ほら、さっき店長未成年でも歓迎だと言ってたじゃないですか。本当に、それ、大丈夫なんですか?今回その二人が未成年だとして」


「うんうん。全然大丈夫。それで?全然贅沢とかいえないんだけど料理できそうな子?」


「料理は十分できますよ。多分店長の十倍くらいはできます」


「僕の十倍だとお菓子とかももしかして作れちゃうレベル?」


「お菓子作ってるのは見たことない……、けど、多分できるんじゃないですか。お菓子作れるレベルかどうかは定かじゃないんですが、店長は……、自分のことどの程度料理できると思ってるんですか?」


「えぇごめん調子乗っちゃった。多分僕が十人いてもお菓子とか作れないよね」


店長が十人いたら、……なんだろう。言葉にはできないが、店長一人より更に十倍できない集団になりそうなものだが。


「すごいね、健ちゃん、大発見じゃん。どういう関係?健ちゃんお友達いないんじゃなかったの?」


「いないってことないでしょう。そもそも友達百人いたとして、行きたいって言う方が珍しいようなヘンテコ店だから苦労するというだけの話で、友達の多さはあんまり関係ないんですよ」


「ああ、健ちゃん、折角評価上がってたのに、また下がったよ。ヘンテコテンってなんか語呂が良いじゃない。でもヘンテコ店じゃないしさ。なんで当事者がそういうこと言うの?」


「当事者だから……。まあ、とにかく二人がやりたいということなんで、もし店長が良ければそういうことでお願いできますか?」


「すごいなあ、わあ、二人増えるってことだよね。すごい賑やかになるね。あ、そうだ面接やって良い?」


「ん……、そ、それは二人だからってことですか?一人しかいらないとかいう」


「ううん?二人とも欲しいけど、二人とも面接したいんだけどダメ?」


「ダメ、ということはないかな。多分付き合ってくれると思いますけど。要りますか、それ」


「要るよ!こんなチャンス滅多にないじゃん。面接って、ねぇ?質問とかしとかないと、いきなりとかだと緊張するし」


「分かりました。……伝えておきます。店行かせたら良いですか?」


「んー、わざわざ来て貰うの?あんまりまだ準備できてないしさ、店の方は。僕が行くことにするけど住所とかって分かる?スーツ着てくよ!」


「…………。いやぁ、うぅん。住所とかは聞いてなかったかな。いや、引っ越しが?色々よく分からん事情で、一応近くに仮拠点的なところには住んでるんですが、住所はちょっと現状定かじゃない、みたいなことだから、どっか適当なところで、喫茶店とか、俺の家のとかでも良いし、そこら辺はちょっと、あとほら、女の子の家に入れてくれというのは中々こう、逆に緊張する……、じゃないですか」


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