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シャイニング・ガール   作者: 花奈よりこ
6/59

イメージチェンジ


ガヤガヤ。


ざわめく朝の生徒玄関で、あたしはおしとやかに声をかけた。




「おはよう、有理絵」


有理絵がくるっと振り向いた。


「わっ。ひかる、カワイイ!」


どーよ!


いつもタラシっぱなしの髪なんだけど、今日はカーラーで毛先をくるんと巻いて、2つに分けてリボンもつけてみたんだ。


「なかなかだろ?あ、じゃなくて。なかなかじゃないかしら?」


くねっと首を傾け、うふっと口元に手を当ててみた。


「……ひかる、それはいらない」


「いらないのか?」


「いらない。でも、髪型は女の子ってカンジですっごいカワイイ!似合う似合う。お、ネクタイもちゃんとしてるじゃん。えらい!さっそくイメチェンがんばってるね」


「いつもよりちょっと早起きしてがんばってみたぜ。女の子ってカンジする?フェミニンってカンジする?」


「するする」


有理絵が笑顔で大きくうなずいた。


よーし、いいカンジだぞ。


昨日、心に誓ったもんね。


女の子らしいあたしに変身するんだって。


これで、昨日ラブレターくれた子達もあたしへの興味をなくすだろう。


そうすれば、あたしにもきっとステキな恋のチチャンスが………。


くふふふ。


にやけながらカパッと下駄箱を開けると。



バサバサバサーーー。



なんと、またしてもあたしの足元に複数の手紙が勢いよく落ちてきたのだ。


「げっ」


ウソだろっ⁉︎またかよっ。


しかも、なんか昨日より多くないか?


「うわ!ひかる、またじゃん」


周りの人が遠目からジロジロとこっちを見ている。


「ひかる、とりあえず早くしまお」


「う、うんっ」


うぉーーーいっ。


勘弁してくれよぉ!



ガサガサ。


慌てて拾い集めてカバンの中へ放り込んだ。


すると。


ふっと暗くなって後ろに人の気配。


後ろを振り向いて、あたしは顔が引きつった。


なぜなら、そこに立っていたのがあの桜庭だったからである。


げげっ。


なんというバッドタイミング。


「お、おはよう!」


笑ってごまかして足早に立ち去ろうとしたら。


「おはよう。立花、忘れもん」


あっ!手紙!!


拾い忘れていた1通の手紙を、桜庭が拾ってあたしに差し出した。


ちら。


桜庭の顔を見ると、かすかにニヤッと笑っているように見える。


うわー。


『コイツ、また女からラブレターもらってんのかよ』って思ってる!絶対!


「サ、サンキュー」


サッと受け取ると、あたしはダッシュでその場を離れた。


「ひかる、ひかるっ。大股大股!パンツ見えちゃうって」


有理絵にストップをかけられて。


「あ、そうだった」


ポンポン。


スカートの乱れを直してしずしずと歩き出した。


「ねぇ。桜庭、なんか笑ってたよー。知ってんのかな、ひかるが女の子にモテまくりのこと」


有理絵が、歩きながら玄関の方を振り向いた。


「そうなんだよ!実はさ。昨日、机の上に置いてた手紙、うっかり見られちゃってさー」


「ラブレター見られたの?で、それが女の子からだってのもバレちゃったっの?で?で?桜庭の反応は?」


妙にウキウキしながら質問してくる有理絵。


「ずいぶん嬉しそうだな。もしかして、有理絵おもしろがってないか?あたしのシークレットが桜庭にバレて」


じろー。


横目で見ると。


「そりゃそうよー」


ズコッ。


「おいっ」


「だって、桜庭の反応に興味があるんだもん。顔もカッコイイし、背も高いし、頭もいいしでイケてるんだけど、普段あんまりしゃべったことないから。あのクールな桜庭がそういうの見たら、どんな顔してなんて言うのかなって」


「有理絵もあんまりしゃべったことないの?」


「うん。基本的に女子とはそんなにしゃべらないってカンジかも」


へー。


「男同士ではフツウに楽しそうにしゃべってるみたいだけど、どっちかって言うと元々口数多いタイプではないっぽいじゃん?でも、それが逆にカッコイイ!クールガイってカンジでカッコイイ!って、女子達の間ではかなりのモテ男なんだよ。クールガイってカンジだよね、桜庭は。昔からファンも多いんだよ。なにげに学校一のモテ男かも」


ふーん、そうなんだ。


無口なクールガイ、ね。


だからあたしともあんまりしゃべらないわけね。


「でもさ、クールはクールでも、アイツ冷凍便並みのクールだぞ。妙に落ち着き払ってるし。だってさ、あたしのラブレター見た時だって、『同性にモテるのっていいじゃん』とか言って、全く驚きもしないんだぜ?」


「へー。でも確かに、ちょっとやそっとのことじゃ動じなさそうなカンジはあるよね」


そうなんだよ。


みんな大抵驚くのに、アイツだけはフツウだったんだよな。





ガラッ。


教室に入ると、既に来ていた健太が、あたしを見て目を丸くした。


「おはよう、健太」


ニコニコ。


あたしはしずしずと健太の席へと歩いていき、とびきりのお上品な笑顔でほほ笑んだ。


どーだ!


今日はとびっきりの女の子だぞ。


と、自信満々で挨拶したのに。


「な、なんだよ、気持ちわりーな。熱でもあんじゃねーの?」


と、失礼ぶっこきヤローの健太。


むむむ。


「気持ち悪いってなんだよ、気持ち悪いって!」


ついつものようにくってかかったら。


「そーそー。やっぱひかるはそうでなきゃな」


なんて言いながら、ガハガハ笑ってんの。


「ちょっと。人がせっかく昨日の宣言どおり、女の子らしく変身しようとさっそくがんばってきたのにっ」


「無理、無理。やめとけ、やめとけ。おまえが女らしくなったら、雨どころかヤリだのヒョウだの降って大変なことになるぜ。まぁ、やる気と熱意だけは認めてやるよ。がんばった、がんばった」


なんて言いながら、あたしの頭をポンポンしてきた。


「有理絵!健太のヤツ、こんなことを言いやがるっ。なんとか言ってやってくれっ」


有理絵の腕をぐいぐい引っ張る。


「健太、ひかるだってがんばってるんだから。ちゃんと応援してあげて。まぁ、確かにその妙なほほ笑みや妙な仕草にに関しては、気持ち悪いって意見もわからなくもないけど」


ズコッ。


「気持ち悪いっていうか、違和感?たぶん、ひかるの中にある〝女の子らしい像〟がそういうイメージなんだろうけど、なんかちょっと違うのよ。やたらと不自然なのよねぇ。目指すのは、なんていうか……内面から自然に出てくる〝女の子らしさ〟みたいな?」


「なるほど」


「今日のひかる、髪型もすっごいカワイイし、ネクタイもちゃんとしてるじゃない。そういうちょっとした身だしなみに気をつけるだけでも、雰囲気や印象ってすごく変わるから。そういう小さなとこから、ちょっとずつステキ女子目指してこーよ。まぁ、あんまりのんびりやってる場合でもないかもしれないけどねー」


有理絵が意味ありげにあたしのカバンを見る。


その視線に気づいた健太が、ジロリとあたしのカバンを見る。


「さては。また入ってたのか、ラブレター!」


健太ってばデカイ声出すもんだから、あたしは慌てて健太の口をふさいだ。


「しょうがないだろっ。下駄箱開けたら、いきなりまたバサバサッて落ちてきたんだから」


小声で言いながら、周りをちらっと見ると、教室の後ろのドアから桜庭が入ってくるのが視界に入った。


……また桜庭にラブレター見られちまった。


でも、あたしだってもらいたくてもらってるんじゃないやい。


「何通だよ、誰からだよ」


「知らないよ。まだ見てないもん。っていうか、見なくていいんだけど……。でもさ、今日のあたし、かなりイケてるだろ>フェミニンだろ?華麗に変身したこの姿を見れば、手紙をくれた子達の気も変わるだろ」


えっへん。


ふふんと腰に手をあてると。


「どうだかな。オレには中坊のガキにしか見えねーけど」


「なにをーっ?」


「こらこら、2人とも」


有理絵が仲裁に入った。



ちきしょー、健太のヤツ。


ああ言えばこう言うで、褒め言葉のひとつもありゃしない。


まったく失礼なヤローだ。










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