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シャイニング・ガール   作者: 花奈よりこ
8/59

インスタントカップル


ひえー!!


勘弁してよぉぉっ。



「先輩!わたし、ずっと先輩のこと見てたんですっ。先輩ほどキレイでカワイくてステキな人はいません!」


ずっと見てたって……。


あたし、まだこの学校に転校してきたばっかなんですけど。


どっか知らないとこで見られたりしてたのかしら。


とにかく、ちょっとコワイんですけど。


「え、えっと。小林さん……だっけ」


「ゆきって呼んで下さいっ」


目からハートビーム炸裂。


ひえー。


そんな熱い視線を送られても困る。


ものすごく困る。


「あ、あのさ。あたしなんて、ついこの間転校してきたばっかで……」


「知ってます!でもわたしは、そのずっと前からひかる先輩が大好きでしたっ。前の学校での写真も持ってますし、ひかる先輩が載った雑誌ももちろん持ってます!」


げっ。


前の学校の写真って、なんの写真?


なんで持ってんの?


「あ、ありがとう。でも、ほら。ゆきちゃん女の子だし、カワイイし。だから、あたしなんかじゃなくて……」


「わたしは、先輩が好きなんです!今、2年の女子の間で先輩のファンクラブが結成されてます。でもっ。わたしは、あの人達よりももっと真剣な気持ちです」


えええっ。


ちょっと待ってちょっと待って。


「いや、ゆきちゃん。なんか勘違いしてるって。あたしなんてさ、まぁ見た目は女だけど、中身はてんで男っぽくて、それはそれはひっちゃかめっちゃかなんだから」


「そこがいいんです。そんな先輩が好きなんですっ。でも、今日のその女の子らしいいつもと違う先輩もすごくカワイイ……。わたし、どんなひかる先輩も全部大好きなんです!」


ずい。


更に近寄る彼女。


「先輩……。こうして先輩と直接お話できるなんて夢みたいです。嬉しい……。わたし、誰よりも先輩のことが好きです。どこまでも先輩について行きますっ」


ヤバい。


これはヤバい。


「先輩……。わたし……」


更に、ずい。


誰か助けてくれっ。


彼女の顔が、もう目の前まで迫ってきている。


げ、げ、げ。


「ちょ、ちょ、ちょっ」


ちょっと、誰かーーーーっ!


そう心の中で叫んだ時だった。



「おす」



え。


後ろから、誰かの声。


た、助かった、救いの声だぁーーーっ。


あたしが藁をも掴む思いでで振り向くと。


なんと!!


そこに立っていたのは。


またしても、あの噂?の桜庭じゃあないか!


どうやら、あっちの廊下から来た様子で、たまたまここを通りかかったらしい。


しかし、なんでこう、ことあるごとに毎回桜庭が現れるんだっ?


あたしがちょっと驚きながら桜庭を見ると。


じーーー。


桜庭が、あたしと彼女交互に視線を向けた。


どうやらこの妙な雰囲気に気づいたらしい。


そして、なんかあったんだな?って顔であたしの方を見た。


「え、えっとぉ……」


たじたじ。


でも……ええいっ。


この際、あたしの救世主として桜庭に手助けしてもらおう!!


手段を選んでる場合などない!


ここで偶然バッタリ出会ったのも、これまたなにかの縁。


許せ!桜庭っ。


意を決したあたしは、ピトッと桜庭の背中にくっついて、ひょこっと顔を出した。


ギョッとする桜庭。


ええい、かまわんっ。


行け、ひかる!!



「あのねっ。こ、この人、あたしの彼っ」



顔を引きつらせながらも、必死でニコニコ。


そんなあたしの方を、ハンマーで殴られたような顔でふりむく桜庭。


「おいっ……」


と、言いかけた桜庭を制して。


合わせろ、バカッ。


ぎゅう。


「いてぇっ」


あたしがつねった背中を、痛そうにさする桜庭。


「ーーーと、いうわけだからさっ。あの、ご、ごめんねっ」


わなわな泣きそうな顔をしている彼女。


「そ……そんなのウソですっ。先輩に彼氏がいたなんて。そんなの聞いてません!誰もそんなこと言ってなかったです!」


げっ。


「あの。つい最近、電撃的にそういうことになってさ、まだみんなも知らないっていうか。とにかく、そういうことなんだよ。あははは」


「そんなの信じられませんっ。だって………」


今度は彼女が、あたしと桜庭と交互に視線を送る。


うわぁ、この子疑いまくってるよ。


見かけによらず、なかなか頑固というか、しつこいというか……。


そりゃ、たった今あたしが勝手に成立させた、でたらめの即席インスタントカップルだから。


ウソくさくて当然だけど。


「絶対ウソですっ。だって、2年生に桜庭先輩のファンの人達いっぱいいるけど、彼女はいないってみんな言ってましたっ」


おお、桜庭のヤツ、3年の女子のみならず2年の子達にも人気なのか。


ああ、そういえば有理絵も言ってたもんな。


これじゃ1年にも相当ファンがいるな。


やるなぁー。


なんて、感心してる場合じゃないぞ。


なんとかごまかしとおさなきゃっ。


そして、1秒でも早くこの状況から脱却したい!


「ホ、ホントにあたし達つき合ってんのっ。ほら、今も桜庭が教室で待ってたんだけど、あたしがジュース買いに行ったままなかなか帰ってこないから。迎えにきたんだよ。なっ!」


必死にニコニコしながら桜庭の顔を覗いたら。


しらーって顔してそっぽ向いてやがる。


おーーーい!


芝居してよ、芝居っ。


この状況がわかっているのなら、いや、絶対わかってるんだから、せめて相づちくらいうってくれよ!


頼むって!


「でもっ。先輩、さっき友達が待ってるからって言いました!それに、そんなにたくさんのジュース……。桜庭先輩は、たまたまここを通りかかっただけなんじゃないですか?」


ギクリんちょ。


「いや、その……」


まさしく、そのとり。


うぐぐ……返す言葉が見つからないっ。


「えっと……その……」


ひかる、ピンチ。


えっと、えっと、えっと……!


ぎゅっ……。


思わず桜庭のブレザーをつかんだら。


桜庭が小さくため息をついたんだ。


そして。



「離せよ、ひかる」



え?


〝ひかる〟ーーーー?


ビックリして、あたしが手を離すと。


桜庭がすっとしゃがみ込んで、あたしが落としたジュースを拾い出したんだ。


「ったくよぉ。ジュースばらまくなよ」


それから、目の前に立ってる彼女を見て。


「コイツさ、張り切ってみんなの分のジュース買いに行ったきり全然戻ってこねーから。なにやってんだって、オレが見にきたってわけ」



桜庭ーーーーー。



あたしは、あまりに自然に振る舞う桜庭の背中をボーッと見ていたの。


なんか、演技じゃないみたい。


はっ。


「あ、ごめん。あたしも拾う」


あたしは慌ててしゃがみ込んでジュースをひとつ拾った。


「あ、桜庭。あたし持つよ」


「いーよ。おまえ、また落とすから」


さっさと立ち上がる桜庭。


「……ありがとう」


そっかぁ。


これは〝フリ〟だけど、つき合ったりすると、男は女に優しくしてくれるんだ。


ふーん。


妙に感心していたら、今まで黙ってこの様子を見ていた彼女が静かに一歩下がった。


そして小さな声で。


「……失礼しますっ」


そう言ってペコッと小さくお辞儀をし、そのままくるりと背を向けるとバタバタと走り去って行ったんだ。


廊下の角を曲がり、彼女の姿が完全に見えなくなったのを確認してから。


あたしは、大きく息を吐きながらその場にへたり込んだ。



はぁぁーーーー。



「やっと、諦めたみたいだな」


隣から、桜庭のやれやれってカンジの声が聞こえてきた。


そうだ、お礼言わなきゃ!


あたしは慌てて立ち上がった。






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