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ゼロ月の豹変  作者: あきたけ
プロローグ
1/19

その始まりについて

 



 ふと我に返った少年は、靴も脱がず玄関の段差に腰を掛けて、一人ぼうっとしている事に気がついた。


 そうして「あれ? ここはどこだろう」と思い、周りをくるくると見回してみた。


 広い玄関だった。


 地面にはモスグリーンのタイルが並べてあって、ピカピカに磨かれた革靴が一足とスニーカーが一足、ハイヒールが二足の合計四足が置かれている。



 そして今自分が履いているサンダルはまだ真新しくて、ほとんど地面を踏んだという形跡は見られない。土もついていないし、汚れてもいない。


 裏を見てみたが一ミリもすり減っている様子がなかったので、少年は不思議に思った。


「あれ? 今まで僕は何をしていたんだろう。どうしてこんなところにいるのだろう?」


 と。そしてさらに辺りを見回した。


 自分が誰なのか、ここはどこなのかという真相を確かめるべく、辺りをキョロキョロと見渡した。


 家の中の壁は砂刷りだった。その砂はすでに少量が剥がれ落ちている。


 黄土色の砂の粒がフローリングに少し落ち、宇宙に点在する無数の星のように、まばらに散らばっていたのである。


 案外、砂刷りの壁というものはもろい物なのかもしれないな、と少年は感じた。


 彼はその壁に、銀色のワイヤーで吊るされた小さな絵画が飾ってある事を発見した。


 それは木の額縁に入れられた水彩画で、そこに描かれているのは少年と同い年くらいの少女の絵だった。


 その絵の、非常に可憐な少女の姿を見た時、少年の鼓動は高鳴った。


 少女の魅惑の眼差しは少年の脳裏に張り付いて取れなかった。


 決して化粧などで飾ったりしていない、その清らかな切れ長の目は、全ての男子を魅了するような、そして全ての物語を悟っているとでも言うような……そんな、ある種の危険な眼差しであった。


 その初々しい唇に咥えている人差し指も、白魚を並べたような芸術的な他の指も、さらには手の甲に浮き上がる鮮明な血管さえ、愛おしく思えた。


 彼女の年齢、それはおそらく七~八歳だと推測できる。


 しかし、そんなあどけなさなど微塵も感じさせ無いような、まるで女性を超越しているような、女神のごとく輝く異才は何物にも劣るはずがないと直感できた。


 少年は本能的にその絵画に近づいた。


 近づく時、ほのかに金木犀の匂やかな芳香が漂って、少年を別次元に誘うかの様に一瞬恍惚状態にさせたのである。


 例えるなら危険な快楽。


「ねえ、そんなに私の絵に興味があるの?」


 少年の背後から声がした。




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