No.0002
彼はストレートに自分が今、一番聞きたかった事を目の前の少女に問いかけた。
「……あなたは今までどこにいたの?」
質問を質問で返されてしまった。そして、その逆質問を受けて彼はハッとした。
今まで、彼はどこにもいなかったのだ。
気が付いたら、この真新しい家に独りぽつんと座っていたので、その質問に答える事は出来なかった。
「どこにもいなかったよ」
「そう」
「気が付いたらここにいたんだ」
「そう」
「ここは、ここでしかないのかな」
「そうよ」
「やっぱりか」
二人は互いを見つめ合ったまま、ジッとして、そして時が数分経過した。
「ねえ」
最初に言葉を切り出したのは少年だった。
「この家の中、歩き回っていい?」
彼は突如、無性にこの部屋の中を歩き回ってみたい衝動に駆り立てられたのだ。
壁のさわり心地はいかがなものか。
天井はどれくらい高いのか、どういう間取りになっていて、どこにどんな家具があるのか、本棚にはどんな本が立て掛けられているのか。
そういう衝動に駆られたのだ。
「いいよ! ぜひ見てぇ」
少年の言葉を聞いて少女の顔はパッと明るくなった。
この家の中を少年に探索される事が今の彼女にとって嬉しい事の様だった。
その少女の赤らめた頬を目にしたとき、また彼の鼓動は跳ね上がった。
自分にこの家を探索される事がそんなに嬉しい事なのかな、と。
ある種の自己肯定感と少女が自分を認めてくれたのだという喜びが重なり、体がほてって、喜びに打ち震えた。
「じゃあ、回るよ」
彼はそう声を発してからサンダルを脱いだ。
初めて踏むフローリングの感触は非常に心地よかった。
ヒタッ、ヒタッと素足が木に触れるその感覚さえ今の彼には喜びに思えた。